いよいよ大統領選挙の本投票が8日に迫っています。

支持率は接近しています。

日本の読者は(なぜトランプは、これほど善戦しているの?)と首をかしげていることでしょう。

しかしトランプにはロジャー・エイルズというメディア・アドバイザーがついています。

こんにち新しいメディアと言えばインターネットやスマホなので、「メディア野郎」というと田端の信ちゃんみたいな存在になるわけですが、1960年に元祖メディア野郎が登場した頃は、テレビこそがニュー・メディアでした。

有名な、第一回大統領候補テレビ討論会ではジョンFケネディとリチャード・ニクソンが対決します。下はそのときの有名な録画ですが、テレビ映りの良いケネディに対し、ニクソンはたらたら汗をかいて神経質な印象は否めません。



面白い事に、同じディベートをラジオで聴いた有権者は、このディベートはニクソンが圧勝したと思ったそうです。しかしテレビでは、喋っている内容よりも、その人が醸し出しているオーラの方が、はるかに重要なのです。

この大統領選挙でニクソンが負けた後、オハイオ大学を卒業し、KYW-TVで『ザ・マイク・ダグラス・ショー』のプロデューサーを務めていた若造のロジャー・エイルズは(大統領選挙は、カネになるかもしれない……)と感じ、リチャード・ニクソンにアプローチをかけます。

「ニクソンさん、どうやらあなたにはメディア・アドバイザーが必要ですね」
「なんだね、そのメディア・アドバイザーってのは?」
「それはつまり……わたしです!」

こうしてロジャーは押しかけ女房のような強引さでニクソンのメディア参謀になり、『ザ・マイク・ダグラス・ショー』にニクソンを出演させました。

たまたまその日の番組ではリトル・エジプトも出演しており、ニクソンは「大統領に選ばれるには、こんな策(ギミック)を弄することまでしないといけないのか」と、いつもの癖でメランコリーな発言をします。



「テレビはギミックではありません。そんな考え方では…ニクソンさん、あなた、また選挙で負けますよ!」 

ロジャー・エイルズはそう言って、ニクソンの顔が汗でテカテカ光らないようにパウダーをあて、上瞼に疲労の色が出ないよう、明るいファウンデーションを塗るなど、隅々まで気を配ったイメージ作りを行っていったのです。

その後、ロジャー・エイルズはFOXニュースを立ち上げたことは有名です。

さて、ロジャー・エイルズはかねてからドナルド・トランプに目をかけていて、トランプが不動産投資で大失敗をやらかした後で、リアリティー・ショーのメディア・スターとして返り咲く際、いろいろアドバイスしました。

トランプのスピーチには歴代の共和党の大物たちが使った、キー・フレーズが散りばめられています。

たとえば「サイレント・マジョリティー」というのは有名なニクソンの演説からのパクリですし、「ロー&オーダー」というのも伝統的な共和党の価値観です。さらに「力を背景とした平和(Peace with strength)」というのはニクソンがベトナム撤兵スピーチで使用した「peace with honor」の使い回しですし、そのニクソンのスピーチ自体はビクトリア朝の時代の英国の首相、ベンジャミン・ディズレーリのスピーチからのパクリです。

つまり聞く人が聞けばトランプのスピーチには正統的な共和党のスローガンや価値観が随所にちりばめてあるわけです。

それを(たんなるヒヒ爺だ)と思っているから、トランプの意外な善戦で相場的に足下をすくわれるわけです。

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