HOME > レビュー > ステレオサウンド50周年記念企画『コンテンポラリー・レコーズ』SACD BOXの魅力に迫る(1)
2016年11月 4日/嶋護
5人のオーディオ評論家が選んだウェストコースト・ジャズの名盤を、スティーヴ・ホフマンのリマスタリングでSACD化
ノー・ブレイナー(no brainer)という英語の言い回しがある。あまりに明白過ぎて選択や決断に頭を使う必要のないことをいう。ステレオサウンドが創立50周年を記念して企画した「オーディオ名盤コレクション」は、名演奏・名録音のマスターテープを独自に音楽ソフト化するプロジェクトだが、その劈頭を飾る『コンテンポラリー・レコーズ』SACDボックスほど、ノー・ブレイナーという言葉が似合うものもそうはない。
コンテンポラリーとは、もちろん、優秀録音でも名高いウェストコースト・ジャズの名門レーベルのことである。そのカタログから今回ハイブリッドSACDとしてリリースされるのは全部で10タイトル。5タイトルずつを収めたボックス・セット(『Vol.1』と『Vol.2』)が、4月と5月に発売された。タイトルの選択には5人のオーディオ評論家があたり、1人2タイトルを推薦した。10タイトルは、それぞれオリジナルの形態のままで発売される。分売はない。
このセットの最大の特徴であり、その価値を限りなく高めているのが、スティーヴ・ホフマンによるリマスタリングである。ホフマンの名前が最初にわれわれの視界に入ってきたのは、1990年代の初めにDCC(ダンヒル・コンパクト・クラシックス)というレーベルから発売された24金ゴールドCDとLPのマスタリング・エンジニアとしてであった。DCCのゴールドCDは、2000年までにディラン、ドアーズ、イーグルス、ポール・マッカートニーといったロックや、マイルス、コルトレーン、ビル・エヴァンスといったジャズの名盤を合わせて116タイトルが出た。今日ではそのすべてがコレクターズ・アイテムとされ、世界中のコレクターが追い求めている。
DCCはその後経営陣が少し変り、社名がオーディオ・フィデリティ(Audio Fidelity)へと変ったが、現在に至るもホフマンのマスタリングを中心に続々とリリースを続けている。オーディオ・フィデリティは当初数枚のジャズCDを出したが、その後はフュージョンやポピュラー・ヴォーカルが少しあるだけで、ストレートアヘッドなジャズは一つもない。その理由は単純にジャズのCDを出しても高額なライセンス・フィーに見合う採算がとれたことはただの一度もなかったからだ。
DCCのジャズ・タイトルは、当時からその優れた音質で高く評価されていたが、それでも商業的にはまったく報われなかった。ステレオサウンドが今日「オーディオ名盤コレクション」を始める意義もまさにそこにあるのではないだろうか。CDバブル期と呼ばれた1990年代でさえ難しかったハイクォリティ音楽ソフト出版の企画と運営は、もはやほとんど不可能なことである。それでも、その嚆矢が、ホフマンのマスタリングするジャズであったことは、図らずも、伝説のDCCジャズの衣鉢を継ぐ格好になった。そこに筆者はこれ以上ない吉兆を見る。しかも、そのプロダクツは、ホフマン自身の成熟と、デジタル機器の性能向上のおかげで、DCCよりも優れた結果を出す環境が得られたのである。
selected by 三浦孝仁 & ステレオサウンド編集部『Art Pepper Meets The Rhythm Section』(SSCR-001)、アート・ペッパー(as)、レッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)、録音:1957年
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