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[FT]英EU離脱、議会承認求めた司法判断は正しい(社説)

2016/11/4 15:30
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 英国の法律家エドワード・コーク卿は1610年の「布告事件」に絡み「王権といえども特権は有せず、国の法律が許す権限のみを有する」と結論付けた。この判断は英議会に帰する主権の確認に寄与した。400年後の現在、英高等法院がこの判断を引用し、法の支配の原則を肯定した。これは絶対的に正しい判断だ。メイ政権は議会の承認なしに、欧州連合(EU)からの離脱通知のためにEU基本条約(リスボン条約)第50条を発動することはできない、というもの。

EU離脱の権限は英議会に帰するとの判断を下したロンドンの英高等法院=AP
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EU離脱の権限は英議会に帰するとの判断を下したロンドンの英高等法院=AP

 高等法院による青天の霹靂(へきれき)の判断で、離脱に向け不確実性が高まっている。EU各国の首脳はもっと困惑することになろう。英国内の離脱支持者は、国民の意志を覆すものと不満をあらわにしている。だが、これこそ法の支配で、これにより英国の民主主義が機能する。

 1972年EC(欧州共同体)加盟法を受け入れ、英国は欧州の一員となった。英政府は、「国王(女王)大権」から派生した行政部大権に基づき、離脱条項を定めるリスボン条約第50条を発動し、1972年EC法による決定を覆すことが可能だと主張した。高等法院は、EC加盟法は「EUの法律を英国内法に組み込む」ことを意図したものであるとして、政府の主張を退けた。この司法判断こそ、まさに離脱派が強い異論を唱えている点であり、また、議会に確固とした権限を与える論拠である。離脱派の憲法尊重論者は議会の優越性に異論はあるまい。

 とはいえ、一般論として、憲法は国民の意志から権限を得ている。英国は6月の国民投票でEUからの離脱を決めた。EU基本条約第50条を巡る議会の議論でその決定が覆されるべきではない。それでも、議会の議論は、離脱の手続きや条件に関して国民が強く求める透明性をもたらすだろう。国民投票の問いが11単語のみで、「第50条」や「貿易」、「移住」といった単語が含まれていなかった点を考慮すると、議会の議論は絶対に欠かせない。6月の国民投票にはさまざまな思惑が絡んでいた。離脱という単純な決定を超えて、国民投票の本当の意味を理解していると自賛したのは、投機家か、党派性を強調したがる者だけだった。

 メイ首相は、国民投票の結果で、英国民から、貿易の自由よりも人々の移動の自由を制限するよう負託されたと解釈したようだ。これは有権者が望んでいることかもしれない。それでも、メイ首相を取り巻く助言者だけの閉ざされた場で国民の負託を議論するのは誤りである。単一市場に留まることをマニフェスト(政権公約)に掲げる保守党政権を率いるメイ内閣ではなおさらだ。国民投票自体は、憲法による権限というよりも、むしろ政府への助言の意味合いがある。国民の負託の意味は公の場の議論の中で肉付けされなければならない。議会での討論がそれを可能にする。

 政府は高等法院の判断を上訴するとしている。再び敗訴すれば、メイ政権は解散総選挙に打って出る誘惑にかられるかもしれない。労働党が混乱状態であることから、保守党が過半数を大きく超える議席を得て、同党が望む形の離脱交渉を行う国民の負託を得る機会に恵まれることにもなろう。

 総選挙の選択は賢明であるまい。総選挙となれば、英国と欧州との関係で核心的な問題が、その他の国内問題と絡み混乱を生じよう。メイ首相は、議会が故意に義務を回避し、議論が収拾不能な状態に陥った場合か、または、議会が国民投票の結果にあからさまに逆らった場合にのみ、総選挙を行うべきだ。

 メイ氏は、離脱交渉にどう臨むかを大まかに記した「グリーンペーパー(緑書、政策提案書)」と関連法案を提示すべきだ。しかし、慎重に運ばねばならない。同氏は欧州に交渉の手の内を見せ過ぎてはならない。議会の役割は、英国の交渉スタンスを決めることではなく、計り知れず重大な離脱交渉が始まる前に、国家の優先順位を定めることだ。

(2016年11月4日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.


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