こんにちわ、サユです。
うつ病の治療法の一つとして、運動療法が挙げられることがあります。
「運動がうつ病を改善に向かわせる効果を持つらしい」というのは、ちゃんと学術的に実験・調査を行なった結果として発表されている、それなりに根拠のある話です。
運動とうつ病の関係を調査する大々的な実験として有名なのはアメリカで1999年に行われたものですが、「運動がうつ病に効く」という調査結果は1970年代から繰り返し報告されています。決して目新しいものではありません。
はてなブロガーにはおなじみの「瞑想、運動、野菜」のうつ病撃退三点セット(?)の中では、一番昔から存在するものなのではないでしょうか。
しかし、最近、運動療法どころではない、筋肉万能説とでも言うべき主張をチラホラ耳にするようになりました。
筋肉を鍛えれば全てを解決できると言わんばかりの勢いです。
例えば「うつ病を治したければ筋トレをしろ」とか、ね。
うつ病に筋トレが効く!とか書いて、スポーツジムへのリンクが貼ってあるwebページなんか見てしまうと、腹が立ちますよ。
筋トレであまねくうつ病が治るのであれば、精神科にスポーツジム設備があるハズでしょうに。
筋肉万能説を100%否定することは私にはできません。
それだけの根拠を用意することができないからです。
実際に困っている人がいる病気の治療法の真偽について語るためには、それ相応の実験結果が必要だと私は考えています。
ただ、うつ病で苦しんでいる人に向かって「そんなの筋トレすれば治るよ」「筋トレしないからいけないんだよ」なんて真剣にのたまう人が現れることを危惧しています。
「瞑想、運動、野菜」なんて、半分ウケ狙いで言っているくらいならばまだ構いませんけれども。
筋肉はどん底のうつ病患者を救いません。
これだけは私にも断言できます。
ついでに言えば、運動療法にも、どん底のうつ病患者を救うことはできません。
健康な人ってのは、一番肝心なことがわかっとらんのだよ。
運動なんかできねェよ。
筋肉万能説論者は、うつ病を「気分が沈んで死にたくなる」だけの病気だと思っているのでしょうか?
筋トレによって分泌されるセロトニン?テストステロン?……詳しいことは知りませんが、その効果で気分が上向く可能性については否定しないでおきましょう。
無心で筋トレをすることが精神的に悪いとは思いませんし、筋トレを続けて成果が目に見えれば達成感を覚えることもできるかもしれません。
でもね。
言ったでしょう、健康な人は肝心なことがわかってないんだ、って。
「筋トレくらいなら誰にでも簡単にできるよね」って思っていませんか?
とんでもないです。
それはとんでもない思い違いです。
私のうつ病が一番ひどかった時、どんな状態だったと思いますか?
まず、起き上がれませんでした。
そんなに筋肉が萎えてしまっているハズが無いのに、動かせないハズがないのに、四肢に鉛を乗せられたみたいに重くて、普通に手足を動かすことすらままなりませんでした。
通院のためにはどうしても外出する必要がありましたが、ヨチヨチという形容が相応しいようなぎこちない二足歩行がやっとだったので、母親による介助は欠かせませんでした。
どんなに頑張っても、脚が重くて、感覚が無くて義足みたいで、歩けど歩けどちっとも前に進まなくて、それなのにすぐに疲れてしまって。
……もう10年以上前、高校を卒業した少し後くらいのことです。
その当時から、うつ病に運動が効果的だという話は耳にしていました。
うつ病の治療法について調べていれば、必然的に目に入る情報でした。
でも、無理です。
とてもじゃないです。運動なんかできなかったです。
歩くことすらまともにできないのに、「運動が効果的!」なんて言われたって、自分の不甲斐なさに打ちのめされることしかできませんでしたよ。
うつ病は精神症状だけの病ではありません。
多くの場合、身体症状を伴います。
私のように、精神的にはかなり元気になっても身体症状が根強く残るタイプのうつ病患者、なんていうのもいるんです。
健康な人なら「あれをやりたいな」と思ったら、そのまま実行できるでしょう。それが普通でしょう。
うつ病患者は違います。
「あれをやりたいな」と思っても、「やりたいけど身体がしんどくてツライ」という理由で実行することができないんです。
それがうつ病患者の「普通」なんです。
そんな、普通じゃない状態が「普通」になっているうつ病患者に「そんなの筋トレすれば治るよ!」なんてあっけらかんと言い放つ人がいたら、もれなく蹴り飛ばしてやりたい気分になりますよ、私としてはね。
誰もが運動好きだとでも思ったか?
もう少し例として私の話をしましょう。
私はもともと運動が嫌いです。
とりわけ、うつ病に効果的だと言われている有酸素運動は健康な時分から大嫌いでした。
無酸素運動(短距離走・幅跳び)は好きだったんですけどね。
ほんの少しだけ体調が改善した20代初めの頃、私は毎朝の軽いジョギングを自分に課しました。
「うつ病には運動が効果的だ」という情報に縋るような思いでした。
でも、続きませんでした。
だって、私にとってジョギングなんて苦しいしつまらないし疲れるし、苦行以外の何物でもないんですから。
それでも根性で自分にムチ打ってなんとか続けてやろうと頑張りましたが、最終的にはジョギングをする為に外に出ただけで過呼吸に陥って苦しさのあまり泣きながら帰ってくることを毎日繰り返すようになり、親に「もうやめろ、無理するな」と言われてやっと諦めました。
そういうことが、ありました。
運動も、筋トレも、楽しいならやればいいと思います。
やってて気持ちいいと思えるなら是非やればいいと思います。むしろどんどんやってくれ。
ですが、世の中には運動が嫌いな人もいます。
嫌いの度合いも人それぞれだとは思いますが、私のように運動が嫌でむしろ体調が悪くなってしまうようなタイプの人だっているんです。
ストレスを感じながら嫌いな運動に取り組むことが、うつ病の改善に効果的であるとは私にはどうしても思えません。
だから、「運動すれば治る」「筋トレが全てを解決する」といった、うつ病患者にもいろんな人がいるのだということを無視した雑な理論には、自分の経験を踏まえて、どうしても異を唱えたいんです。
うつ病患者に運動を押し付けるのは浅はかな考え。
重いうつ病を患うと、寝たきりになる時間が長くなったり、活動量が減ったりして、どうしたって体力は落ちます。
私も、自分の不調がうつ病によるものなのか、体力不足によるものなのか、わからなくなることがしばしばあります。
体力が落ちている人には、筋トレも、ジョギングどころかウォーキングさえも、ハードルが高過ぎます。
もしかしたら最初の数日は続けられるかもしれないけれど、恐らく数日後にガクッと反動がくるはずです。
うつ病患者の場合、「反動」は疲労感だけでなく、精神的な落ち込みも伴う場合が多いので非常に厄介。
しばらく鬱々と寝込む羽目になったり、ひどい時には「やっぱり自分はダメだ。死にたい」なんて気持ちに襲われたりします。
1999年に行われたアメリカの実験は、うつ病に対して運動が「標準的な薬物療法と同程度に効果的」であるという結果を示しました。
しかし、そもそも「実験(16週間かかったそうです)に参加できる程度の症状のうつ病患者」でなければこの実験には参加することさえできなかったワケで、この結果をそのままうつ病患者全体に適用して考えるのは浅はかでしょう。
実験に参加した人の中にはそれなりに重症の人もいたそうですが、私にはちょっとできる気がしませんね。
「運動で!筋トレで!うつ病が治った!」という話を聞くと、「逆だよ!うつ病が良くなってきたから運動とか筋トレができるようになったんだよ!」と心の中でツッコミを入れずにはいられません。
まったく、世の中、原因と結果を取り違えた話が多過ぎやしないか。
もしも運動ができるレベルまで回復して、実際に運動することができるようになったならば、うつ病は加速度的に改善するだろうと私は考えています。
それこそ、実験結果が示したように、抗うつ薬並みの効果があるかもしれません。
でも、そこだけを切り取って「運動でうつ病は治る!運動しないから治らんのだよ!」と言ってしまうのだとしたら、ちょっと考えが足らないんじゃないかと、思うのです。
もしも外に出ることが苦痛でなくて、うつ病を治すために身体を動かしたいと思えるのならば、天気が良い日の散歩程度から始めるのが良いでしょう。
長々と歩いてくる必要はありません、10分でも5分でも良いと思います。
それだって家から出ない生活と比べたら雲泥の差ですからね。
ちなみに私は、自宅のベランダで日光に当たるところからリハビリを始めて、最近ようやく、外に出ようかなと思った時に外に出られるレベルまで持ち直してきました。
私は本当に外出するのが嫌いで、散歩の楽しさを一切理解できないタイプの人間なのですが、最近カメラを親から借りたので、天気と体調が良い日はカメラを持って近所をうろうろするようにしています。
被写体はその辺の花とか畑の野菜とかです。
平日昼間に外をうろうろするというのは、堂々と無職宣言をしているようなものなので、多少の抵抗を感じないこともないのですが、そこはなんというか……慣れるしかないですよね(苦笑)
以上が、私の主張です。