哲学者のヘーゲルは「テーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼ」という言葉で歴史の経過を描写した。特定の見解が通用する初期段階があり、次に反対のことが起き、その後、妥協するプロセスだ。今のところ「ブレグジット(英国の欧州連合=EU=離脱)」の議論は律義にヘーゲルの論理に従っているように見える。
英国はEUに残留するという一般的な前提は、6月の国民投票の後、アンチテーゼに道を譲った。「ハード(強硬)」な離脱の見通しがそれだ。そして今、日本の日産自動車のおかげで、あり得るジンテーゼが垣間見えた。英国がEU単一市場の正式加盟を継続する「ソフト(穏健)」な離脱の可能性である。
日産は先週、主力2車種の次期モデルをイングランド北東部のサンダーランド工場で生産すると発表した。テリーザ・メイ英首相――10月中旬に日産のカルロス・ゴーン社長と会談した――からの確約なしで、日産がその決断を下せたとは思えない。EUの関税同盟そして単一市場にとどまれる見込みがない限り、日産がこれらの車を生産することは理にかなわない。
メイ氏は最終的に、これ(ソフトブレグジット)が英国にとって最善の選択肢だと結論づけると筆者はみている。特に、さまざまな出来事が首相を引っ張っていく先が、ここだからだ。目下、メイ氏は離脱の選択肢を多く見積もっている可能性がある。同氏は先週「関税同盟を対処する方法は(残るか出るかの)二者択一ではない」(同氏の発言)を理解しなかったといって野党・労働党のある下院議員を戒めた。この議員は正しい。間違っているのはメイ氏のほうだ。
■離脱がハードなら日産は英にとどまらない
EUは産業独自の関税同盟を与えてはくれない。労働者、資本、モノ、サービスの移動に関する4つの自由は分割しないし、4つの自由のどれについても、その内部での分割を許さない。自動車の移動は自由だが、自転車の移動は自由ではないというのは、最初から話にならない。
最終的な離脱の選択肢にも、似たような論理が当てはまる。単一市場にとどまることも、とどまらないこともできる。関税同盟にとどまることも、とどまらないこともできる。「イン」と言えばインであり、「アウト」と言えばアウトだ。もし英国が要求すれば、EUはきっと英国が単一市場にとどまる協定を与えてくれるだろう。ドイツ人などは英国からの訪問者に、離脱はハードになるぞと言うかもしれないが、ドイツ人が国内で互いに話していることは、そうではない。
ドイツは昨年、対英貿易で560億ユーロの黒字を記録している。原則に基づく立場などという高尚なもののために、ドイツ人がこれを犠牲にすると本気で思えるだろうか。ドイツ人が4つの自由について妥協しないと言うとき、筆者はその言葉を信じるが、もし英国が望めばソフトブレグジットを与えてくれる意思があることも信じている。というのも、ソフトブレグジットはドイツにもソフトからだ。