経営者が多くを学んだ日本シリーズの監督采配
広島から北海道まで、全6戦を観戦することになった日本シリーズ。わがカープは惜しくも日本一を逃しましたが、勝負としては実におもしろいシリーズでした。
野球に興味のない方は、しばしご辛抱のうえお読みいただきたいのですが、実際に見ていて思ったのはやはり、短期決戦における戦い方の差です。
日本ハムの栗山監督は、流れを引き込むためにはシーズン中には全くあり得ないような用兵をも躊躇なく多用しました。大谷投手が初戦で打たれてしまって、かなりショックはあったはずですが、その後札幌では大谷の先発ローテーションというカードを切り捨てて、DH専門で使うという実に大胆な采配。
そして、第3戦でサヨナラヒットを打ったのはその大谷選手です。石原捕手も「あの高さのボールがヒットにされたら仕方ない」とコメントしていたくらいで、ほかの選手では絶対ヒットにできないボールでした。
一方、大谷を警戒するあまり、後続の中田、レアード選手にホームランを浴びる、という最もやってはいけないことをやってしまったカープ投手陣。
さらに緒方監督はシーズン中の勝ちパターンに固執し、ハム打線にタイミングのあっていたジャクソンを下げられなかったことが最後も響きました。投手起用に関しては先発が怪しいと見るや、1回で降板させ、シーズン中では絶対やらないメンドーサ投手の投入を敢行し、カープの攻撃の目を摘んでしまったことが結局、6戦でハムを勝利に導くという凄さ。
経営者の方は、大いに参考にすべきでしょう。ここ一番で大勝負をするときは過去の成績や成功体験に拘泥してはならぬ、という大変な教訓を得たシリーズだったのではないでしょうか。
カープおやじであるワタクシは正直悔しかったわけですが、このあたりの用兵を見ると栗山監督のマネージメントコントロールに脱帽するしかありません。まあ、緒方監督には来年頑張ってもらいましょう。
さて、ずっと野球の話をするわけにもいかないのでスポーツと地方創生、という切り口を投入したいと思います。
広島の圧勝だった「広島VS札幌」の地方対決
今回の対戦には東京のチームがおらず、いわば地方対決となったわけですね。
広島は町中、デパート、銀行はほぼすべて横断幕を掲げ、バス、タクシー、その辺のクリーニング屋さんに至るまで「カープ優勝!」というステッカーを張り、ビルの建設現場にまでも「優勝おめでとう」の幕が張られていたりする。もう、町中がカープ1色になっています。ローカルのラジオ、テレビなどではそれこそ朝から晩まですべてカープの話題が満載で、もう一日がカープ中心に回っているというのが全く冗談ではないのです。その盛り上がりはすごい。
この勢いで札幌に行って見ると……驚いたことに日ハムの文字を探すのにひと苦労。さすがに球場そばのイトーヨーカドーでは「日ハムリーグ制覇!」という旗を見ました、これが実に地味。
札幌市内では、ここで日本シリーズがあるとはどう見ても思えないわけです。この「市民への浸透度」という点では広島の圧勝です。
前にも書いた通り、広島は老若男女、すべての市民が応援していると言っても過言ではありません。実際CS、日本シリーズの視聴率は平均で50%を軽く超え、CSの最終戦の瞬間視聴率は70%を超える、という驚異の数字。これはもう大人はほぼ100%見ている、と言っても過言ではありません。まあ、日本ハムが札幌に来てまだ日が浅いということを割り引いても、ここはカープの圧勝です。
このカープ人気を支えているのがマツダスタジアム。このスタジアムに関しては、地方創生に関する非常に重要なピースなので、ひとこと言っておきたいわけです。
マツダスタジアムは完全に「ボールパーク」として設計されています。つまり野球を見るためのスタジアムというスペシャルな存在なわけです。
実は元々は札幌のような全天候型の5万人収容のドーム球場が計画されていて、総額350億円の予算が付いたのですが、「そんなものを維持するような使用料は絶対に払わないし、アメリカにあるボールパークを作るべきだ!」と、最後までこだわった松田オーナーの主張があったのです。
また、維持管理費を考えると、この施設を維持することが難しいのでは、という金融機関の意向も大きく働きました。通常だと「補助金が出るからいいや」、とばかりにとんでもない施設をつくるということをしなかった。結果的に数々のソフトコンテンツを駆使し、例えば球場のコンコースを一周ぐるっと歩けるようにつなげたためにさらに野球が見やすい、という大きな財産を得て、観客動員数の増加にも貢献しています。
一方の札幌ドーム。これは正直参りました。1塁側の前から5列目という良席に座ったにもかかわらず、前の人の頭が邪魔で、顔を横に移動しないとホームベースが見えない。
観客席が元々地上から数メートル上がっているためにグラウンドからそもそも遠い。これでは野球観戦の楽しみが半減です。さらには階段の段差があまりにも大きく、ご老人は上まで上がるのに何回もお休みになっているのを多数目撃しました。
これはマツダではあり得ない光景です。フロアも2階建てになっていて、しかも下のフロアにしかトイレがないために、ご老人はそれこそ下がって上がって、また上がる、ということを繰り返す羽目になり、ワタクシのお隣のおじい様は「トイレに行くのがしんどいのでビールが飲めない」、とぼやいておられました。
ワタクシの経験からすると補助金を取ると、野球専用スタジアムは恐らく許されないと思われます。札幌市民が100%野球ファンである、という保証はないので、コンサートやその他のスポーツにも適用する多目的施設という切り口ではないと補助金は出にくいのです。
札幌ドームは総工費約450億円だそうで、これは補助金なしには不可能な数字です。で、結局補助金を取るという前提で建設していまい、野球を見るには実に見にくい施設を作ってしまう。最大公約数を狙うがあまり、どの施設としても中途半端、という「いつもの公共施設の悪弊」がもろに出ています。
さらにいつも申し上げているように、建設費を丸々国に面倒を見させたとしても(実際は半分は札幌市の負担のようですが)、その後の維持管理費が膨大です。
建設費が「維持費も含めた金額全体のほぼ3分の1」と言われていますので、総額約450億円で建設した札幌ドームは、仮に耐用年数を20年とするならば、なんと900億円の維持管理費がかかることになります。
これは20年で割っても1年あたり45億円。あり得ませんが365日興業をすると考えても、一日あたりなんと1200万円程度の利益がある興業を引っ張ってくる計算になります。
これは絶対に不可能な数字で、結局このドームの維持費は札幌市民の負担にならざるを得ない。挙句の果てには、ドームにとって一番の収入源は日本ハムからの使用料なのに、肝心の野球が見にくくて仕方がないという顛末。これでは何のために作ったのか意味不明。盟友の木下斉(ひとし)君(東洋経済オンラインで連載中)の言葉を借りるなら、まさに「北の墓標」に近いと言わざるを得ない。
ちなみにマツダスタジアムの総工費は約80億円。同じ計算をすればわかりますが、おおざっぱにいえば札幌ドームの約6分の1の200万円程度の利益が上がればいい勘定。カープの使用料、及び球場での飲食の売り上げなどで十分採算が取れる範囲です。
冬の間は観客動員が非常に難しいであろう、あの札幌ドームを今後どうやって維持していくというのでしょうか。冬でも暖かく快適だというのはわかりますが、最大の収入源である野球は冬にはやりません。
こういった地方経済の発展にいかに貢献するか、という地方再生という観点から見ても、ここは広島の圧勝ですね。もちろん歴史が違うというのはあるでしょう。しかし、野球を「一つの地方ビジネス」とみなして、そこで如何に収益を上げていくのか、という観点があればこういう施設は作らなかったはずです。
一方で野球というコンテンツの価値を最大限に上げることにこだわった広島の決断は見事だったと思います。実際にマツダスタジアムができてから、観客動員数もグッズの売り上げも右肩上がりなのですから、結果は明らかです。アメリカの野球ファンの間でもマツダスタジアムは有名で、多くのアメリカ人が観光のついでにマツダスタジアムを訪れるのは偶然ではないのです。
「分不相応の大型施設」を作るのは「大罪」に等しい
いつも言うことですが、まずはその施設の維持管理費を賄って行けるかどうか、という民間では当たり前の採算という考え方が何にもまして絶対に必要なのです。市民の娯楽だからそれは公的資金で賄えばいい、という人がいますが、最後、それを払うのは「ほかの地域の国民」になるのです。ほかの地域の人にツケを回して分不相応の大型施設をつくるなど、もはや「犯罪のレベル」です。そんなものを日本全国で維持管理していく余裕はもはやありません。
札幌の方には本当に申し訳ないのですが、せっかく野球というすばらしいコンテンツがあるのに、それを活用してビジネスを展開し収益を上げていない、というのであればそれは宝の持ち腐れでしょう。数少ないプロ野球のフランチャイズ都市として、失礼ながら札幌は努力する必要がありそうです。
「親会社があるのでまあいいや」、と思っているかもしれませんが、こんな球場だと日ハムもいつまでここでフランチャイズを持つかわかりませんよ。そうなったら札幌ドームはまさに「墓標」。まさか爆破するわけにもいかないんですから、他の都市はこういう施設はもう作らない、という他山の石にして頂きたい、と思います。
追記)これでワタクシ、夜の札幌を歩けなくなりました(苦笑)。
ということで、いよいよ秋競馬も本格化。今週はGⅠこそないものの、東西合わせて4つの重賞がある、という楽しい状況なのですが、今回はアルゼンチン共和国杯を取り上げたいと思います。
アルゼンチン共和国杯は「あの元ダービー馬」等に注目
このレース、G1の「ハザマレース」と揶揄されることが多いのですが、いやどうしてどうして、近年ではこの後のJC(ジャパンカップ、11月27日)、そして有馬記念(12月25日)、はたまた来年につながるレースとして重要性が相当増しています。特にJCの参考レースとしては同じ東京競馬場を初めて走る、という馬も多いために重要なヒントとなり得ます。
注目の1頭は元ダービー馬で、その後どうにも調子の出ないワンアンドオンリー(牡5歳)。ひと夏を越えてどうなっているのか。9月のGⅡは7着でしたが、終わってしまったのか、はたまた巻き返すか、これは見どころです。
さらには最近絶好調の「大魔神」佐々木主浩さんの持ち馬、ヴォルシェーブ。関係者の話を聞くと、このオーナー、現役時代とは異なり(?)、かなり緻密に参加レースを吟味するようで、これまでの実績も決してフロックではなさそうです。今回はM・デムーロ騎手が騎乗することもあり、ここは軽視は禁物と見ました。
その他、シュヴァルグラン、3600メートルを楽に勝ちきったアルバートなども注目しておいていいと思います。
さて、どうなりますか。ここから有馬記念まで、がんばって稼ぎましょう!