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「今の取材体制を維持するためにこそ、デジタルでのマネタイズが不可欠」~「週刊文春」編集長・新谷学氏インタビュー~

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「リスクを恐れずに“都合の悪い情報”を発信するメディアは必要」

-最近では、政治家や著名人が本人のブログやTwitterで報道に反撃するケースがあります。橋下大阪市長などが代表的だと思うのですが、こうした反論については、どのように受け止めているのでしょうか。

新谷:誰もが発信ツールを持っている時代ですし、橋下さんに「そういうことはやめてくれ」と言っても仕方ありません。第2、第3の橋下さんだって出てくるでしょう。それが当たり前の時代なんだという前提の上で、どう向き合っていくかが重要だと思います。

政治家が様々な形で情報を発信することに意味がないとは思いません。しかし、忘れてはならないのは、彼らは自分にとって都合がいい情報しか発信しないということです。「自分で発信しているからいいじゃないか」ということには絶対になりません。

特に橋下さんのように大きな発信力を持っている人については、本人には都合が悪いけど、みんなが知っておいたほうがいい事実を発信することが必要です。それこそが我々の存在意義だと思います。

-「本人が言ってるのだから正しい。真実だ」と考えてしまう人も多いように思います。

新谷:そこは世の中の価値観の変遷が現れている部分だとも思います。「本人が言ってるんだから正しいんだろう」。もっといえば、そもそも「人のプライバシーを暴いて何が楽しいの?」と考える人もいると思います。問題なのは、誰のプライバシーなのか、という点です。権力者や大きな影響力を持つ人が自分に都合のいい発信しかしない世の中になったら、恐ろしいですよ。リスクを恐れずに、そうした人たちの“不都合な真実”を伝えるメディアは、絶対必要だと私は思います。

橋下さんに関しては、色々ありましたが、コスプレ不倫問題「スチュワーデス姿の私を抱いた」を報じて「今回はバカ文春のバカは付けられないな」と会見で言われた時には、編集部でみんな快哉を叫びました。

やはり、それはファクトの力。事実の勝利だと思います。結局、我々はファクト、事実の重みで武装するしかない。相手が突きつけられてぐうの音も出ない事実、都合が悪くても認めざるを得ない事実を突きつけていく。そういうメディアは絶対必要です。

-反撃があることも考慮して上で、事実を積み上げていくしかないと。

新谷:事実を立証するためのハードルは上がっています。名誉毀損訴訟などでも非常に厳しい結果が多くなってきています。昔であれば通用したものが通用しなくなってきていて、例えば、「匿名証言はダメ」「実名でも供述がちょっとブレていたりするとダメ」と判断されて事実認定されないケースもしばしばです。あるいは、「これは事実かもしれないけど、プライバシー侵害だからダメ」となって負けてしまう。

報道する側が、相手にとって不都合な真実を報道するのに厳しい、過酷な時代になっているのは確かでしょう。「じゃあ、やらなくていいのか」といえば、私は絶対必要だと思っているので、その信念のもとでやっています。

最近ではメディアがそういう戦いの場から降り始めているように思うんです。リスクが伴う権力、発信力・影響力を持っている人にとって、都合の悪いところに切り込んで勝負をするメディアというのがどんどん減っている。

原因には、そのスクープだけでどこまで売れるのか、という問題があるでしょう。昔のように、「完売!完売!」となれば、どこも降りないと思いますが、正直言って、社会的意義はあっても、売れないスクープもある。さらに訴訟のリスクも高まっている。そうした状況や効率を考えたら、「もうちょっと楽に稼げるんじゃないか」となってしまう。昔のコンテンツを焼き直して、もう1回載せようみたいなところも増えている。

それでも、私はいくら殴られようが倒れるつもりはありません。「週刊文春」は、あくまでも“今”という時代と勝負するメディアであり続けます。

デジタル展開を販売、広告に次ぐ“第3の矢”にする

-編集部員が60人近くいると、それだけコストが掛かりますから、広告、販売にデジタル展開の売上を加えたとしてもペイし続けるのは困難なのではないでしょうか。編集長就任以来、デジタルに力を入れてきたとのことですが、手応えはありますか。

新谷:今までは紙の売上と広告でマネタイズしてきましたが、3本目の矢としてデジタルによる収益というのを、現実的に考えるべき時代に来ています。これは最初申し上げたことと重なりますが、今の体制を維持するためにこそ必要なんです。

実際に手応えもあります。デジタル版にも5500人以上会員がいますし、始めたばかりのdマガジンでも、それなりの会員数は獲得できると思います。劇的な増加を見込むことは難しいかもしれません。それでも右肩上がりには来ていますし、徐々にデジタルによる収益は増えていくでしょう。ただ、先程申し上げたように社内ベンチャー的に動いている部分もあるので、「本腰が入っているか」と言われれば、本当の勝負はこれからです。

将来的には、「AKB担当記者」というように、それぞれの記者のキャラが立ってくれば、記者ごとに読者が付いて、スター記者の集合体としての「週刊文春」という形もあり得るだろうと考えています。まだまだ体制が追いついていませんが、可能性は非常に感じています。

-アメリカのメディアなどの一部では、そうした動きがあるようですね。

新谷:今後は、そうした方向に進んでいくと思いますし、優秀な人たちをそろえているからこそ、「週刊文春」のブランドは輝いているという形になっていくと思います。

実際に政治経済から芸能・スポーツまで非常に優秀な記者の方々が「週刊文春」に集まって来てくれています。だからこそ、高いクオリティを維持できていると思っています。

-今後の課題として感じている部分や、挑戦してみたい企画などはありますか。

新谷:デジタルと紙の誌面を連携させた企画はやってみたいと考えています。今も少しずつ始めてはいるのですが、「紙があって、じゃあデジタルでもやってみよう」ではなく、最初からデジタルでの展開を想定して、誌面と連動して仕掛けていくような企画に挑戦したいと思っています。

例えば、記者の取材を生放送しながら情報提供を求めるといったことをやれると面白いですね。

-やはり、まだまだ紙の誌面のウェイトが大きいと?

新谷:我々がまずやらなければいけないことは、毎週木曜日にクオリティの高い「週刊文春」を紙で出すことですから、本末転倒になってはなりません。そこがおろそかになっているにも関わらず、「デジタル、デジタル」となってしまったら、会社からも「それは違う」と言われるでしょうし、私自身も違うと思います。

ただ、もっともっと読者の皆さんに参加していただく形で、デジタルでの展開も意識をした雑誌作りをしていきたいと考えています。

-本日はありがとうございました。

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