社説

憲法公布70年/原点に返り意義問い直す時

 日本国憲法は1946年に公布されてから、きょうで70年を迎えた。
 この間、日本は一度も戦渦に巻き込まれることはなかった。憲法9条が掲げる「平和主義」が防波堤になったことは言うまでもない。
 「国民主権」と「基本的人権の尊重」とともに3原則が自由を謳歌(おうか)できる社会を築き、経済的発展の礎となってきたことにも異論はなかろう。
 これまで一言一句変えられないまま、戦後を歩んできた憲法が公布70年の節目の今、重大な岐路に立たされていると言っても過言ではない。
 過去を振り返れば、改憲論争は度々繰り返されてきたが、今度は現実味を持って語られるようになった。改憲勢力が衆参両院で、発議に必要な3分の2を占めたからだ。
 「改憲温度」がここまで高まった背景には、「在任中に憲法改正を成し遂げたい」と強い意欲を示す安倍晋三首相の存在がある。
 祖父、岸信介元首相も成し遂げなかった自主憲法の宿願を実現しようという思いかもしれない。だが、どの条文をどう変えていくのか、7月の参院選でも口をつぐんだため全く伝わって来なかった。本心を隠しているのでは、という疑念が払拭(ふっしょく)できないのだ。
 だからこそ、国民は警戒感を持っている。共同通信の世論調査によると、安倍首相の下での改憲に55%が反対し、賛成の42%を上回っている。
 自民党の改憲草案は9条を改正し、自衛隊を国防軍と明記。さらに国民の人権を「公益」を理由に制限したり、国旗・国歌尊重の義務を課したりする、時代に逆行するような復古調の内容だ。
 安倍首相は自民党草案についてこだわらない旨の答弁をしているものの、論議のベースにしたい意向は変わらないようで、野党の取り下げ要求にも応じていない。
 本来、権力を拘束するはずの憲法が、安倍政権の手で逆に国民を縛るような内容に改正されるかもしれない−。こんな危惧が国民の意識のどこかにあるのではないか。
 自民党の現憲法批判に、連合国軍総司令部(GHQ)による「押し付け論」がある。
 ただ、国民が太平洋戦争の惨禍を経験して、「戦争はもうごめん」「日本の政治は間違っていた」という共通の価値観があればこそ、新憲法を受け入れたのは間違いない。
 しかし、戦後70年余、戦火をくぐり抜けた生き証人たちは年とともに、減少の一途にある。憲法の崇高な理念も下支えしてきた「体験」という土台が弱まってくれば、形骸化しかねない。最近の改憲論台頭と無縁ではなかろう。
 衆院憲法審査会が10日再開される。現状で改憲を急ぐ理由は見当たらず、国民からも望む声は乏しい。国際情勢が緊迫する今だから、70年前の原点に立ち返って意義を問い直す必要がある。現状維持の選択があってしかるべきだ。


2016年11月03日木曜日


先頭に戻る