インタビューに応じる明星大の熊本博之准教授=9月、那覇市
地元の住民の話を聞く熊本博之准教授(左端)と学生たち=9月、沖縄県名護市
辺野古の集落で明星大の学生を案内する熊本博之准教授(右手前)=9月、沖縄県名護市 明星大の熊本博之(くまもと・ひろゆき)准教授は地域社会学者として、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先とされる名護市辺野古で住民からの聞き取り調査を続けている。10年以上通い、住民と交流を深める中で見えてきたのは地元の複雑な事情だ。
民主党中心の鳩山政権が県外移設を断念した2010年5月、「辺野古区」の行政委員会は、移設について条件付き容認を決議した。以来、辺野古の住民は、移設に反対する抗議活動とは一線を画し「容認」と位置付けられている。
その当時、既に辺野古に通っていた熊本氏は「地元の『容認』は単純ではない。反対しても移設を止められない。本音は反対でも、住み続けるには容認するしかなかった」と説明する。
背景に挙げるのが、辺野古にある米軍キャンプ・シュワブとの「共存」の歴史だ。「家族や友人が米軍関連の仕事で経済的恩恵を受けていれば、反対とは言いにくい。新基地が造られるのなら、生活を考えると条件なしでは受け入れられない。その結果、基地を押し付けられようとしている」
こうした辺野古とシュワブの関係を「沖縄の縮図」とも表現する。濃淡はあるものの、沖縄全体が米軍基地と一定の共存関係にあるとの見方だ。
熊本氏は、辺野古の住民と、その目と鼻の先で日常的に抗議活動をしている人たちとの「意識のずれ」も気に掛かるという。「移設した場合に一番犠牲になるのは辺野古の住民だ。基地ができても高額な補償金が出る見通しはない。新たな軍用地も生まれないため経済的なメリットはほとんどないのに、外部には誤解もある」と指摘。「複雑な事情が理解されずに、辺野古の住民が孤立する事態は避けないといけない」と強調する。
辺野古移設を巡る訴訟で最高裁の判断によっては工事が再開される。辺野古では長年、翻弄(ほんろう)されてきた移設問題を話題にしづらい雰囲気が漂う。
熊本氏は、容認を決議した当時とは政治的な状況が変わった今、住民が移設問題に真剣に向き合って合意形成を図れる最後の機会だとして、こう提起する。「受け入れるのか、反対するのか。住民の本音はなかなか出てこないかもしれないが、辺野古区として改めて地元の意思を表明する必要があるのではないか」。(共同通信=那覇支局・星野桂一郎)