築地市場の豊洲移転問題で東京都の小池百合子知事が当時の市場長(現・副知事)ら幹部8人の懲戒処分を検討する方針を決めた。「ようやくか」という思いがする。これが都政改革のスタートになるのだろうか。
今回の処分検討は、都が11月1日に公表した第2次自己検証報告書(http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/toyosu/siryou/pdf/team2_houkoku.pdf)を受けて決まった。その前の9月30日に都は1回目の自己検証報告書をまとめている。
なぜ今回、2回目の報告書を出したかといえば、理由は簡単だ。「だれが盛り土を止めて地下空間を設置することを決めたのか」という肝心の部分について、最初の報告書にデタラメがあったからだ。
地下空間は都からの提案だったのに、報告書は都が設置した「技術会議の提案」にすり替えて記述していた。役人が姑息な責任逃れをしたのだ。この事実が都議会の質疑で明らかになり、知事は報告書の出し直しを指示せざるを得なくなった。
嘘の責任は役人たちだけではない。知事本人も、である。
最初の報告書が出た後、知事は会見で「いつ誰がどの時点で盛り土をしないと決めたのか」という核心部分について「ピンポイントで指し示すのは難しい。流れの中で、空気の中で進んでいった」と説明していた。マスコミも知事の言葉をそのまま報じた。
私は10月14日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49946)で「そんなバカな話があるか」と批判した。そもそも報告書が「決定権者は中西市場長(当時、現・副知事)だった」と断定している。
報告書が決定権者を特定しているのに、知事が「流れの中で、空気の中で進んだ」と説明するのは、あえて報告書の内容を無視して、役人の責任をあいまいにする意図があったからではないか。そんな説明をそのまま受け入れるマスコミもマスコミだ。少しは自分の頭で考えたらどうか。
小池知事は現職副知事の責任を追及すると、役人全体を敵を回して後の仕事がやりにくくなる、と心配したのかもしれない。いずれにせよ、役人たちとのガチンコ対決を避けようとする思惑がミエミエだった。
そんな経過を経て出し直された2回目の報告書は当時、市場長だった中西充副知事はじめ8人の幹部を特定して責任を明確にした。こうなれば処分は当然である。
こうした展開は小池知事が「事実に追い詰められる形で役人たちを処分せざるを得なくなった」という事情を示している。知事は当初、あきらかに役人の責任追及に及び腰だった。だが、デタラメがバレてしまい「もはやこれまで」とバッサリ切ったのだ。
小池改革が役人に甘い姿勢は当初からにじみ出ていた。
小池都政がスタートしてまもなく書いた9月16日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49736)で指摘したように、ブレーンである上山信一特別顧問(慶応義塾大学教授)が最初の都政改革会議で都幹部たちを前に「みなさん、改革意欲が十分で…」などとおべんちゃらを言っていたほどだ。
そもそも知事が掲げた「自律改革」というキャッチフレーズにも、役人任せの姿勢が表れている。何をどう改革するかは、役人の自主性に委ねるという話である。一見もっともらしいが、それでは役人が自分に痛い話に手をつけるわけがない。
「これでは先が思いやられる」と思っていたら、たちまち馬脚を現したのが、最初の報告書と知事会見だった。そう振り返れば、今回の処分は「知事の軌道修正」ととれなくもない。だが、はたしてそれは本心からなのか。
知事がどれほど本気で改革に取り組むかは、今後の展開を見ないと、なんとも言えない。とはいえ、今回の処分で小池改革は新たな段階を迎える。役人も血を流すはめになった。彼らは甘くはない。これから当然、反撃を考えるだろう。