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寺院も「死者のホテル」を始めた

死を避ける都会人が直面する多死社会

2016年11月4日(金)

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 遺体安置所の経営に乗り出しているのは、民間企業だけではない。東京都内の寺院の中には、独自に霊安室を設置するところが現れてきている。

 東京都文京区本郷地区は、50カ寺以上が集まる寺町で知られる。江戸時代の明暦の大火の際、多くの寺院が移転してきたためだ。界隈を歩いていると、巨大な布袋像が目を引く寺があった。浄土宗・浄心寺である。浄心寺は境内に、地上3階建ての葬祭会館「さくらホール」を備えている。

浄心寺のさくらホール。バス通りに面し、人通りも多い。

 さくらホールの地下室に入ると、女性のすすり泣く声が聞こえてきた。

 8畳ほどの部屋の中央に、白いシーツでくるまれた遺体が横たわっている。4人の遺族が遺体を取り囲み、「お別れ」をしている最中だった。

1週間の保管はざら

 遺体はこの日の早朝、千葉県内の老人施設で亡くなった90代の女性だ。寝台車で浄心寺の霊安室に運ばれてきたのだ。遺族は臨終の場に立ち会うことができず、ここで対面を果たした。自宅はここからさほど離れていない文京区内だという。

 昔は人が死ねば、遺体は自宅に戻るのが通例だった。しかし、自宅に運び入れられない何らかの事情があり、火葬までさくらホールの霊安室に安置されることになった。遺族の心の整理は、まだついていないように見えた。

 浄心寺の霊安室は、前回(第3回のURL入る)に紹介した遺体ホテルの「そうそう」とは異なるタイプのものだ。

 「やすらぎの部屋」と書かれた霊安室の入り口を入ると、淡いさくら色の壁面の内側にストレッチャーで収納する仕組みだ。納棺された遺体もあれば、この女性のように生身のまま納められるケースもある。内部は摂氏3度を保つよう温度がきちんと管理されている。浄心寺では24時間体制で遺体の搬入を受け入れる。

 収容数は8体。筆者が訪れた時は5つが埋まっていた。入庫中の扉には札が掛けられている。札を見ると、一番古いのは4日前に運び込まれた遺体だと分かった。1週間程度の保管はよくあることだという。また、このあたりは、東京大学などを擁する文教地区であり、多くのビジネスエリートが住まう場所。親族が亡くなった時に家族が海外赴任中で、帰国まで「待ってもらう」ケースも多いという。また、芸能人や経済界の重鎮など、その死をすぐに公表できない一時避難場所として使われることもある。

 一方で、身元不明の孤独死体が運び込まれることもある。身内が見つかるまで、半月以上も入っていたことも過去にあったという。都会特有の事情を抱えた遺体が、この霊安室に運び込まれているようだ。

 浄心寺の住職、佐藤雅彦(58歳)は言う。

 「ここに運ばれてくる多くの方は文京区内の住民です。文京区には火葬場がなく、霊安室を備える寺院は、このさくらホールの他にありません。最近は死後、自宅でお通夜をすることが少なくなりました。火葬場も区内から遠く離れた場所です。生前過ごした故郷の地を死後、再び踏めないなんて。霊安室を造ったのは、うちの寺が死後、ひとときの安らぎの場所になればいいと考えたからです。地元の人が、地元で送られる。都会ではこんな当たり前のことすら、できなくなっているんです」

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「寺院も「死者のホテル」を始めた」の著者

鵜飼 秀徳

鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)

日経おとなのOFF副編集長、浄土宗僧侶

京都市景観市民会議委員(2016年)、佛教文化学会会員。 1974年生まれ。成城大学文芸学部卒業後、報知新聞社へ入社。2005年日経BP社に入社。日経ビジネス記者などを歴任。2016年4月より日経おとなのOFF副編集長。浄土宗僧侶の顔も持つ。正覚寺副住職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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