中高生向け情報誌「Z3(ゼットキューブ)」で疑似科学を特集したZ会。中高生の「思考力・判断力・表現力」を育てる取り組みは、情報誌だけでなく通信教育講座でも行われている。とくに、中1・中2生向けに2016年3月に開講した「総合」は、2020年度の大学入試改革につながる、ユニークな内容となっている。
お話しくださった方:情報誌の編集を担当する安西優子さん、冨田麻美さん、通信教育の教材作成を担当する中谷祐介さん、小澤碧さん、プロモーションを担当する池田節美子さん
中学生向けの新講座「総合」
松永 情報誌の取材でおいでいただいた時、「総合」の教材を作成している小澤碧さんも一緒に来てくださって、講座について説明していただきました。こんなこと、ホントに中学生に勉強させているの? とびっくりしました。
小澤 通信教育では毎月、受講生に「添削問題編」という教材を送って答案を作成してもらい、解答用紙を送り返してもらいます。それを添削して「解答編」という教材と一緒に送り、復習してもらう。その流れは、「総合」もほかの講座も同じです。
「総合」では、添削問題編には「ウォーミングアップ」という「添削問題に取り組む前に押さえておくべき考え方」を学ぶ教材がついていて、中学生はそれを読んで演習問題に取り組みます。このウォーミングアップに、およそ60分ほどの時間がかかります。それから添削問題に挑み、答案を送ってもらいます。大学入試改革で増えるであろう論述対策として、必ず、300字程度で考えをまとめる論述問題も出しています。
食情報とのつきあい方を教える
松永 中学生の時から長めの文章を書いて、表現する力をつけよう、ということですね。私が見せていただいて驚いた中1生7月号のテーマは、「食情報にご注意を!」でした。最初に「宣伝文句にダマされてはいけない」と題して、子どもたちとハカセの会話がでてきます。カプサイシン配合の「スパイシースリム」というお茶を飲んでやせたという女の子に対して、ハカセが「それまで飲んでいた砂糖たっぷりの炭酸飲料の代わりにお茶を飲むようになったのだから、摂取カロリーが減って、やせたのだろう」と諭し、「今回は、食情報とのつきあい方を考えていこう」と、コーナーがはじまります。この会話、小澤さんが考えたのですか。
小澤 そうです。毎月、導入は会話なので、どういうやりとりにするか、すごく考えます。
松永 その後に、体験談に注意しなければいけないこととか、対照群がない実験は意味がないこととか、大人でも多くの人は知らないようなことが説明されています。解説には、こんなふうにかかれています。
「食情報は、だれが、何のために発しているのか? こう考えると、だまされるカラクリに気付きやすくなる。
◆マスメディアが、テレビの視聴率を上げたり、雑誌の販売部数を増やしたりするために発する
◆食品業界や「健康食品」業界が、食品を買わせるために発する
出典:中1「総合」7月 P6
こうしたことを学んだ後に、ワークとして、「次の架空宣伝広告を見て、どこがアヤシいのか書いてみよう」という問題に取り組む流れになっています。
小澤 もともと、私は「物理」の教材を担当しています。でも、「総合」も受け持つことになり、以前から科学情報がゆがめられて伝えられていることに関心を持っていたので、身近な食情報をテーマに取り上げました。教材の内容は、食情報の専門家である高橋久仁子・群馬大学名誉教授に監修していただきました。
松永 消費生活センターなどで学習会を開いたら、とてもよさそうです。こういう事例だと、「消費者としてのハウツーを学ぶ」というふうに誤解されそうですが、そうではない。情報には必ず発信者の意図が含まれている、ということを、身近な食の問題を通して中学生に意識させる内容ですね。
小澤 そうです。「Z3」第2号で『「科学的」ってどういうこと?』という特集を組んだのと同時期だったので、相談して連動させたと思われそうですが、そうではないんです。偶然、安西たち「Z3」の担当者と私たちとが、同じようなことに問題意識をもっていたのです。
「量」を考えることは、計算問題とセットで
松永 ウォーミングアップの中に『自分で「量」を確かめる』という項目もあります。食品の健康効果や毒性についての情報が、この「量」を無視して流されていることが、かなり詳しく説明されています。いいなあ、と思ったのは、いろいろな説明と計算問題が、うまく組み合わされていること。インスタントわかめスープの100gあたりで表示されている栄養素の量をもとに、1食あたり8gから摂れる栄養素の量を計算したり、ラットの摂取量を人に置き換えるとどれくらいになるかを考えたり。読むだけより、鉛筆をもって計算する過程がある方が、飽きず眠たくならず、いいですねえ。本当によく工夫されている。
小澤 そんなウォーミングアップのあとに取り組む添削問題では、まず、DHMOの危険性に関する文章を取り上げました。DHMOはDihydrogen Monoxide、直訳すると2つの水素原子と1つの酸素原子からなる物質、つまり水のことですね。説明の仕方によって、いくらでも印象が変わることが、問題に取り組むことを通じてわかるようにしました。
松永 大人の消費者にも学んでもらいたい内容です。
中高一貫校へ進学するのは、常識ではない
中谷 「総合」は「思考力・判断力・表現力」を身につけてもらいたい講座なので、テーマは毎号、さまざまです。年度初めの3月号の中1生のテーマは、「常識を疑え!」にしました。
松永 ウォーミングアップは、中学の新入生と先生との会話からはじまるのですが、これもずいぶんと刺激的でした。
中谷 新入生が「小学生が塾に行って中学受験をして中高一貫校へ進学するというのは、常識です」と先生に語りかけると、先生は『「常識」というにはあたらないね』と軽く言ってしまう。この講座は中高一貫校の生徒を主な対象としているので、これを読んで疑問をもってほしかった。その後、「今の中学生、つまり十代前半の子どもは、朝早く起きて学校へ行かなければ」というのが常識になったのは、1947年の学校教育法制定後だよ、というような話につなげ、「常識」は変わっていくこと、ある特定の場所や時代にしか通用しない可能性があることを説明しています。
最終的に「常識に従っておく方が安全なこともあるけれど、常識を何も考えずに受け入れなくてはならないわけではなく、疑いの目を向ける自由もある」という話にしました。
松永 それを踏まえて、添削問題で70年代に都立高であった制服廃止運動を事例に、「自由」を考えさせる。最後の論述問題は『今、我々は「自由」だというのが「常識」だという考え方がありますが、あなたは、今の我々が「自由」だと思いますか、それとも「不自由」だと思いますか。そのように思う根拠を挙げつつ、300字以内であなたの考えを書きなさい』となっている。これ、きっと大人でも解答するのが難しいはずです。
中谷 最後の300字の論述問題をポンと出されたら、すごく難しいでしょう。でも、その問題に至るまでに考えるべきポイントに気づけるように、その前の小問を作ってあります。「総合」という講座は、唯一絶対の正解がある、というものではないんです。それはあらかじめ、受講生に伝えてあります。「答え」ではなく、そこにどうたどりつくか、という考え方を身につけるのが大事だし、そこを評価します。だから、インターネットや本などでいくらでも調べていいんです。
答案の採点、添削にも気をつかっています。論述問題は、想定解はありますが、そこからずれてもいいんです。自分の考えを表現することが大事です。答案が来たら、採点してコメントもつけて返します。よい答案は、ネット上で紹介して、会員が見られるようにもしています。点数が高くなくても「着眼点がすごくいい」というような答案も紹介しています。
各教科の担当者が、懸命に教材を作る
松永 「自由とは」というテーマについて、中学1年生が一所懸命考えて文章を書いている。驚きますね。Z会の添削問題は難しいので、答案を返してこない受講生が相当数いると思います。実は、私も高校生の時に受講してみて、あまりの難しさに投げ出したクチですが、この「総合」の問題は、どういうふうに作っているのですか。
小澤 学年ごとに英語や数学、国語など各教科の担当者が集まり、何を取り上げるか決めます。その後は一気に作って行きます。内容は、担当者の裁量にかなりの程度任されています。もちろん、チェックも入りますが、担当者の思い入れも強いです。
国会の会議録が教材に登場
池田 Z会では、「総合」に限らず、各教科でいろいろ思い切った内容に取り組んでいるんです。社内でも時々「えーっ」と驚くことがありますよ。最近では、8月に中高一貫コース中1・中2受講生に送られた特典『つながる知識・広がる思考』の、中2の国語の内容に、びっくりしました。
中谷 国語担当が作った問題ですね。「パブリックスピーキング」と「対話」をテーマにしています。まず、ウォーミングアップにあたるコーナーでとりあげたのは、2016年1月13日の衆議院予算委員会の会議録の一部です。民主・維新・無所属クラブの議員(委員)が質問し、安倍内閣総理大臣が答えている内容です。これを読んでもらい、野党議員の900字程度の質問内容を、100字以内に要約するなどの設問を出しました。答案を出してもらう添削問題でも、題材は同じ予算委員会の会議録の一部。やっぱり、野党側委員が質問し安倍首相が答えているくだりを読んでもらい、いろいろな設問に答えてもらいます。「あなたが新聞記者だとしたら、どんな見出しをつけますか」というような問題も出しました。
松永 なぜ、国会の会議録が教材なんですか?
中谷 普段の国語の教材は、書き手の考えが伝わるように丁寧に構成された文章からその意図を読み取るというものです。でも、実生活の中でふれる言葉のやり取りは、文章にしてみると整っていないものだらけです。だから、あえて後から整えられていない、リアルな会話の場面を切り取った文章を読ませて、意図を読み取る、という経験をしてもらおう、と考えました。
松永 リアルな会話の場面を切り取った文章の最たるものが、国会の会議録ですか。
中谷 こういう機会でもないと、中学生が国会の会議録に触れることなどありません。会議録がある、といことを知ってもらうことも大事だと思いました。
小澤 今、「総合」は中1生と中2生向けの教材を作っています。来年度に向けて、中3生向けの教材制作も進んでいます。
松永 なるほどねえ。通信教育講座って、ガリガリ詰め込みさせてまじめな子どもが鉛筆を動かしている、というイメージでしたが、全然違っていました。問題と解説を作る担当者も、すごく力が試されるような気がします。担当者と中高生の真剣勝負なんですね。
(次回へ続く)