本連載では大前研一さんの著作『日本の未来を考える6つの特別講義』より、国際競争力を高める人材を育成するための日本の教育改革について解説します。
北欧の答えのない教育・英国のエリート養成・インフレ化する高等教育…世界の教育事情
北欧の教育動向
世界の先進国は、優秀な人材を育てるために、それぞれ特徴ある教育方法を導入しています(図-4)。各国の教育動向を見ていきましょう。まず、北欧です。
1990年代前半、北欧諸国は金融危機を経験しました。そこで、このまま小さい国土に閉じこもっていたら自分たちの将来はないということで、リーダーシップのある、世界で活躍できる人間を育てるための「答えのない教育」にシフトしたのです。
この新しい教育は、まずデンマークで始まり、フィンランドもすぐに取り入れました。今では教育に関する国際的なランキングでも、フィンランドが常に上位にランクインしています。北欧の教育については、連載のなかで詳しくご紹介します。
イギリスの教育動向
それからイギリスには、最初からエリート養成を目的にしたボーディング・スクール(寄宿制中等教育学校)と大学があります。イギリスの歴代首相は、ほとんどすべてこのシステムの出身です。ですからデービッド・キャメロン首相 は、どこかの国の首相とは格が違うわけです。基礎力が違う。
名門校イートン・カレッジを出て、オックスフォード大学、あるいはケンブリッジ大学へと進学する、こういう過程で優秀な同級生と切磋琢磨しながら育つのです。
スイス・ドイツの教育動向
スイスとドイツの教育システムはよく似ています。実務教育を重視し、大学に行かなくても食べていけるような教育を半数以上の人が受けているので、国が非常に安定しています。コストはかかりますが、失業率は低い。また、国際競争力も高いです。
シンガポール・台湾・韓国の教育動向
シンガポールでは小学生のうちに、上位10%を将来のエリートとして選んでしまいます。ふさわしい人間が足りなければ、海外から受け入れます。職能スペックを書き出して、世界中から人材を輸入するというやり方です。台湾では、明日国がなくなるかもしれないという危機感の下、親が子供に日本語と英語を勉強させます。さらに母国語が中国語で、合計3カ国語を操れますから、台湾の子供たちは世界最強の言語能力を持っています。
韓国は1990年代後半の経済危機の際、国際通貨基金(IMF)から融資を受ける条件として緊縮財政を強いられました。この「IMF進駐軍」にやられている間に、「二度とこの屈辱を味わいたくない」という思いから、当時の金大中大統領が教育改革を行っています。
米国の教育動向
米国の教育は、後述するように全体として見ると問題点が多いのですが、非常に優れた大学と、ボーディング・スクールがあります。世界トップクラスの、限られた人たちがそういうところに行く。平均値を上げようという考え方はもともとありませんし、国はまったくと言っていいほど教育に関与していません。州以下の単位でカリキュラムを組むので、州ごとの差が大きいです。
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大前研一 日本の未来を考える6つの特別講義
¥2,200この「教育問題」講義ももちろん収録。「人口減少」「地方消滅」「エネルギー戦略」…避けて通れない日本の問題を大前研一さんが約400ページのボリュームで解説する特別講義集。
高等教育の学歴インフレ
世界の高等教育では、学歴インフレが起こっています。今や、先進国には大卒者が掃いて捨てるほどいます。米国でも日本でも同じです。新興国から先進国に留学する学生も増えており、プログラミングなどの技術をどんどん身につけています。これまでとは違う高等教育へのニーズが、世界的に高まっているのです(図-5)。
中国の学歴インフレ
中国では、大学を卒業すれば給料が上がるので、大学卒業者数が増加し続けています(図-6)。2013年にはおよそ700万人になりました。日本では、毎年60万人ほどの若者が大学に入学します。全員が卒業できたとしても、中国と10倍以上の開きがあります。中国の「大卒生産能力」は、これだけ高い水準に達している。このような学歴インフレの状況下では、大学を卒業したというだけでは何の価値もない。日本人は、そのことに早く気づく必要があります。
(次回へ続く)
この記事の話し手:大前研一さん
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