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マスター:黒井ネロ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2016/10/27


みんなの思い出

1
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オープニング


 地方のとある森に、今は使われなくなった木造の教会がひっそりと建っている。
 教会といってもその外観は大きく崩れ、外から中が覗ける程度には崩壊していた。
 月明り差すそんな教会の奥。
 朽ちかけの十字架には、とある噂があった。

 ――月明りの夜。お祈りに来た人間の前に悪魔が現れ、その人間を食べてしまう――というものだ。

 遊び半分に出かけた者たちが相次いで行方不明となったため、この噂はまことしやかに囁かれるようになったのだが。
 この夜。
 愚かにも、またそんな噂を確かめようと、朽ちた廃教会へ赴いた若者グループがいた。

「――火のないところに煙は立たないって言うしな!」
 森を歩く一行の先頭を行く少年Aは、後ろを振り返り口にする。
 すぐ後ろを歩く少年Bは、そのお気楽さを嘆き溜息をついた。
「それはそうだろうけどさ、その火が山火事レベルだったらどうするつもりだよ」
「俺らじゃ鎮火は出来ないから、すぐに飛んで逃げる」
「お前は本当に能天気だな」
 呆れ肩をすくめる少年Bの後ろで、少年Cはくすくすと笑っていた。
「でも確かに、煙の出所は見てみたい気もするね」
「だろ? お前は俺の良き理解者だな」
 少年Aの言葉に、少年Cは「そんなことないよ」そう言って危ないから前を向くように促した。

 それからしばらく森を歩き、目的の教会を視界に収める。
「あれか」
「ずいぶんと雰囲気あるな」
「朽ちてるからね」
 各々感想を口にしながら、教会へと近づいていく。
 一度、少年Aは来た道の方を振り返り、
「あいつ、本当に来ないつもりなのか」
 森の入口に残してきた少年Dのことを呟いた。
「まあ、もともとホラーは好きじゃないやつだからな。仕方ないだろ」
「ずいぶんと震えていたもんね」
 青白い顔をしながら歯を鳴らすほど恐怖していた姿を思い出し、少年Aはわずかに身の竦む思いをした。
 耳鳴りするほどの森の静けさと、秋の夜の肌寒さ、そして月光に照らされた教会が急に不気味に思えてきて、恐怖を感じたのだ。
「お前までなに震えてるんだよ。言い出しっぺのくせして」
「うるせえ、震えてなんかねえよ!」
「ならさっさと中に入れよな」
「分かってるよ! だから押すなっての」
 少年Bに背中を押されながら、少年Aは恐る恐る教会の中へと入った。
 互いの息遣いがよく聞こえる静寂に、朽ち木を踏みしめる音が響く。
 床を軋ませながら奥へと歩いていくと、件の十字架が見えてきた。それは壁から外れかけ、危うく斜めにかかっていた。
「こいつか……」
「近くで見ると、なんか気味悪いな」
「人のこと言えないじゃねえか」
「俺はまだ震えてねえよ」
 少年Aと少年Bが言い合う中、一人冷静だった少年Cは二人の背に声をかけた。
「それはそうと、お祈りしようよ」
 進み出ては十字架の前で跪く少年Cを見習い、二人も真似て膝をついた。
「ところで、お祈りってなにを祈ればいいんだ?」
「無難に世界平和とかでいいじゃね?」
 少年Bの言葉に、何か思い出したように少年A。
「なら、俺は彼女欲しいにしとくわ」
「私欲かよ、喰われろ」
「その時はお前も一緒だぞ」
「心中とか勘弁しろよ」
「二人とも、森の入口で待たせてるんだから早いとこさ」
 少年Cの窘めるような物言いに、二人は口を噤んで十字架に向き直る。

 そうして、それぞれ思う祈りの文言を心の中で唱えること数分――

「なにも起きないじゃんかよ」
「やっぱ噂は噂だったのか」
「……待って! あれなんだろう?」
 少年Cが指さす先を、二人は揃って見やる。
 視線の先。十字架の裏側から黒い靄があふれ出し、それは教会の床へと静かに広がっていく。
 やがて水溜りのようになったそこから、突如真っ黒い影が伸びてきた。
 少年らの背丈を超す黒い影は、少しして実体を現す。
「で、でた!」
「化け物だ!」
 三人は起き上がりざまに駆け出し、逃げようとした。
 しかし隣り合い互いの肩がぶつかった少年Aと少年Bは、よろめき体制を大きく崩す。
 駆けていく少年Cの背中に二人から声がかかる。
「おい、一人で逃げんな!」
「助けろよ! おいって!」
 教会の入口付近で一瞬振り返りはしたが、少年Cも恐怖で戻ろうという思考は欠落していた。
 再び前を向いて駆け出したその時――。
 耳をつんざく二人の絶叫が、静かな森をざわつかせた。

●斡旋所
「朽ちた教会の悪魔、か」
 今日も今日とて、依頼書の確認に追われていた女性職員は、手元の紙面に目を落とす。
 以前から噂される森の教会に出かけた少年らが、行方不明となっているらしい。
 依頼主は、一緒に出かけた少年。
 噂の悪魔は、無数の口のようなものが見えた、と書かれている。
 最期に聞いた断末魔の声から、二人の死を理解している。自分ではどうにも出来ないため、仇を討ってほしいとの旨が記されていた。
「仇ねぇ」
 危険だと解っている場所に出向くからいらぬ被害が出るのだと、女性職員は嘆息する。
 が、天魔となれば話は違う。捨て置けない事案は早急に対処しなければならない。
 椅子から腰をあげ、職員は依頼書を張り出した。


プレイング

月夜に歌う・ケイ・リヒャルト(ja0004)
大学部2年3組 女 
全く悪趣味ね…。
お祈り?アナタが居なくなるって言うのはどう?

事前
可能ならば昼間に一度教会に赴く
→破損及び劣化箇所の調査
→戦闘スペースとなる教会外の様子を見聞し、戦闘に役立てる
上記は情報共有
ミハイルが教会内に入るやや前に侵入使用で先行
十字架近辺の物陰に隠れておく
仲間との連絡先交換とハンズフリー使用の徹底

教会内
朽ちていることを考慮、足元を取られないように注意
お祈りから敵出現→攻撃までの時間差を有効利用
ミハイルが態勢を立直す間にAショットの一撃
ミハイルの掌底で教会外へ出た敵を追い掛けると同時に皆に連絡

教会外
まずは羽の基部を狙いAショット使用し敵の飛行能力を奪う
夜間の広場でなるべく光で満たされ、影を少なくする
→敵の闇=影からの攻撃なら被害は最少になる筈
交戦中も自身の影からの攻撃を注意し回避容易にする
それも無理ならば回避射撃使用(自身仲間不問
光と影を意識しつつも敵視界の端を常に動く
更に通常の射撃を多方面から行うことで注意力散漫を狙う
そこを隙として、仲間の攻撃や自身の攻撃に繋げる
好機には侵入使用し隠密裏に接近
0距離での専門知識+Aショットで決定打を加える
「もう…静かに眠りなさい

戦闘後
遺品が無いか捜索→有れば持帰る
また亡くなった方々の為に鎮魂歌を、教会の為に讃美歌を歌う
この場の再生と復活を祈り、適した花言葉のラッパ水仙を植える

星見草・Spica=Virgia=Azlight(ja8786)
大学部1年3組 女 
★アドリブ・絡み可
〇心情
「祈り、捧げられる側が…ずいぶん、卑怯な…」
出現方法とやり方に呆れ

〇目的
アビスビショップ(AB)殲滅

〇行動
作戦前に周囲の木から教会内部の敵出現位置まで狙えるか確認
狙える場合木に登り作戦開始を待つ
狙えない場合木の上から教会前広場に押し出されるのを待つ

AB出現後狙撃開始
出現と同時に闘気開放使用、敵射程外から狙い撃つ
「見つけた、ロックオン…」
「影使い、みたいだけど…知り合いほどじゃ…」
知合いに影を扱う悪魔がいるため思い出すが知り合いほどでもなく

ABの攻撃が自身まで届きそうな場合最大高度まで飛行し上空から狙撃
味方に自身の影が近づかないよう位置取り注意
「これなら、狙えないはず…」

羽の存在から飛行を警戒
飛行された場合自身も飛行し高度を合わせ狙撃
敵挙動に警戒、変な挙動を見せた場合すぐ回避できるよう注意
「やっぱり、飛行持ち…?」

絶対防御使用時も気にせず狙撃
「これで、どう…?」
攻撃自体無効化される場合効果時間切れを待つ

ピーマンはフェンリルの餌・ミハイル・エッカート(jb0544)
大学部4年9組 男 
・心情
肝試ししたい気持ちは分かるが
そういう噂話があったら天魔の仕業だと思ったほうがいい
すぐに撃退署か学園へ報告して欲しいものだ

・準備
事前に聖なる刻印を自らに付与

・十字架に向かって月の夜に祈りを捧げる
ピーマンを食べられるようになりたいぞ
世間は大人がピーマン食べられないのはおかしいという認識だが
そもそもあの苦いものをどうして食べ物だと認識するのか
あれは未成熟なんだぜ
それをわざわざ食べるか!
だが食べられないと世間の目が痛いんだ(ぶつぶつ
(はたしてこれは祈りなのか)

・戦闘
「こいつ、この教会の司祭だったんじゃないか?」
きっと悪魔の餌食になったのだろうと気の毒ではあるが退治
聞こえる断末魔に悪趣味だなと思いつつ
「その数だけ銃弾をぶちこんでやる」

教会を壊さないよう
敵に掌底
外へはじき出す
味方のライトの方向を考えて、敵の影が俺の足元に届かないよう位置を取る

ライトが足元攻撃には効果なければ、敵のターン時に敵影に動きが無いか注意
異常を感知したら飛び退く

スキル発動時
GunBash使用
盾を銃型に変化させてフルスイングすぱーん!
「させるか、このランチュウ野郎!」
絶対防御の結界に効かなければひたすら通常攻撃で撃ちまくる

敵の攻撃にはマジックシールドで対応

・戦闘終了後
子供の遺留品を探す
犠牲になったのは最近だ
まださほど汚れていないはず
見つかれば依頼人に渡す
墓前に供えるといい
少しは気持ちが救われるといいな

母なる蛇の詩・白蛇(jb0889)
大学部5年3組 女 
残念じゃが、この手の事件は絶えぬ、の
せめて彼奴を殲滅し、手向けとしよう


それにしても、祈る、のぅ
わしは祈られる側なのじゃがなぁ…

祈るのは他の者に任せるとして、わしは眷属を倒す事に集中するのみじゃ



しかし、なんと悪趣味な
恐ろしいとは思わぬが、おぞましいじゃ
…この口は、犠牲者のものだったりするのじゃろうか?
であれば、早いところ解放してやりたいものじゃ



翼の司を召喚
常に飛行させ、影からの攻撃に対応し易くさせる
わし自身は離れた位置より狙撃する
他の狙撃者とは離れ、別角度からの狙撃じゃ
また、近接する者と射線が重ならぬよう、細かく位置を調整する

とはいえ、わしの狙撃は牽制に近い
本命は、鬨をあげ士気の増した司のTSじゃ

敵の結界に対しては、わしの狙撃か司の通常攻撃で相手する
司の攻撃を遮断する事はないじゃろうな?



敵の攻撃はいずれもBSが乗ってもおかしく無さそうじゃ
司がBSに犯された場合、再召喚により無効化する
が、一時的に壁が一枚消えるゆえ、声を掛けてからの実行とする
場合によっては1T間、待つやも知れぬ
待っている間に回復すれば、それはそれで良い


生命力半減で自己回復する


そういえばじゃが
十字架の陰に潜んでいた状態で、祈らずに十字架ごと攻撃したらどうなったのじゃろうな?

異教とはいえ、同じ神の社
わざと破壊する気はないが、な


思いやりの肉詰めピーマン・山里赤薔薇(jb4090)
高等部1年4組 女 
心情
お祈りしに来た人達を餌食にし続けて来たというなら、決して許す訳には行かない。

行動
夜間戦闘を行う
現場到着後、教会前の敷地にトワイライト設置。光源確保と敵の闇攻撃対策のため
消滅したら再度設置する

お祈り役のミハイルさんが教会に入ったら入口付近で待機、警戒
お祈り後、敵が出現したら教会内に入り敵を引きつける
両手を広げ…

「こっちだ、来い、ディアボロ!」

ミハイルさんの掌底が当たりやすいよう気を引く

敵が教会外に出たら自分も出てすかさず祖霊符を発動

星の鎖を使い飛行能力を奪う
絶対防御の結界張られたら2ターン待って使用する
その間は通常攻撃
結界の有無は敵の周辺にそれっぽい物が出現したかで判断
結果として飛行能力奪えず武器射程足りない時は魔具をライフルに持ち替える

(あなたはこの教会の神父さんだったの? 死してなお教会を守ろうと?)

敵の魔法攻撃はすべて龍壁で受け防御する
常に敵の影と足元を警戒し、闇が伸びて来たら距離をとるか避ける
闇が見づらい時は複数個トワイライトを設置する

敵が森に逃げたらトワイライト持って全力で追いかける

戦闘中は教会を破損させないよう気を付ける

全部済んだら仲間達と犠牲者を弔います

(私も教会を管理してるけど、この教会もいつか再興してまた沢山の人がお祈りしに来るようになればいいな)

アドリブ○



リプレイ本文

●昼
 緑薫る爽やかな風が吹き抜ける。
 鳥の囀る森の広場。眼前には朽ちた教会が、時の流れに取り残されたように静かに佇んでいた。
 噂では月夜に天魔が出現するというが、事の前に現場調査をしておくのは無駄なことではない。
 そう考え、ケイ・リヒャルト(ja0004)は一足先に教会へ赴いていた。
「今日はずいぶんと暖かいわね」
 天高く昇る太陽を一瞥する。本日の天気予報は一日中晴れ。月も問題なく出るだろう。
 そこでケイは、ふと背後の気配に振り返った。
「あたし一人でもよかったのに」
 視線の先には、そよ風になびく髪を押さえるセレス・ダリエ(ja0189)の姿がある。
 簡易的な調査のため、自分一人でも事足りるのだが。
 真っ直ぐに見つめ返してくる青色の瞳が瞬き、
「……あなたと一緒に、いたかったから」
 ぽつりとそう言葉を紡いだ。
 少し意地悪だったかしら――。ケイは小さく笑いをこぼす。
 聞くまでもないことだ。唯一無二の、大切で大事な親友なのだから。
「行きましょう、セレス」
 頷くセレスの隣に並び立ち、ケイは教会へ足を踏み入れた。

 教会の内装はほとんどが木で腐食が進んではいたが、床が抜け落ちているところはなかった。
 しかし踏むとへこむ箇所がいくつか散見され、誘導の際には踏み抜かないよう注意が必要である。
 身を隠せるところも確認した。
 教会を出、外を一通り見て回る。
 広場自体は戦闘するに十分な広さがあり、周囲の森の木々からも長射程のライフルであれば問題なく目標を狙えるだろう。

「――こんなところかしらね」
 粗方調査を終えたケイとセレスは木陰に移動し、夜を待った。

●夜
 秋の夜のひんやりとした風が、森の梢をざわつかせる。
 まるでこれから起こることへ、警鐘を鳴らしているかのように……。

「こうして見ると、だいぶホラー染みてるな」
 夜闇に浮かび上がる月光に縁取られた廃教会を眺め、ミハイル・エッカート(jb0544)が呟いた。
「昼とは雰囲気がぜんぜん違うわね」
 趣さえ感じられた昼間との違いを口にしながらも、ケイは仲間たちと連絡先を交換しつつハンズフリーを徹底させる。
 トワイライトを地面に設置しながら、その教会内の暗闇に鋭い視線を向けていたのは山里赤薔薇(jb4090)だ。
「どうしたのじゃ?」
 近場にいた白蛇(jb0889)が声をかけるも、「いえ……」そう言って赤薔薇は首を横に振った。
 祈りに来た人達を餌食にし続けて来たという事実に、決して許すわけにはいかないと胸の内で怒りを燃やす。
 ケイから、木々から敷地を狙えるようだと話を聞いていたSpica=Virgia=Azlight(ja8786)は、教会内部を直接狙えるかの確認をしていた。
 射線を考慮しいくつかに絞って木に登ってみたが……。直接狙えるところでは射程が足らなかったり壁で十字架が死角になっていたりと散々だった。
 スピカは仕方なく、広場全体を射程に収める真ん中辺りの木の上で、目標が外へ出てくるのを待つことにした。

「さて、そろそろ行くか」
 教会前で佇むミハイルが≪聖なる刻印≫を身体に刻み、設置されたライトを背に告げる。
 ケイはそれを合図に自身の感覚を研ぎ澄ませ、先行して教会内へ侵入。十字架付近の物陰に身を潜める。
 赤薔薇はミハイルが中へ入ったのを見届けて、入口付近で待機した。

 外のライトと月光のおかげとあって、ある程度の視界が確保されている内部。
 ケイからの情報を元に、床の脆い部分を慎重に避けながら奥へ向かうと、件の十字架を見つけた。
 ミハイルは片膝がぎりぎり付かないくらいに腰を屈め、祈りを捧げる。

 ――ピーマンを食べられるようになりたいぞ――

 世間は大人にもなってピーマンを食べられないことをおかしいと言うが、そもそもあれは未成熟なのだ。あんな苦いものをどうして食べ物だと認識出来るのか。そんなものをわざわざ食うか!
「だが食べられないと世間の目が痛いんだ」
 仄暗い中、十字架の下でぶつぶつとピーマンについて一人ごちるミハイル。実にシュールな絵面である。
 果たしてこれは祈りなのだろうか……。疑問に思いつつふと見上げた十字架の裏側から、闇が漏れ出すのを確認した。
 闇色の靄が床に広がり、それは見る間に立ち上って聖職者の衣装を身にまとった天魔を形作る。
「こいつ、この教会の司祭だったんじゃないか?」
「そうかもしれないわね」
 ミハイルが態勢を整える間を埋めるように、乾いた発砲音が鳴り響いた。
 隠れていたケイの放った腐食弾は、天魔の右肩を貫通する。
 瞬間、肥大した頭部を埋める口の一つが突然開き――
『ぎゃぁあああ!』
 ヒトの断末魔を発した。
 ビショップが背後の気配に振り返ろうと身体を傾けたその時だ。
「こっちだ、来い、ディアボロ!」
 入口から叫んだ赤薔薇の声は、ケイからの注意を逸らし自身に引き付ける。赤薔薇は背を向けて駆け出し、祖霊符を発動。
 床を滑るように移動する天魔がミハイルの横を通り過ぎ、彼に背中を見せる形となった。
「ガラ空きだ」
 グッと腕を引き掌底を構えたミハイル――。ケイはすかさず外の仲間たちに連絡を入れる。
 ――勢い鋭く突き出された掌が天魔の背を強かに打ち付けると、ビショップは再び絶叫を上げながら教会の外へと吹っ飛ばされた。

 連絡を受けあらかじめ司を召喚していた白蛇は、ゴロゴロと転がりながら飛び出してきた天魔の姿を見て目を瞠る。
「なんと悪趣味な……。恐ろしいとは思わぬが、おぞましいじゃ」
 同じく太い枝を足場にし木の上からその時を待っていたスピカ。
「見つけた、ロックオン…」
 目標を視認し、闘気を開放。トリガーへ静かに指をかけると、蒼く美しいライフルの引き金をひいた。
 超高圧縮されたアウルはエネルギー弾となり、砲声の轟きを置き去りにして頭部を直撃。また一つ口が開き、今度は『がぁああ!』と呻きを上げた。
 頭部は一部が爆ぜたが、瞬時に元通り復元される。
「どういうこと…?」
 復元能力でも有しているのだろうか。スピカは小首を傾げるも、天魔からは目を離さない。
 ゆらりと起き上がり、ビショップはおもむろに両の手に火炎を宿した。
「司ッ!」
 反射的に判断し、白蛇は宙に浮く白鱗金瞳の蛇へ指示を出す。シャーッと牙を剥き出し威嚇すると、天魔の目線が蛇へ向いた。
 そして繰り出された火炎は螺旋に絡み、轟とうねりながら蛇を飲み込む。
 焼かれ、ぶすぶすと音を立てる蛇の体は煤塗れ。温度障害を負った。
 思った以上に高火力のようだ。
「すまぬ。いったん司は引かせてもらう」
 白蛇は司の状態を見て、当分回復は見込めないと判断。再召喚を選んだ。

 ミハイル、そしてケイも広場へと出、全員が各々の位置で布陣する。
 ライトの方向を考え、敵の影が自分の足元に届かないよう位置を取ったミハイル。近距離での射撃を開始。
 銃弾を撃ち込む度に頭部の口が開き、つど不気味な声を上げる。
 悪趣味だなと思いつつも、
「その数だけ銃弾をぶちこんでやる」
 彼は決してトリガーを引く手を休めない。
 ミハイルから少し離れた位置で自動式拳銃を構えたケイは、再びAショットを撃ち込んだ。
 蝙蝠の羽の基部に命中した弾丸は腐食させ、左の羽を根元から落とす。
 天魔が反対の羽を扇ぎだし宙に浮き始めたことを見咎めると、赤薔薇は間髪入れずに≪星の鎖≫を放つ。
 連なる星々の輝きがビショップを拘束し、大地に引きずり下ろした。
 地上に縫い止められたビショップは、指先をわずかに動かし始める。すると、小さな稲妻が周囲に発生し始めた。腕を天に掲げた瞬間、バリバリと音を立てながら一気に雷電が拡散する。
 それは無差別に宙を走り、空気を焼き大地を焦がした。
 至近距離にいたミハイルは≪マジックシールド≫を張り、近辺にいたケイと赤薔薇はそれぞれ≪回避射撃≫と≪龍壁≫で以ってやり過ごす。
 司を再召喚し終えていた白蛇は指示を出し、ビショップに向けて司を突撃させる。その間、自身はライフルによる射撃で牽制。
 あらかじめ施しておいた鬨によって、能力を上げた司の本命打を効率よく叩きこむためだ。
「司、いまじゃ!」
 天魔に取り付くと、噛みつきや鞭のようにしならせた尾で、目にも止まらぬ速さの攻撃を繰り出す召喚獣。乱打を受けた天魔はその回数分、一斉に頭部の口が開いて絶叫を木霊させた。
 司を振り払うように両腕を広げるビショップ。刹那、直径四メートルの半円状の薄膜が展開された。
 それは幾何学な模様が帯状に重なり、回転しては幾度もその配置を変える。
「なるほど…」
 樹上で呟くスピカ。それは、先のミハイルが口にした言葉が正しいということへの得心だった。
 恐らく、頭部の口の数だけ殺さなければ倒せない。開いた口が塞がらないところを見る限り、あれらはもう死んでいるのだろう。
 そのことを皆に伝え終えると、スピカはトリガーに指をかけた。
 ミハイル、ケイ、白蛇は銃による射撃の嵐を浴びせ、弾雨の中を縫うように赤薔薇はコンジキで斬り付ける。
 その様子を注視していたスピカは、「…なるほど…」とまた呟いた。
 いくつかの弾丸は天魔に命中してはいるが、ほとんどが地面や空に向かって軌道を逸らされている。どうやらあの結界は攻撃を屈折させる力を持っているらしい。
「これで、どう…?」
 自動捕捉による射撃で、スピカは目標をヘッドショットした。
 狙った位置からわずかに弾は逸れ、それでも頭の端を掠める。また一つ口が開く。
「数撃ちゃ当たるってやつか」
「ぜんぜんスマートじゃないけれど」
「じゃが、仕方ないじゃろう」
 さらに激化する硝煙弾雨。
 見事な銃捌きを披露するミハイルに、天魔の視界の端をしきりに動きながら射撃を繰り出すケイ。
 少し離れた位置から狙撃する白蛇に、断末魔も気にせず淡々と頭部を狙うスピカ。
 赤薔薇は近接戦闘を止め、ライフルに持ち替えた。
 ふと、これだけ銃弾が屈折し逸れているにもかかわらず、教会側へは一切被害がないことを不思議に思う。もしかして――
(あなたはこの教会の神父さんだったの? 死してなお教会を守ろうと?)
 一瞬。ほんの一瞬の躊躇いが隙を生んでしまった。
 ビショップの足元の影がわずかに広がり、影は地中に潜る。
 黒い染みのようなものが薄っすらと地面に浮かび上がりながら、自分の元へとやってくるのを見、赤薔薇は咄嗟に龍壁を使用。
 龍を模した真紅のアウルが身体に絡みついた瞬間――
 無数の黒い槍が地上に突き出てきた。それは赤薔薇のすぐ目の前で展開され、手にしていたライフルを弾かれて取り落とす。
「奴の闇にライトの意味はなし、か」
 今しがたの攻撃からそう判断すると、ミハイルは射撃しながら距離をわずかに詰めた。
「まさか地中に広げるとはね」
 確かに地下は闇だとケイも納得する。
「しかしじゃ、あかりがなければあの染みも見え辛かったじゃろうな」
 白蛇の言葉を聞き、そろそろトワイライトの効果時間が切れる頃だと思い出した赤薔薇は、念のため三つほど追加で設置する。
 と――、突然ビショップの結界が徐々に小さくなり始めた。
 好機。
 銃弾の屈折もほぼなくなったため、撃退士らはここぞとばかりに集中砲火を見舞う。
 赤薔薇も落としたライフルを手にして攻撃参加。
 雨霰のように飛び交う銃弾の直撃を受け、次々にビショップの頭部の口は開いていき、銃声砲声に紛れて無数の悲鳴が重なった。
 天魔の足元の影が広がりを見せた瞬間を見逃さず、ミハイルは盾をライフルの形状へ変化させ後頭部へフルスイング!
「させるか、このランチュウ野郎!」
 銃床で強打したことによりスキルをキャンセルさせる。
 十字砲火の嵐の中、ケイは隠密裏に接近。静かに肉薄し、ゼロ距離でのAショットを撃ち込んだ。首元から入った弾丸は額を突き抜け、天魔はドス黒い脳漿をぶちまける。
 それが決定打となったか。
『ぎぃいやぁああああああッ』
 最後の口が開き女の断末魔をあげ……ビショップの動きが一瞬止まり――全て開いた頭部の口から黒い霧が抜け出ていく。
 そうして天魔はぐずぐずと崩れ去り、そこにはただローブだけが残された。

●戦闘終了後
 秋の夜の静かな風に、歌の旋律が流されていく。
 ケイは亡くなった人々を想い、その人たちの鎮魂を祈って美しい歌声を響かせた。
 そして歌い終えると、今度は教会を賛美し歌唱する。その傍らには、瞳を閉じて聴き入るセレスの姿が在った。

「そういえばじゃが。十字架の陰に潜んでいた状態で、祈らずに十字架ごと攻撃したらどうなったのじゃろうな?」
 白蛇は教会を眺めながら素朴な疑問を口にした。
「十字架ごと、攻撃したら…出てこないで、終了しそう…? でも、他になにか、ギミックありそう…」
 たぶんだけど、とスピカが続ける。
「異教とはいえ、同じ神の社。わざと破壊する気はないがな」
 白蛇は冗談じゃと戯け、カカと笑った。

 一人教会で遺留品を探していたミハイルだったが。
 残念なことに衣服の切れ端一つ見つけられなかった。天魔がもろとも食ったらしい。
 傾いた十字架を見上げ、小さく息をついた。
 背後で足音がし、ミハイルが振り返ると――そこにはタッパーをそっと差し出す赤薔薇が立っていた。
「ミハイルさん、あの、ピーマン好きになって欲しくて作ってきたの」
 いたいけな少女が見上げている。微かに香るは肉のにおい。
 影になっていて少々見づらいが、あの緑色は間違いない、ピーマンだ。しかも肉詰めだ。
 文字通りのすし詰めになったピーマンの緑を見て、ミハイルはひくりと頬を引きつらせた。
 わざわざ食うかと一人ごちた。それを声を大にしてまたここで叫んでいいものだろうか……否だ。少女を悲しませることはしたくない。
 紳士ミハイルは葛藤の末、
「あ、ありがとうな、赤薔薇」
 ぎこちないながらも感謝を述べ、タッパーを受け取る。
 受け取ってもらえたことに笑顔を見せ、赤薔薇は外へ駆けていった。
 残されたミハイルは、「はっ!」とそこで閃いた。
 嫌いだからと言ってこれを食べずに捨てるのは忍びない。せっかく作ってくれたものだ、肉は食べよう。
 そして、ピーマンはフェンリルの餌にすればいいのではないか、と。
 愛犬の健康を考えるのは飼い主の務めだ、これはいい考えだそうしよう。
 ミハイルは薄闇の中、うんうんと納得し大きく頷いた。

 賛美歌を歌い終えたケイは、この場の再生と復活を祈り、適した花言葉のラッパ水仙を植えることにした。
「セレスも手伝ってくれる?」
「ええ」
 二人で地面に穴を堀り、水仙の球根を丁寧に植えていく。
 その様子を見ていた赤薔薇。
「あの、私も手伝います」
「ありがとう」
 ケイから球根を受け取った赤薔薇は、同じように植え付けた。
(私も教会を管理してるけど、この教会もいつか再興してまた沢山の人がお祈りしに来るようになればいいな)
 そんな想いを込めて、仲間たちと犠牲者を弔った。


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:成功面白かった!:3人
MVP一覧
 星見草・Spica=Virgia=Azlight(ja8786)
 思いやりの肉詰めピーマン・山里赤薔薇(jb4090)
重体一覧
 −

月夜に歌う・
ケイ・リヒャルト(ja0004)

大学部2年3組 女 インフィルトレイター
華咲く夜をあなたと一緒に・
セレス・ダリエ(ja0189)

大学部2年11組 女 ダアト
星見草・
Spica=Virgia=Azlight(ja8786)

大学部1年3組 女 阿修羅
ピーマンはフェンリルの餌・
ミハイル・エッカート(jb0544)

大学部4年9組 男 アカシックレコーダー:タイプA
母なる蛇の詩・
白蛇(jb0889)

大学部5年3組 女 バハムートテイマー
思いやりの肉詰めピーマン・
山里赤薔薇(jb4090)

高等部1年4組 女 ダアト


依頼相談掲示板

相談卓
白蛇(jb0889)|大学部5年3組|女|バハ
最終発言日時:2016年10月22日 20:44
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2016年10月19日 08:54


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