興福寺(奈良市)の僧が約450年前に始めた伝統の武術「宝蔵院流槍術(そうじゅつ)」の伝承が危ぶまれている。槍(やり)に使われる長尺の樫(かし)の確保が難しくなっているためだ。そこで槍術の保存会は自ら山林で樫を育てる取り組みを始めた。維持・管理などにかかる費用の寄付を募っている。

 10月下旬の奈良市中央武道場。「エーイ」「ヤー」。宝蔵院流高田派槍術を受け継ぐ数十人が稽古をしていた。槍の穂先が十文字の伝統の「鎌槍(かまやり)」(2・7メートル)を使う門下生は、相手が突いてくる、先までまっすぐな素槍(3・6メートル)を払ったり、たたき落としたりする。その度に、「パシン」と乾いた音が響く。

 宝蔵院流槍術は人気マンガ「バガボンド」(吉川英治原作、井上雄彦作)でも、剣豪・宮本武蔵が創始者・胤栄(いんえい)の弟子、胤舜(いんしゅん)と対戦する様子が描かれている。NHKの大河ドラマ「武蔵」にも登場した。

 いまも続く高田派は大阪、名古屋、東京、ドイツにも道場や稽古場があり、約100人が修行している。鎌は本来金属製だが、稽古や演武に使う槍は穂先も樫材を使う。樫はとても堅く、ウイスキーのたるやステッキなどにも使われる。ただ、稽古を重ねると折れたり、ひびが入ったりするので槍は年間計10本ほどが新たに必要だ。

 これまで武道具店から仕入れていたが、最近は「長く節のない樫材が手に入らない」と断られるように。何とか対応してくれる製材所を見つけて頼んでいるものの、将来はさらに難しくなる。「他の材は感触やしなり方が違うため、伝承してきた『型』が正確に伝わらない」と第二十一世宗家、一箭(いちや)順三さんは語る。

 そこで奈良宝蔵院流槍術保存会(会長・花山院弘匡春日大社宮司)は今年8月、樫を育てるための募金を始めた。奈良県上牧町の山林の一角(広さ約2500平方メートル)に、12月の植樹祭でまず10本を植える。

 すでに苗木を育てているが、槍として使えるまでは30~50年。寄付は維持管理などの費用として使う。

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