人間の感情を描く戦場文学で知られ、時代小説や詩作でも活躍した作家で詩人の伊藤桂一(いとう・けいいち)さんが29日、老衰のため死去した。99歳。葬儀は近親者で営んだ。後日、お別れの会を開く。喪主は妻で詩人の住吉(本名・伊藤)千代美(すみよし・ちよみ)さん。
三重県生まれ。1938年に陸軍に入隊、一兵卒として中国で終戦を迎えた。戦後、出版社に勤務しつつ懸賞小説に応募。自らの体験に基づき、戦場での士官と兵士の友情を詩情豊かに見つめた短編「蛍の河」で61年直木賞を受賞した。日ソ両軍の死闘の体験者に取材した「静かなノモンハン」は極限状態の個人の生死と心理を細密描写し、83年度芸術選奨文部大臣賞と84年吉川英治文学賞。他の作品に「イラワジは渦巻くとも」「遥かなインパール」など。
叙情詩人として日本現代詩人会会長などを歴任。詩集「連翹(れんぎょう)の帯」で97年地球賞。同「ある年の年頭の所感」で2007年三好達治賞。85年紫綬褒章、01年日本芸術院会員。