未解決凶悪事件「コールドケース」
捜査チームの執念が「迷宮の壁」を突き崩す
「コールドケース」——殺人などの凶悪犯罪で犯人が検挙できない事件は、こう呼ばれる。捜査が進展して継続中のホットな事件=「ホットケース」に対し、時間の経過とともに新たな証拠や証言も見つからず「迷宮入り」となったものを指す。
日本では凶悪事件が起きると、所轄の警察署に捜査本部ができて、集中的な捜査が展開される。しかし、一定期間捜査が進展しなければ体制は縮小され、捜査本部が解散することもある。警察庁によると、2011~15年の5年間では、捜査本部が立った事件の77%は半年以内に容疑者を検挙しているが、事件から3年以上かけて解決にこぎ着けたケースは12%にとどまっている。
遺族らの運動で撤廃された凶悪事件の時効
以前はどの犯罪にも時効があり、警察の捜査はそこで終結になることがほとんどだった。毎日新聞では08年5月から、全国の未解決事件を取り上げる企画「忘れない〜『未解決』を歩く」を展開。未解決事件の被害者家族は、肉親を失った悲しみと怒りをぶつける容疑者がいない二重の苦しみに加えて、「時効」という三つめの苦しみと闘っていた。遺族の声に突き動かされるように、時効制度見直しを求めるキャンペーンをスタート。翌09年2月には16事件の遺族が集まり時効撤廃・停止を求める被害者団体「殺人事件被害者遺族の会(宙=そら=の会)」が結成された。被害者遺族はメディアを通じて、時効撤廃を訴え続けた。こうした運動がうねりとなり、殺人の時効を廃止する改正刑事訴訟法が10年4月に成立。即日施行された。
DNA鑑定など科学捜査の進展で、容疑者を特定
警察庁は同年9月、各都道府県警へ通達を出し、時効が廃止される事件のための専従捜査員を配置するよう求めた。新たな情報を集めたり、それまでに寄せられた有力な情報を掘り下げて、証拠を再鑑定することなどを求めている。これを受けて全国の警察本部で専従の部署が設けられた、規模はまちまちだが、「コールドケース」のような未解決事件専門の捜査チームが各地に生まれた。
警視庁では通達に先立つ09年11月、捜査1課の中に総勢38人からなる「特命捜査対策室」が誕生した。対策室は設置から約11カ月後の10年9月、01年4月に東京都内で起きた殺人事件で現場に残されていた血痕のDNA型がアパートの隣人と一致したため、事件発生9年後で容疑者の男を逮捕した。当時のDNA鑑定では個人が特定できなかったが、科学捜査や鑑定技術の進歩で個人が特定できるようになり解決につながった。
「コールドケース〜真実の扉〜」22日午後10時からスタート
こうした未解決事件をテーマにしたドラマが、WOWOWでスタートする。連続ドラマW「コールドケース〜真実の扉〜」全10話で、22日午後10時からの第1話は無料放送される。03〜10年に計7シリーズが放送され、米国での平均視聴者数が1000万人を超えた米CBSの人気連続ドラマ「コールドケース」のフォーマット権を取得し、日本の社会問題に合わせてアレンジした「日本版」となる。
長期未解決事件は、新たな証拠が得にくく関係者の記憶もあいまいになるなど、有罪立証が困難だ。ドラマ「コールドケース」で、この問題をどう描くのか。
今回のドラマはリメークではないため、原作の舞台設定をベースに、さまざまな味付けを加えることができる。「原作の舞台となっているフィラデルフィアはさまざまな人種が住んでいるが、人種問題は日本人の感覚と違う。震災や公害、いじめ問題など、日本社会で起きていることをしっかり表現しつつ、『コールドケース』らしさも踏襲して制作している」と岡野真紀子プロデューサー。舞台を神奈川県警に移し、四季の移ろいや細かな心理描写など、日本のドラマの良さも加味していくという。
原作の舞台設定をベースに、さまざまな味付け
例えば、第1話では20年以上前の殺人を目撃したという外国人の女性が署を訪れる。原版では、メイドとして雇われていた屋敷内から目撃し、「通報することでクビになるのが怖かったが、がんにかかってその心配をする必要がなくなった」のが通報が遅れた理由。日本版では女性は不法滞在者に変わり、「帰国することになったから」が理由になる。他方、原版で話題になった、事件発生当時のヒット曲をBGMに使うスタイルは踏襲する。
主役の捜査1課の警部・石川百合を演じるのは、連続ドラマ初主演となる吉田羊。これまでのような鋭い目つきを持ったクールなイメージをそのまま生かし、長い年月が経過して冷え切った被害者家族らの心を解放したいという熱い思いを心の奥に秘めた役だ。
百合の相棒の刑事・高木信次郎役には永山絢斗。念願の捜査1課に配属されたが、発生したての難事件ではなく過去の事件の担当にさせられることに不満を漏らす、生意気な若手刑事だ。
このほか、滝藤賢一、光石研、三浦友和の演技派俳優が同僚として脇を固め、5人のタッグで長年開かなかった未解決の扉に挑む。
監督は、「SP」シリーズなどを手掛けた波多野貴文監督。脚本は本職の脚本家ではなく、映画「64—ロクヨン—」などで知られる瀬々敬久監督が務める。これまでの刑事ドラマは、事件の状況を刑事が語りがちだったが、演出の力で表現するのが狙いだ。
全編が超高精細の4K映像と、明暗をよりくっきり見せるハイダイナミックレンジ(HDR)で制作された。ストーリーだけでなく、4K・HDRを意識した映像美にも注目したい。【丸山進】