【世良公則】解散の覚悟が勝ち取った、「あんたのバラード」のグランプリ

ロック精神の原点を探る:世良公則 (ロックミュージシャン)の場合 第2回

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文:十代目 萬屋五兵衛 / 写真:的野 弘路

03.31.2016

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わがままを通して演奏、そしてグランプリ獲得へ

「俺がヴォーカルになっても決勝まで行けた8.8Rockday(ハチハチロックデイ)。俺の声で予選を通過したポプコン。『ポプコンで落ちたところでバンド解散しよう』とメンバーと約束していました」

そのような不退転の覚悟を決めたからだろう、彼らは予選を勝ち進み、1977年、静岡県の「つま恋エキジビションホール」で行われた決勝大会で見事、優勝の栄冠を勝ち取る。

この栄誉を引っさげて、世界各国からアーティストが参加する「世界歌謡祭」に日本代表として出場。他を寄せ付けない独特なテイストの楽曲と、世良特有のダイナミックなパフォーマンスが認められ、グランプリを受賞する。

ツイストが世界歌謡祭でグランプリを受賞して約2週間後の1977年11月25日、シングルレコード「あんたのバラード」が発売された。デジタル時代の現在であれば特段珍しくもないスピードだが、当時はアナログ盤しかない頃である。その時代では驚くべき、特急のようなスピード感で世に発売されたのだ。

「デビューシングル『あんたのバラード』は、世界歌謡祭で演奏したライブ音源なんですよ。ジャムセッション用の曲だったから、それぞれの楽器がソロを弾くようになっていました。だからポップコンにエントリーしたカセットテープは7分以上です。

世界音楽祭でも、それを演らせてくれなかったら出ないとか生意気なことを言って、演ってましたね。そうしたらグランプリを獲得したんです(笑)」

こうして大阪の大学生バンド・ツイストは、新しい日本のロックバンドとしてその名を全国に知らしめていくことになる。

同時に、一気にプロとしての未来が見えたはずだが、バンドメンバーはそれぞれの道に進むことを決めていた。

「プロで一生やれるとは思わないメンバーや、もちろん俺のようにプロ志向の奴もいました。だから同じメンバーではこの先はできないことはわかっていました。その間に、大阪で活動するバンド仲間で再構成したのが『世良公則&ツイスト』だったんです。

つまり最初のシングル盤とデビューアルバムの最後に収録されている『あんたのバラード』を演奏しているメンバーは、アマチュア時代の元祖ツイストです。

コンテストに落ちたらバンドは解散という、まるで夏の甲子園球児のように走り続けた絆(きずな)がありますから、いまだに付き合っていますね。バンドメンバーだけではなく、その時にバンドの周りで機材を運んでくれていたり、手伝ってくれた仲間とは、いまも昔話に花を咲かせています」

個性的な世良を中心としたツイストを、東京の音楽関係者たちが放っておくことはなかった。

実は、世良は大学を卒業してからじゃないと東京に出ないと断っていた。そこには、文句を何一つ言わずに好きな音楽を続けさせてくれた両親に対する思いがあったからだ。

「親に『東京に音楽で就職する』と、やっと言えましたね(笑)」

≪次回に続く≫

世良公則(せら・まさのり)

1977年11月25日シングル「あんたのバラード/世良公則&ツイスト」でデビュー。シングル「銃爪」はオリコン1位を獲得し、TBS「ザ・ベストテン」において最初のシングル年間1位を獲得。その後「燃えろいい女」等ヒット曲を連発し、78年はシングル3作で計144.2万枚をセールス。
1978年7月発売のデビューアルバム「世良公則&ツイスト」はオリコン1位を記録。日本のロックバンドとしてアルバムが、チャート1位を記録したのはこのアルバムが初めてでロックをメジャー化するパイオニアとなった。
1981年末にツイストを解散。その後はソロとして音楽活動を開始。ソロ活動開始以降は映像の仕事も併せて始める。
1998年公開「カンゾー先生」今村昌平監督作品出演。 その作品で2度目の日本アカデミー大賞助演男優賞受賞/第10回及び第22回助演男優賞を受賞。

2008年1月、野村義男と共にアコースティックユニット・音屋吉右衛門としてデビューシングル・アニメ主題歌「ヤッターマンの歌」をリリース。8月、タツノコプロ が制作した「マッハ GoGoGo」のトリビュートアルバムに参加。
2012年10月、世良公則デビュー35周年記念アルバムとして初の邦楽カバーアルバム「BACKBONE」及び「the ultimate WE AREGUILD9」GUILD9/世良公則を2枚同時リリース。
2015年アニバーサリーイヤーを迎え、3ヶ月連続リリースを発表。8月音屋吉右衛門ライヴアルバム「オトコノウタ」、9月奥田民生作詞作曲による初のデュオソング「いつものうた」をつるの剛士とのコラボでリリース。10月には、世良公則監修の初のオフィシャルベストアルバム「Premium BEST Songs&Live~いつものうた~」をリリースした。その年末には、TBSドラマ「下町ロケット」に出演し話題を集める。
2016年、60th Anniversary LIVE「Birth」~タカガウマレタヒ~と題し、所縁のミュージシャンと共にコラボレーションライブを全国で行っている。

世良公則ANNIVERSARY2016特設サイト

十代目 萬屋五兵衛(じゅうだいめ・よろずやごへい)
フリーライター
本名:高橋久晴。株式会社更竹代表取締役。大学卒業後、音楽業界から職業人歴をスタートさせる。制作、宣伝を中心に独自のマーケティング戦略で有名ミュージシャンやアーティストたちと多くのプロジェクトを成功させる。その後、飲食店開発の企業に転職し、飲食店をリアルメディアとしたマーケィング部門や、他業種のリアル店舗をつなげた新BGMサービス事業、フィットネスコミュニティ事業など、ライフスタイル事業を幅広くプロデュース。数社の役員を歴任後の2013年、家業の会社を軸に自身の経験を活かした企画コンサルティング事業を開始。「現代版よ・ろ・ず・や」というコンセプトを掲げ、多くの企業のプロジェクトに携わっている。

※萬屋五兵衛:1700年代から家系伝承されてきた職業名
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