ペンギンはフレンドリーな生き物らしい。
観測隊員が南極で作業をしていると、とことこ歩いて近づいてくるという。
人間は同じ二足歩行の動物であり、遠目からは「仲間」に見えるのだとか。
そのペンギンも地球温暖化により種の存続が懸念されている。海水温の上昇が深刻なダメージを与える。
研究チームの調査で、キングペンギンという種を追跡した。海水温の上昇で餌場が移動して、通常300キロの遠泳が600キロに及ぶ年があったそうだ。その直後には生息数が3割以上も減った。過労死が続出したらしい。」
昆虫たちは冬が暖かいと、大変困るようだ。寒さは昆虫の体内で健康な春を迎えるために何らかの変化を起こす。寒さを十分に経験できなかったサナギは卵もあまり産めず、ひ弱なチョウになる。
健全な寒気が来ていることを教える空がある。その筋雲の列を断ち切るかのような飛行機雲をたまに見る。あたかも、(油を燃やし、地球を暖め続ける)身勝手な人間のスケッチのように。
ペンギンが観測隊員を怖がらないのは長く隔絶された大陸に住み、人から迫害を受けた経験に乏しいためとか。
生息場所を人により狭められた熊やイノシシが餌を追い求める姿はペンギンと変わらない。人里を襲うのも、(世代交代で)狩猟の迫害を受けた経験に乏しいためなのは一目瞭然。
<忘れっぽいと逆に警戒心が解け、新しいものが入りやすい。どんどん忘れる方がいい>と書いたのは赤瀬川原平さんである。自然に逆らわず飄々と生きた人のようだ。
東京・四谷をふらっと歩いていて、見つけたのが「四谷階段」だという。
あの『四谷怪談』のしゃれである。
ある建物の側面に、ただ昇って降りるだけの用途不明の階段があった。
<ある意味、何の役に立つのか分からない純粋芸術に似ているではないか>と。
「超芸術トマソン」と称する不思議な建造物発見が、一時期ブームになった。
その輪の中心にいたのが赤瀬川さんだ。
トマソンとは、元大リーガーで巨人の四番打者であった。全くの不発であるにもかかわらず、美しく保存された無用の長物に思えたとか。
路上観察学会で仲間の建築家が、赤瀬川さんの自宅の屋根一面にニラを植えた。
無断で設計したという。
<作り手をしばっては面白くない。しかたないですねえ>。
赤瀬川さんは、頭のなかの自由を心から愛し、楽しんだ人である。
芥川賞作家という肩書さえ、かすんで見えるすばらしい人なのだ。
赤瀬川さんは、個性的な記述で知られる『新明解国語辞典』を親しみを込めて「新解さん」と呼んだ。
その中の【読書】は、赤瀬川さんのエッセイで“すごい”と評された項だ。
人生観を確固不動のものとするため時間の束縛を受けることなく本を読むこと。
寝転がって漫画本を見たり電車の中で週刊誌を読んだりすることは含まれない。
これだけは譲れない、という読書人の情熱がひしひしと迫る。
人生を決める一冊を真剣に探してみるのもいいかもしれない。
もちろん、<ベッドや電車で簡単に見つかるものではないぞ>と、赤瀬川さんはそうおっしゃるに決まっているが。