「シリアスゲーム」というジャンルのゲームをご存じだろうか。感染症や自然災害、教育など、現実の世界で起こりうるシリアス(深刻)な問題を、シミュレーションを通じて楽しみながら解決していこうというものだ。実はオランダが国策としてこの分野のゲームの育成・普及に取り組んでおり、着実にノウハウを蓄積している。日本や米国などゲーム大国とは異なるアプローチでゲームの可能性を探ろうとしている動きを紹介する。
■もし新種の感染症が世界で大流行したら…
201X年X月X日、世界感染症管理機構(WHC)が感染症の世界的大流行(パンデミック)を予測した。その6日後、中国南部で鳥インフルエンザが発生し、人に感染したという第一報が流れた。
WHCは現地にすぐに疾病調査団を派遣、同地域の住民に向けて、感染の恐れが高まっている警告を発すると同時に、ウイルスタイプの調査に着手した。しかしウイルスは猛威をふるい、感染者はわずか数日で数万人に達し、東南アジア地域にも広がりを見せ始めた。
WHCは、マスクの配布や医療機関の体制強化といった対応策を整えることで、ウイルスの蔓延をある程度は押さえ込んでいたが、それでも勢いは止まらない。治療の効果がはっきり分からない中で、投薬や注射を行わなければならない。そして最初の死者がでた。
WHCは感染者の隔離、学校・市場の閉鎖など対策を広げていく。1918年に猛威をふるった「スペイン風邪」を超える規模だという警告が出る。病院は感染者であふれ、世界経済の失速も始まった。
次に空路を通じて米国にまで感染が広がっていることが明らかになる。急きょ、中国と東南アジアの空港を閉鎖したが、時すでに遅し。WHCの対策費予算も尽きていた。米国での流行のペースはさらに早く、感染者が急激に増えていくのをみているしかない状態となった。
ついに調査チームがウイルスタイプの特定に成功し、効果的な処方が発見される。23日間で感染者840万人、10万人の犠牲者を出した感染症の大流行にようやく収束が見えてきたところで、「ゲーム」が終わる――。
■ウイルスの種類に応じて5段階の難易度
ここで描いた新型インフルエンザの流行もWHCも現実のものではない。オランダのRANJSeriousGames社(ロッテルダム)がエラスムス医療センターの免疫学部門と共同で09年に開発した「The Great Flu(大流行病)」というシリアスゲーム(無料公開)で、筆者が実際プレーした様子を物語風に書いたものだ。