社説 京都新聞トップへ

核禁止条約決議  被爆国の責務を果たせ

 核兵器廃絶に向けた国際社会の重要な一歩に、唯一の戦争被爆国の日本が背を向けてはならない。
 国連総会第1委員会(軍縮)は「核兵器禁止条約」作りに向けた交渉を始める決議を採択した。広島、長崎の被爆から70年以上を経て、核兵器を国際的に非合法化する取り組みが本格的に始まることを歓迎したい。
 ところが、日本は米国の「核の傘」に固執して決議に反対票を投じた。被爆国としての国際的な使命と核廃絶を願う国民世論への裏切りではないのか。
 決議は、オーストリアなど非核保有国が主導し、国連加盟国の6割超の123カ国が賛成した。12月の総会本会議で正式採択される見通しだ。核兵器の使用による非人道的結末に深い懸念を表明し、禁止する法的拘束力ある文書制定交渉の開始を定めている。理想論とも揶揄(やゆ)されてきた核廃絶を具現化していく転機になるものだ。
 これに対し、核保有五大国のうち米英仏とロシアを含む38カ国が反対、中国など16カ国は棄権した。日本は「国際社会の総意で進めるべき」と核保有国の拒絶を反対理由に挙げた。だが、自ら主導した別の核廃絶決議と同様、核兵器の非人道性を訴える条約作りを阻むのは筋が通らず、理解できない。
 政府の判断は、北朝鮮の核ミサイル開発などへの安全保障を優先する考えからだろう。棄権ではなく、米国が同盟国に呼び掛けた反対に回ったのは、被爆国でありながら、米国の「核の傘」の下にあるという矛盾が露呈したといえ、掲げてきた核廃絶への姿勢を大きく傷つけるものだ。
 そもそも非核保有国を中心とした核禁止条約を求める動きは、五大国が主導してきた核拡散防止条約(NPT)体制での核軍縮の停滞が背景にある。五大国は段階的な削減を主張するが、特権的な核保有による抑止力を安保政策の軸に据え続け、ロシアは露骨に威嚇に用いている。
 進まぬ核軍縮の一方、核の脅威は南アジアや中東、北朝鮮へと拡散している。核抑止力に依存し続ければ、破滅的な結果を招きかねないという危機感が広がっていると言えよう。
 決議に反対した日本だが、来春から始まる条約案作りの交渉には参加すると表明した。核保有国の反発で厳しい協議が予想されるが、核なき世界に向けて踏みだそうとする世界の潮流を受け止め、正面から向き合うよう働き掛けるのが被爆国の責務であろう。

[京都新聞 2016年10月29日掲載]

バックナンバー