〈時代の正体〉人権侵害ブログを削除 法務局要請でサイバーエージェント

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2016/10/29 07:50 更新:2016/10/29 12:38
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解説 行政の要請に意義


 膨大な差別書き込みにも諦めることなく人権被害申し立てに踏み切った崔江以子さんの行動は、行政の働き掛けの効果が示されたという点で意義深い。会員数4千万人、業界最大手のサイバーエージェントは「今回は禁止事項にはっきり該当するケースだったが、自分たちだけでは判断がつかない場合も少なくない。人権侵犯に当たると国が示してくれれば即座に対応できる」と要請自体を前向きに受け止める。

 適正で迅速な対応が促されるだけではない。行政による取り組みそれ自体が啓発と抑止につながる。何より被害当事者の負担が軽減される。拡散した書き込みを個人がプロバイダーに削除要請するのは物理的に困難で、確認作業は多大な苦痛を伴う。自身が被差別者なのだと、そのたびに再確認することを強いられるからだ。単なるプライバシー侵害や名誉毀損(きそん)ではない差別書き込みであるからこそ、行政が被害者に代わって要請することに意味がある。
 
 今回対応したのが、ヘイトスピーチ解消法の施行を受けて法務省人権擁護局に新設されたヘイトスピーチ被害相談対応チームであったように、新たな取り組みの模索が始まっている。

 すでに独自に取り組む自治体もある。広島県福山市はインターネット掲示板を毎日1時間チェックし、差別書き込みを発見次第、管理者に削除を求めている。兵庫県尼崎市もモニタリングを行い、地方法務局へ削除要請を依頼している。

 削除要請は公権力で表現の自由を制約するものではなく、あくまでプロバイダー各社が定める利用規約にのっとり適切に運営するよう求めるものだ。国にはためらう理由はないばかりか、業界を促し、野放しの人権侵害を防ぐという同じ地平に立った有効なルールづくりを急ぐべきだ。

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