「手術数でわかる名医」「全国病院別手術実績・手術数」「手術数でわかるいい病院」
こんな表紙の雑誌や本見かけたことありますか?
実際毎年当院にも「いい病院」になりませんか?というお誘いの手紙がよく舞い込みます。
え?と思った方、「いい病院になるってどういうこと?」って思った方。いますよね。
なんで出版社からそんな誘いが来るの?
何故でしょう。それは広告のお願いなんです。具体的な金額は申し上げませんが、4分の1ページでそこそこいいお値段の広告料です。そして広告料を支払って掲載された「いい病院」がいくつもずらっと紙面を飾ります。
別に広告を出すことは悪いことではありません。出版社も法律を破っているわけではありません。でも紛らわしいですよね。一般の読者の立場になってみるとぱっと見したところ正真正銘の名医として取材をうけて(もしかしたら取材料が支払われているかも知れません)掲載されているのか、わざわざ医者の方が出版社に広告料を支払って掲載されているのか見分けがつきにくいです。
なので当院は今まで一度も「いい病院」になったことはありません。そんなお金ないからです。これからも「いい病院」になることはないと思います、たぶん。もし宝くじにでも当たって、お金の使い道に困るようなことがあれば冥土の土産に2ページ見開き広告でも出してみます。
で、その手の書籍につきものなのが「手術数」。「手術数」これは大事ですよ。外科手術は経験を積めば積むほど練達することは確かです。失敗も少なくなります。当然成功が増えて行きます。癌などの悪性疾患は根治するためには手術以外に最善の治療法がないことがほとんどです。否が応でも診断がついた症例数だけ手術数も増えます。発見された時点で転移があったり、患者さんやその家族の信条で手術を拒否して他の治療法を選んでしまった場合、高齢や基礎疾患のため麻酔のリスクが高くて手術が困難な場合を除けば手術率はほぼ100%でしょう。
では「痔」の場合はどうでしょう。以前にもブログで書きました。痔は良性疾患です。手遅れになったり寿命を決定づける病気ではありません。早期発見早期治療の対象ではありません。ひとは皆生まれた時から「痔」を持っていますが、自覚症状を経験して初めて「痔」の存在を認識するようになります。では早期発見早期治療をしたらどうなるでしょう?
そうです、「手術数」が増えます。自覚症状がない、あるいは自覚症状が軽い段階で手術をするのです。「手術数」はそれにともなって増加します。手術適応の基準を甘くする、引き下げることは医師の判断に委ねられる部分が大半です。誠意をもった予防的措置として、なおかつそれを信念として行っている先生もいることでしょう。僕とは異なりますが、それも一つの考え方です。痔に対する説明の仕方一つで患者さんの手術に対する考え方は「肯定的」にも「否定的」にも如何様にでも変えることができます。
「手術数」だけでは名医かどうかは分からない。では他にはないのでしょうか、頼りになる指標は。あります。「手術率」です。痔核は良性疾患です。生活習慣や薬物治療を組み合わせた保存的治療を行うことで軽い症状なら殆どの場合が解決します。排便の時などに脱肛して手で押し戻す必要がある状態を3度内痔核と言って一般的には手術適応になります。しかし実際にはこの3度の痔核ですら保存的治療をしっかり行うことで毎日の生活になんの支障も来さなくなるケースもあります。一般的には適切な診断と適切な保存的治療を行い、患者さんに(必要以上に不安を煽るような誘導的説明をせずに)保存的治療と外科的治療について適切な説明を施せば手術率は概ね10%内外になると言われています。当院でもかつてデータをとったところほぼ同様の手術率でした。外来に痔核で初診された患者さんのうち、手術になる方は10人にお一人というわけです。
とはいっても専門病院であればあるほど専門外の医師からは頼りにされますので、最初に診察した医師から手術適応の判断を下された患者さんや治療に難渋する患者さんが集まる傾向にあります。当院のような診療所やクリニックで「医療の窓口」になっている医療機関よりも当然専門病院のほうが手術率が高めに出る傾向になります。でももしこれが50%や60%になるような実績だとしたら、、手術のやり過ぎ、といっても良いのではないかと思います。外来患者さんの母集団が多ければ手術率は10~20%程度であっても、かなりの手術症例数と実績が蓄積されますので当然名医がおられます。ただ一方で手術率が低いというのは必ずしも「手術が苦手だから」とか「手術が下手」だからという理由ではないことを知っていただきたいと思います。実際外来で専門医の立場で食事の指導や排便の指導、薬の使い方、手術のメリット・デメリット等を一つ一つ説明するほうが時間も手間ひまも、また「専門的知識と経験」も要します。
マスコミやメディアは医療情報を取り上げたり報道をする場合とかく、「数」ばかりを報道して「率」をないがしろにするケースが多々見られます。薬の重篤な副作用などの報道のときも「何例発生した」ということは報じますが、日本全国の年間処方数を分母にした「発生率」に関しては殆ど触れることはありません。「不安は金になるが、安心は金にならない」という言葉、以前聞いたことがあります。
適切な医療機関をフェアな条件で患者さんが選択出来るようにするために各出版社やメディアは疾患によっては「手術率」も大切な指標であることを念頭において情報提供していただけたらと思います。僕が25年前に研修医として入局した外科の主任教授庄司佑先生は日本の心臓外科の黎明期を築いた先生でした。庄司先生は常日頃「専門バカになるな」と言う一方で「自分の専門領域においては診断学と薬物治療については内科医に負けないよう勉強し、いざ保存的治療が行き詰まった時にはいつでも外科医として手術で腕がふるえるようように研鑽しなさい」と言っておられました。保存的治療でどれぐらい患者さんを満足させられるか。単なる「手術数」だけでは推し量れない、これまた肛門科のなかなか奥が深いところなのでございます。