【寄稿】揺らがない人たち――トランプ氏に忠誠を誓う支持者とは

  • 2016年10月31日

マイケル・ゴールドファーブ、ジャーナリスト

Man wearing cowboy hat with Trump for president sticker Image copyright Getty Images

2016年の米国の分断はあまりにすさまじく、有権者の半分はもう半分のことがほとんど理解できずにいる。「ドナルド・トランプ現象」をどう理解するかが、今回の大統領選報道の主要テーマで、通常の大統領選で取り上げられる経済政策や外交政策の話は脇に追いやられてしまっている(敬称略)。

テーマは候補本人のことではない。トランプは自分が何者か隠そうとしない。女性や少数人種をどう思っているか、言葉を濁そうともしていない。国際問題にどう取り組むつもりかというのも、誰の目にも明らかだ。

トランプに入れるつもりがない人たちが当惑しているのは、別のことだ。どうして自分と同じ米国市民が何千万人も、まだ彼を支援しているのかが分からないのだ。いったいどういう人たちが、トランプをまだ支持しているのか?

答えは、私が「ブロック」と呼ぶ集団の中にある。

ここで言う「ブロック」とは、有権者の約4割を占める。米国の大多数ではないが、国内で最大のまとまった有権者集団だ。過去6回の大統領選のうち4回敗れた。しかし連邦議会の上下両院のいずれか、あるいは両方を常に支配してきたし、複数の州の議会を支配してきた。民主党政権が国を統治するのはほとんど無理なのは、このためだ。

「ブロック」は2008年の大不況で生まれたわけではないし、2001年9月11日の同時多発テロで生まれたわけでも、2000年のITバブル破綻で生まれたわけでもない。今回選挙で経済問題の悪の象徴にされている1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)も、そのきっかけではない。

そうではなくて、相次ぐ出来事の連鎖がまるで地質学作用のように働き、有権者の層が積み上がり、共和党支持者の分厚い「ブロック」が出来上がったのだ。

米コロンビア大学で社会学とジャーナリズムを教えるトッド・ギトリン教授は、「経済が悪化して人が居場所を失うたびに」、かつて民主党支持者だった人が共和党支持に転じて、新しい層が積みあがるのだという。そしてそれは圧倒的に白人だ。

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Image caption トランプ人気は1930年代の大恐慌に端を発しているのか

ギトリン教授は、この動きの発端は1930年代のダスト・ボウル、米中西部で相次いだ砂嵐なのだろうとみている。オクラホマやカンザスの農民の多くが畑を捨てて移住を余儀なくされ、多くは南カリフォルニアにたどりついた。その子供たちが、極右組織ジョン・バーチ結社の支持者となり、1964年大統領選の共和党候補バリー・ゴールドウォーターの支持者となったのだろうと。

1960年代後半には、南部の白人も大勢「ブロック」に加わった。公民権法と投票権法が成立し、奴隷制廃止から100年たって遂に、アフリカ系米国人に市民としての平等が保障されたからだ。

続いて1970年代後半と1980年代前半に、北東部と五大湖周辺の工場が次々に閉じると、ペンシルベニア州西部のジョンスタウンのような地域は次々と破綻していった。強力な労組を誇る鉄鋼労働者でさえ、職を失ったのだ。職を求めて大勢が移住を余儀なくされた。新しい仕事といってもそれは、何世代も続き地域社会の発展を支えた工場の仕事のように安定したものでは決してなかった。1930年代に住む場所を追われた人たちと同じくらい、苛烈な流浪だった。

かつて栄えた工場が使われなくなり、さびついた姿から、こうした工業地帯を「ラストベルト(さび地帯)」と呼ぶ。

「ラストベルトは、我々にとってのダスト・ボウルだ」とギトリン教授は言う。

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Image caption オハイオ州ウォーレンの閉鎖工場

あるいは、連邦最高裁が1973年に「ロー対ウェード」裁判で女性の人工中絶権を認める判決を下してからというもの、この問題のみを選挙の争点とするようになった人たちも、「ブロック」に加わった。

しかし米国の2大政党はいずれも、大連立政党だ。

失意の民主党支持者が伝統的に裕福な共和党員と共闘するようになった過去50年の間に、民主党も生まれ変わっていたのだ。

新しい民主党の構成は多様だ。少数者や女性への何百年にわたる職業差別を修正しようと優先的雇用を推進し、性については社会的にリベラルな立法を後押ししている。

アフリカ系米国人の圧倒多数が民主党を支持する。ヒスパニックやアジア系の有権者も大多数が民主党を支持する。そして大学出身の白人が党を支配し、党の世界観を作り、発信者となる。

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Image caption 民主党の支持者は多様で、多くが都市部に住む。写真は今年7月の民主党大会最終日。

大学キャンパスや主要メディアでの政治議論は常に、自己アイデンティティーやジェンダーを取り上げる。民主党側が今年提起した議論のほとんどは、白人男性のアイデンティティーに関するものだった。ニューヨーク・タイムズは「怒れる白人男性」について何十本もの記事を掲載した。

最近の記事は「男性には助けが必要、ヒラリー・クリントンがその答えなのか?」という見出しだった。筆者は、ジェンダー編集長になったばかりのスーザン・チャイラ。興味深いことに、「ブロック」が急成長を始めた1960年代後半から1970年代にかけて、同紙にはフルタイムの労働問題担当記者がいたのだが、今はもういない。

この世界観の違いから、米国のひどい分裂が垣間見える。

ドナルド・トランプがあの独特の語り口で、「NAFTAがアメリカの職を奪った」と攻撃すると、「ブロック」は歓声を上げる。ジェンダーとアイデンティティーを政策課題として重視する民主党を、その「ポリティカリー・コレクト」な物言いをトランプが攻撃すると、「ブロック」の人々は同意してうなずくのだ。

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民主党支持者のほとんどは、信じられないと首を振る。いったいどうやったらあの共和党候補に投票できるのか、まったく理解できないのだ。

しかし「The Unswayables(揺らがない人たち)」というラジオ・ドキュメンタリーを作っている最中に出会ったクリントン支持者は、理解していた。教職を引退したボニー・コルドバと私は、ニューヨーク・クイーンズ地区の「ボヘミアン・ビア・ガーデン」で2回目の大統領候補討論会を観ていた。その後で、どうしてトランプに投票する人がいるのか分かるか、尋ねてみた。

彼女は理解していた。

「(マイノリティーの多い)都市中心部の学校で30年も教えていたので」とコルドバは説明した。「マイノリティーじゃないので、絶好のポストへの昇進で何度も先を越された。移民の子供だからと生徒が、歯科や眼科の治療をただで受けられるのに、自分の子供の医療費を払うのに苦労する、そういう学校でずっと教えていた」。

そういう経験から自分の中に不満や恨みがたまっていったと、コルドバは認める。

「その火を煽れば憎しみに変わることもある。自分でそれを乗り越えないと」

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しかし誰もが乗り越えられるわけではない。

それゆえに米国社会と政府は分裂している。危険な形で。

しかし「ブロック」は、常に必ず共和党に連結しているわけではない。

民主党は、かつての支持者をいくらか取り戻せば、統治するにあたってかなり楽になる。そのための最善の策は、雇用に直接関することだ。経済的な居場所の喪失が「ブロック」を作りだした。安定した雇用は「ブロック」を縮小するかもしれない。

しかし1960年代以降、米国の左派リベラル運動を指導してきたギトリン教授は、そうそう直ちにこれが実現するとは期待していない。

「社会民主主義のビジョンとはなんだ? バラバラなビジョン、細分化されたビジョン、小さなビジョンはある。しかし情熱的な中心がない。より良い世界とはどういうものか、明るく照らしてくれるようなアイデアがない」とギトリン教授は言う。

「市民であること、それにはどういう苦労が伴うのか、多くの人は理解していない。自分たちを国民として統治するのが、どういうことか、理解していない。これは右派だけの問題ではない。左派でも、政治的な努力とはどういうことか持続可能な考えが持てずにいる」

「ブロック」は少なくとも半世紀かけて形成されてきたものだ。少しずつ突き崩していくにしても、1回の大統領選だけでは無理だ。まして米国史上最も大統領らしくない候補に話題を独占された大統領選では。

有権者を説得して、民主党に戻るまでには至らなくても、せめて妥協と、機能する政府が実現可能になるところまで来てもらうには、時間をかけて説得する必要がある。しかし民主党の側で、そのために何年もの時間を捧げてもいいという人、それほどの忍耐力のある人が誰なのか、定かではない。

(英語記事 Who are Trump's loyal army?

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