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マクガイヤーチャンネル 第91号 【科学で映画を楽しむ法 第2回:『コンテイジョン』――科学的正確さと映画的面白さの両立―― その1】
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マクガイヤーチャンネル 第91号 【科学で映画を楽しむ法 第2回:『コンテイジョン』――科学的正確さと映画的面白さの両立―― その1】

2016-10-31 07:00
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マクガイヤーチャンネル 第91号 2016/10/31
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おはようございます。だんだん朝起きるのが辛い季節になってきたマクガイヤーです。

先週の放送「最近のマクガイヤー 2016年10月号」は如何だったでしょうか?

ゲストにキリグラフことタクジさんも登場してくれて、楽しい放送になったと思います。



マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。



113日(木) 20時~

「『聲の形』は何故素晴らしいのか?(仮)」

917日より映画『聲の形』が公開されており、興収約16億円、動員約125万人を突破と大ヒットしています。

本作は漫画『聲の形』を原作としており、原作が本来持っていた障害者の描き方や、京都アニメーションによる原作に忠実な映画化のクオリティも話題です。

そこで、『聲の形』の原作漫画と映画双方について2時間しっかり解説します。



1126日(土) 20時~

「最近のマクガイヤー 201611月号」

いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

詳細未定。



123日(土) 20時~

「ニッポン対ワクチン」

子宮頸がん予防(HPV)ワクチンの副反応や、HPVワクチン薬害研究についての疑義、というか捏造報道など、ワクチンに関する報道や話題が盛り上がっています。

そこで、そもそもワクチンとは何か、どのように発明されどのように使われてきたのか、何故大事なのか、なにが現実でなにが虚構なのか……等々について今一度しっかり解説します。



1216日(金) 20時~

「最近のマクガイヤー 201612月号」

いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

詳細未定。



1230日(金) 20時~

Dr.マクガイヤーのオタ忘年会2016

年に一度のお楽しみ!

2016年度のオタクトピックについて独断と偏見で語りまくります。

詳細は未定ですが、『ローグワン / スターウォーズ・ストーリー』について語ることだけは決まっております。



お楽しみに!



番組オリジナルグッズも引き続き販売中です。

マクガイヤーチャンネル物販部 : https://clubt.jp/shop/S0000051529.html

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……等々、絶賛発売中!




さて、今回のブロマガですが、今回こそ「科学で映画を楽しむ法」第2回として『コンテイジョン』について書かせて下さい。



科学的正しさは映画的面白さと対立する――そう考えられがちです。


例えば『スター・ウォーズ』では、真空のはずの宇宙空間で、宇宙船の推進音やビームの発射音や爆発音が鳴り響きます。無重力である筈の宇宙空間なのにきっちり上下が決まっていたり、ファルコン号にもX-ウイングにも回転部が無いにも関わらず艦内にはきっちり重力が発生していたりします(スター・ウォーズ世界に「重力井戸」の設定ができたのは旧三部作完結後の1989年です)。

これは、『スター・ウォーズ』が科学的裏づけに支えられたハードなSF映画ではなく、片手に剣、片手に美女でカッチョ良い宇宙船に乗って銀河を又にかけて冒険しまくるというスペースオペラを映画で実現しようという作品だったからです。『スター・ウォーズ』は科学的正しさよりも、『フラッシュ・ゴードン』のようなスペースオペラ的爽快感や格好よさを重視する映画でした。

仮に『スター・ウォーズ』の宇宙シーンを無音にしたら、面白さは半減してしまうでしょう。


例えば『シン・ゴジラ』は、政治的手続きや自衛隊の作戦行動についてはリアリティ溢れる映画です。しかし、作中に出現するゴジラは(他作品のゴジラと同じく)生物学的にありえない存在です。「上陸したら自重で歩けない」どころか骨折してしまうだろうし、エネルギーを得るために共生している細菌は元々どこに棲んでいたのか、そもそも「まるで進化だ!」と呼んでいるあの形態変化は変態なのか「進化」なのか……

しかし、映画の面白さという観点でいえば、日本にありえない危機をもたらすための、生物学的にありえないゴジラこそが正しいのです。ゴジラが生物学的に「比較的ありえる」存在だったエメリッヒ版『GODZILLA』がどれだけつまらなかったか。ゴジラが普通のビルより小さく、ミサイルで倒される存在だったら、あれほど面白くはならなかったでしょう。


多くの映画では、映画的面白さを優先するために、科学的正しさを犠牲にします。当然です。現実ではありえないことを描けることこそが、映画の利点なのですから。


しかし、これはリアリティを犠牲にするという意味ではありません。


たとえば戦争映画は、武器や兵器や作戦行動や軍隊内での用語や組織描写といった、戦争行動に関わるものをリアルにすればするほど(一般的には)面白くなるというジャンルです。実際に戦争に参加した人や、実際に人を殺した経験のある人が一定数いるアメリカでは(他国も同じですが)、生半可な覚悟で戦争や殺人を描けば非難が集中するでしょう。もっといえば、きちんと人が死なない戦争映画ほど罪深い映画はありません。

同じようなリアリティと面白さの関係は、裁判映画や政治映画にも共通します。これは、裁判や政治が戦争と同じく国民の何割かが経験するであろう身近な題材であるという理由の他に、裁判映画や政治映画が戦争映画の一バリエーションであるからという理由もあります。人間がこの世に生まれて死ぬ存在である以上、「何かと戦って生き延びる」映画は、リアリティに溢れた、真剣なものにならざるを得ないのです。例外として、あえて幻想的だったり象徴的だったりする描写を選ぶ場合もありますが、真剣に作られてないという意味ではありません。

しかも、この「何か」は人間に限りません。人間社会に存在する様々なシステムだったり、自然の驚異だったりということもありえます。

だから『シン・ゴジラ』のような怪獣映画も戦争映画の一バリエーションであり、ゴジラの描写には幻想性や象徴性を込めつつ、政治や自衛隊の描写にはリアリティを重視しているわけです。



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この意味において、『コンテイジョン』は人類社会を脅かすウイルスとの闘いをリアリティたっぷりに描いた戦争映画といって良いでしょう。

実際に、細菌やウイルスや寄生虫を原因とする感染症が人類社会を脅かす存在であるということは、今更説明するまでもないでしょう。人類にとっての最大の天敵であり、これまで最も多く人間を殺してきた生物は、蛇や熊やライオンといった猛獣ではなく、感染症の原因となる細菌やウイルスや寄生虫です。抗生物質の開発により、人類は感染症を制圧できると考えられてきましたが、20世紀末にはそれが浅はかな考えであることが分かりました。

開発に伴う新興感染症の出現、地球温暖化に伴う再興感染症と呼ばれるすでに克服されたと思われていた感染症の再流行、そしてグローバル化による伝染の拡大……等々の理由により、21世紀は「感染症の世紀」と呼ばれています。

実際に、2009年に新型インフルエンザの世界的流行(パンデミック)が起こりました。2011年に制作された『コンテイジョン』は、当然のようにこの出来事を踏まえて作られています。


過去、人類と感染症の闘い――そのクライマックスとなるパンデミックを描いた映画は多数作られてきました。『アウトブレイク』『感染列島』『アンドロメダ・ストレイン』『復活の日』といった過去作と『コンテイジョン』はどう違うのでしょうか。


二つあります。取材に支えられた科学的正しさと短い映像に沢山の意味を持たせる映像的センスのよさです。


『コンテイジョン』における科学的描写は、研究室内でウイルスをどう解析するかといったミクロな描写から、人類が感染症に対してどう反応するかといったマクロな描写まで、ほとんどの点において正しいのです。ハリウッド制作の映画で、この正しさは驚くべきことです。『アウトブレイク』や『感染列島』のような大スペクタクル映画とは遠い地点に『コンテイジョン』はいます。科学的描写と映画的面白さが両立する稀有な作品の一つといっていいでしょう。


『コンテイジョン』の監督は、もはや名匠と呼んでも差し支えないスティーブン・ソダーバーグです。

ソダーバーグは26歳で『セックスと嘘とビデオテープ』を監督し、カンヌ映画祭でグランプリを受賞しました。『セックスと嘘とビデオテープ』はセックスに関するドキュメンタリーを制作している――という理屈でハメ撮りをしまくる男の話でしたが、これは監督の実際の生活を反映していたというのは有名です。ソダーバーグは若い頃からドキュメンタリーやドキュメンタリー・タッチの映画を作っていたわけです。

ソダーバーグは2000年に『トラフィック』でアカデミー監督賞を受賞します。『トラフィック』は最も早いメキシコ麻薬戦争映画でしたが、アメリカとメキシコ双方の麻薬捜査官、アメリカの麻薬密売人とその妻、麻薬撲滅担当の大統領補佐官と麻薬に溺れるその娘……といった複数の象徴的な視点をドキュメンタリー・タッチで並列に描き、「麻薬との戦争」全体を描き出すという見事な映画でした。

『コンテイジョン』は、『トラフィック』とほとんど同じ手法でウイルスとの「戦争」を描いた映画といって良いでしょう。有名スターが競演すること、本当の敵は麻薬やウイルスではなく人間社会における格差であること、強さも弱さもある登場人物たちがそれぞれの立場で奮闘し、自分なりの形でそれに一矢報いること……等々も共通しています。



それでは実際に映画を観てみましょう。

『コンテイジョン』は、「伝染」や「感染」を意味する単語を冠する映画にふさわしく、一流スターであるグウィネス・パルトロウが堰こむシーンからはじまります。既に感染しているのです。最初は真っ暗な画面で、堰の音だけ聞こえるというのもセンスたっぷりです。また、直後に電話で会話するのですが、その話の内容が昨夜のセックスというのが、いかにも『セックスと嘘とビデオテープ』でデビューしたソダーバーグらしいです。

その後、不穏な音楽と共に、香港や欧州や日本で堰こみ発熱してる人が変死するモンタージュが続きます。合間に、帰宅するグウィネスのシーンが挟まります。きちんと旦那がいて、子供がいます。つまり、先ほどの電話は浮気相手との会話なのです。旦那を演じるマット・デイモンは一流スターですが、『ボーン』シリーズや前年に公開された『グリーン・ゾーン』と同一人物とは思えないくらい太っています。更に、香港に出張するほどの大会社に勤めるグローバル・エリートである妻とは対照的に、失業中であることが短い会話で示されます。妻の浮気を疑ってもいないイノセンスを演出しているわけですね。


この映画は親切なので、もう一人の主人公であるローレンス・フィッシュバーン演じるアメリカ疾病管理予防センター(CDC)局長と、最大の敵であるブロガーであるジュード・ロウも直後に登場します。清掃員ですら気遣うフィッシュバーンと、仕事仲間である女性編集者すら話の成り行きによっては脅迫するジュード・ロウを対比させて、あからさまにどちらが善人でどちらが悪人か示しているのはさすがハリウッドです。編集者ロレインが妊娠しているのも芸コマですね。


そして、グウィネス・パルトロウが死にます。口から泡を吹き、身体を痙攣させ、苦しんで死にます。この映画ではマット・デイモンの次かその次くらいにランクの高い俳優ですが、映画開始8分で死ぬのです。



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