過酷な戦場体験に根ざした戦記小説で知られる直木賞作家で、人生の滋味をたたえた詩風の詩人である伊藤桂一(いとう・けいいち)さんが10月29日、亡くなった。99歳だった。葬儀は近親者で行い、後日、お別れの会を開く。喪主は妻千代美さん。

 三重県生まれ。4歳の時に父が事故で死に、幼時から人生の辛酸をなめた。旧制中学時代から同人誌などに小説と詩を投稿した。1938年に出征して中国戦線を転々とし、後の創作活動の基底となる戦場体験を重ねた。

 戦後は出版社勤務などで生計を立てながら懸賞小説に応募した。62年、小隊長と一兵士の友情を描いた「蛍の河」で直木賞。84年には戦場の光景と心理を克明に描いた代表作「静かなノモンハン」で芸術選奨文部大臣賞と吉川英治文学賞。下級兵士の心理や日常を淡々と描いた作品が多い。85年に紫綬褒章、2001年に日本芸術院賞と恩賜賞を受け、日本芸術院会員。叙情的な作風の時代小説もある。

 詩集に「定本 竹の思想」「連翹(れんぎょう)の帯」(地球賞)など。07年には老いの心境を豊かに歌い上げた「ある年の年頭の所感」で三好達治賞。