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「NO.74: 「日本最古の蔓牛」」

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2010年1月20日

 蔓(つる)とは、特性がよく固定化され斉一性が高く、優秀な形質を持ち、かつその遺伝力が強い牛群のことを指します。またその牛群の牛を蔓牛といいます。現在の「系統」や「近交系」と通じるような意味を持つ言葉ですが、生物学的、遺伝学的な用語ではありません。

 江戸時代の末期1800年代、蔓は中国地方(岡山県、島根県、広島県、兵庫県)で豪農や家畜商、鉄山師などの手により作られはじめました。日本最古の蔓牛とされる竹の谷蔓牛は,天保初年(1830)阿哲郡新郷村(現神郷町)の浪花千代平が生産した優良牝牛が基になって造成されたものです。この蔓牛が基になってさらなる分け蔓を生み出していき、中国地方の系統牛、ひいては現在の和牛のルーツとなっていきました。

 遺伝学も育種学もなかった時代に蔓は、(1)根気よく、よい雌牛を選抜して、(2)近親交配を行って、優良遺伝子のホモ化をはかり、(3)2頭の種雄牛を選抜して、生まれた子牛を交互に交配して近交による障害にも配慮して作出されました。
 後代検定、近親交配、戻し交配、近交退化の防止・・・規模こそ違えど、現在の家畜育種技術はこのころ既に経験的に理解され行われていたのです。

 系統やブランド、牛の価値を高め、おいしそうな印象を与えてくれる言葉は幾多とありますが・・・蔓牛・・・この言葉には、ここまで歩んできた日本人と牛の歴史、情景を、脳裏に浮かばせるような、そんな神秘的な響きがありますよね。
 先月、岡山県新見市で竹の谷蔓の流れを汲む千屋牛を食べることができました。・・・脳裏に・・・れきし・・・つる・・・とても美味しかったです(笑)!

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