李忠成がルヴァンカップ決勝で値千金の同点弾を挙げ、MVPに選出される。
36歳の老獪なMF・遠藤保仁のタテパスに快足FWアデミウソンが抜け出す形で前半17分にガンバ大阪が先制し、1点をリードしたまま終盤に突入した15日の2016年ルヴァンカップ決勝。追い詰められていた浦和レッズのミハイロ・ペトロヴィッチ監督は76分、最近絶好調の高木俊幸に代えて、ここ一番の強さを誇る李忠成を投入し勝負を賭けた。
直後の右CKのチャンス。この得点機を確実にモノにしたのが、登場したばかりの背番号20だった。
「ヒガシ(東口順昭)も出やすいから、GKの前に落とせて、ストーンを超えたらいいかなと思って蹴った」と言う柏木陽介のボールに李はフリーで飛び込んでヘッド。豪快にネットを揺らす。赤の軍団にとっては起死回生の一撃となった。「自分のところに来るんだって気持ちが引き寄せたゴールだった。出る前からイメージしてなきゃ緊張して外してたと思う。自分が途中から入って『ヒーローになるんだ』っていう攻めの気持ちが呼んだ1点だと思います」と本人は熱っぽく得点シーンを振り返った。
この同点弾がなければ、延長戦突入も、PK戦での西川周作のスーパーセーブも起こり得なかった。柏木も「チュン君は決勝で持ってる男なのかな」と笑ったが、持ち前の勝負強さを李は改めて見せつけたのである。
大一番でMVPに輝いた李の「ヒーローになるんだ」という言葉は、2011年アジアカップ決勝・オーストラリア戦(カタール)で決勝弾を叩き込んだ時と全く同じである。李の脳裏にも5年前の歓喜のシーンが蘇ったという。
「確かにアジアカップを思い出しましたね。今回は1-1の同点ゴールでしたけど、あの時の気持ちの持って行き方っていうのが生きましたね」と本人は満面の笑みを浮かべた。
当時の李はペトロヴィッチ監督率いるサンフレッチェ広島に所属。猛烈なゴールラッシュを披露し、日本代表の座を強引につかみ取るという凄まじい勢いを示していた。2011年はJ1でも得点ランキング3位タイの15得点をマーク。2012年1月にはイングランド・チャンピオンシップ(現プレミアリーグ)のサウサンプトン移籍を勝ち取った。
「ミシャ(ペトロヴィッチ監督)と出会ってプレーの幅が広がったし、日本代表にも入れたし、イングランドにも行けた。彼がいなかったらここまでいろんな世界を見れなかった。彼の下でいろんな選手が成長してるし、ホントに素晴らしい監督だと思います」と李は恩師であるセルビア人指揮官に深い感謝の念を抱き続けていた。
だが、長年の夢だった新天地・イングランドではいきなり右足じん帯損傷の重傷を負い、復帰後も出番を得られなかった。2013年にFC東京へレンタル移籍し、一時的にJリーグに復帰するも広島時代のようなパフォーマンスは出せなかった。その後、戻ったサウサンプトンでも試合から遠ざかり、李は不完全燃焼の日々を強いられていた。
そんな李に復活のチャンスを与えたのが、浦和指揮官督に転身していたミハイロヴィッチ監督だった。2014年から赤の軍団の一員になることを決断。Jの舞台に戻って再起を賭けたが、日本代表入りした頃のような輝きをなかなか取り戻せなかった。本人は停滞の要因をこのように分析している。
「海外にいた時、半年くらい歩けないケガをして、その時期がすごく長かったんでフィジカル面でフィットするのがすごく難しかった。まずはそれが大きかったですね移籍当初はレッズに対して受け入れられない思いがあったのも事実です。僕は東京や柏レイソル、広島といったクラブに所属してきましたけど、そういうチームでは向こうのほうから愛してくれたけど、レッズではいろんやヤジとかを受けて『何でだよ』ってところがすごくあった。自分の中でも反骨心が高まり『じゃあ、見せてやるよ』って感じになっていたのは確かでした」
しかし、李は自らが歩み寄ることを決意した。
「昨年後半くらいから、自分からサポーターやチームに歩み寄るようになった。それで見方が変わったし、居心地がすごくよくなった。やっぱりサッカーはメンタル的な部分がすごく大切。今はレッズが大好きだし、このチームでタイトルを取るために全身全霊で戦えている」
だからこそ、この日のMVPインタビューで「We are Reds」とわざわざ大声で言ったのだろう。その言葉は李がサポーターと一体化し、心身ともに浦和レッズの一員になったことの表れと言っても過言ではない。長い長い紆余曲折を経て、闘争心あふれる点取屋は国内初タイトルへと導き、歓喜の雄叫びを上げることに成功したのだ。
「ミシャは勝った瞬間は嬉しそうでしたけど、もう切り替えてましたよ。僕たちも目指しているのはJリーグのセカンドステージで優勝し、チャンピオンシップにも勝って世界大会に出ること。今日は素晴らしい日になりましたけど、自分自身ももう切り替わっています。これからも『チームがつらい時には李忠成がやってくれる』という選手になれるように頑張っていきます」
今季開幕からスタメンを確保してきたが、ここへきて高木にポジションを奪われる形になっていた。この日残したインパクトを機に再び定位置を奪回し、浦和のリーグ制覇の原動力になるべく李は前へ突き進む。
文=元川悦子