地方議員の口利き記録制度 導入自治体は約半数にとどまる
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地方議員による不当な口利きを防ごうと全国の自治体で議員による要望などを記録する制度の導入が始まっていますが、NHKと市民オンブズマンが主な自治体を調べたところ、制度の導入はおよそ半数にとどまっていることがわかりました。開示された記録では、特定の業者への優遇を求めるなど不当だと疑われかねない口利きも確認され、専門家は「議会と行政の信頼性を高めるためにも全国の自治体で記録制度を設けるべきだ」と指摘しています。
口利きの記録制度は、自治体が地方議員からの要望や働きかけなどいわゆる「口利き」を受けたときに文書に残して庁内で共有する制度です。
10年以上前に、宮城県や神戸市などで議員の口利きを発端にした談合や汚職事件が相次いだことをきっかけに、不正の未然防止のため全国の自治体で導入が始まりました。
NHKが全国市民オンブズマン連絡会議と都道府県や県庁所在地など全国125の自治体を調べたところ、現在、制度を導入しているのは67の自治体と全体の54%にとどまっていることがわかりました。
これらの自治体から情報公開請求でおよそ3000件の記録を入手し、専門家とともに内容を検証したところ、不当だと疑われかねない口利きが30件以上見つかりました。
中には、市が公募した保育園の選定で特定の事業者を採択するよう求めたり、学校の臨時職員に特定の個人の採用を求めたりするなどの口利きも確認されました。口利きを受けた自治体は応じなかったとしたうえで、「制度にしたがって記録を残すことで透明性が高まり、不正を防ぐことができた」としています。
地方議員と行政の関係について詳しい日本大学法学部の岩井奉信教授は「記録制度は自治体を不当な圧力から守る効果がある。逆に制度がないと密室で物事を決めているように有権者から見られてしまう。行政と議会の双方の信頼性を高めるために全国の自治体で記録制度を設け積極的に活用するべきだ」と指摘しています。
10年以上前に、宮城県や神戸市などで議員の口利きを発端にした談合や汚職事件が相次いだことをきっかけに、不正の未然防止のため全国の自治体で導入が始まりました。
NHKが全国市民オンブズマン連絡会議と都道府県や県庁所在地など全国125の自治体を調べたところ、現在、制度を導入しているのは67の自治体と全体の54%にとどまっていることがわかりました。
これらの自治体から情報公開請求でおよそ3000件の記録を入手し、専門家とともに内容を検証したところ、不当だと疑われかねない口利きが30件以上見つかりました。
中には、市が公募した保育園の選定で特定の事業者を採択するよう求めたり、学校の臨時職員に特定の個人の採用を求めたりするなどの口利きも確認されました。口利きを受けた自治体は応じなかったとしたうえで、「制度にしたがって記録を残すことで透明性が高まり、不正を防ぐことができた」としています。
地方議員と行政の関係について詳しい日本大学法学部の岩井奉信教授は「記録制度は自治体を不当な圧力から守る効果がある。逆に制度がないと密室で物事を決めているように有権者から見られてしまう。行政と議会の双方の信頼性を高めるために全国の自治体で記録制度を設け積極的に活用するべきだ」と指摘しています。
記録制度が効果 口利きに応じなかった自治体は
口利きの記録制度が効果を発揮し、地方議員による口利きに自治体が対応しなかったケースもあります。大津市では5年前に職員による着服事件が起き、行政の透明性が問われたことをきっかけに翌年、記録制度を導入し、昨年度だけで議員や企業、市民などから寄せられたおよそ3200件の要望などが記録されています。
このうち、ことし1月には市内のホテルで開かれた新年会で大津市議会の議員が当時、教育委員会にいた幹部職員に対して、知人の男性の名前を挙げて学校の臨時職員として「採用をお願いしたい」と求めたことが記録されています。
しかし、市はこの口利きには応じなかったということです。男性は採用されませんでした。NHKの取材に対して採用を求めた竹内基二議員は「職員が身近な後輩だったので話をしたが、試験をないがしろにしろなどとお願いできる立場でもなく強制したわけでもない。こういう形で書類として残っていることに驚いている」と話しました。そのうえで記録制度があることについて「議員活動の制約も出てくる一方で、よいことか、悪いことか注意する部分があるので、これからの活動に生かしていきたい」と述べました。
大津市教育委員会の船見順政策監は、「採用について議員など第三者に関与されることは不当な要求になる」と話しました。そのうえで「好ましくない要望を受けた際に、毅然(きぜん)と対応できればいいが、いろいろな関係性の中で、その場で対応することが難しいこともある。記録制度は組織で情報共有を図って対応することで、個人を守る制度だと認識している」と話していました。
このうち、ことし1月には市内のホテルで開かれた新年会で大津市議会の議員が当時、教育委員会にいた幹部職員に対して、知人の男性の名前を挙げて学校の臨時職員として「採用をお願いしたい」と求めたことが記録されています。
しかし、市はこの口利きには応じなかったということです。男性は採用されませんでした。NHKの取材に対して採用を求めた竹内基二議員は「職員が身近な後輩だったので話をしたが、試験をないがしろにしろなどとお願いできる立場でもなく強制したわけでもない。こういう形で書類として残っていることに驚いている」と話しました。そのうえで記録制度があることについて「議員活動の制約も出てくる一方で、よいことか、悪いことか注意する部分があるので、これからの活動に生かしていきたい」と述べました。
大津市教育委員会の船見順政策監は、「採用について議員など第三者に関与されることは不当な要求になる」と話しました。そのうえで「好ましくない要望を受けた際に、毅然(きぜん)と対応できればいいが、いろいろな関係性の中で、その場で対応することが難しいこともある。記録制度は組織で情報共有を図って対応することで、個人を守る制度だと認識している」と話していました。
口利きの記録 ネットで公開する自治体も
口利きの記録をインターネット上にすべて公開することで、不当な口利きを未然に防ごうという自治体もあります。奈良市は、平成18年ごろから口利きを発端にした職員の不祥事が相次いだことなどをきっかけに平成23年に記録制度を導入しました。
制度では、職員に対する議員からの口利きをすべて記録してインターネットのホームページに公開するよう定めています。ホームページでは、口利きを行った議員の名前やその内容、市の対応についての詳しい記録を月に1回程度公開していて、先月までに公開された記録はおよそ260件に上ります。
市によりますと、平成23年度に161件あった口利きの記録は昨年度は4件まで減ったということで、市はすべて公開することが不当な口利きに対する抑止力となっていると見ています。
奈良市法務ガバナンス課の木村和弘課長は「職員からもむちゃな要望などが減ったという意見もあり、制度の効果があったと思う。ホームページで公開することで透明性が高まり、要望が不当かどうかを市民が判断でき、行政の説明責任が果たせる」と話しています。
制度では、職員に対する議員からの口利きをすべて記録してインターネットのホームページに公開するよう定めています。ホームページでは、口利きを行った議員の名前やその内容、市の対応についての詳しい記録を月に1回程度公開していて、先月までに公開された記録はおよそ260件に上ります。
市によりますと、平成23年度に161件あった口利きの記録は昨年度は4件まで減ったということで、市はすべて公開することが不当な口利きに対する抑止力となっていると見ています。
奈良市法務ガバナンス課の木村和弘課長は「職員からもむちゃな要望などが減ったという意見もあり、制度の効果があったと思う。ホームページで公開することで透明性が高まり、要望が不当かどうかを市民が判断でき、行政の説明責任が果たせる」と話しています。
口利きの記録制度、自治体で導入すべき
政治学が専門で議員と自治体の関係に詳しい日本大学法学部の岩井奉信教授は、不当な口利きが無くならない背景には、自治体職員が議員に逆らいづらい関係があると指摘します。
岩井教授は「議員は選挙で選ばれたことを理由に、行政は自分たちの言うことに従うべきだと考えがちだ。一方で行政の側にも、議会運営をスムーズに行いたい気持ちがある。本来、行政と立法は対等な立場であるべきだが、議員と自治体職員の間にある上下の意識が口利きに結びつく背景にある」と指摘しています。
また、要望の内容について「議員の要求が公共の利益を代弁しているのか、個別の業者や個人の利益につながるのかが不当かどうかのポイントだが、実際はあいまいなケースも多い。その線引きの難しさから議員の要求を断りづらいと考える自治体職員もいるだろう」と述べています。
そのうえで、口利きを記録する制度について「自治体職員が議員の不当な要求を跳ね返す道具の1つとなる。市民から見えにくい議員活動の中身を明らかにする意味でも記録制度を活用できるので、多くの自治体で導入を進めるべきだ」と話しています。
岩井教授は「議員は選挙で選ばれたことを理由に、行政は自分たちの言うことに従うべきだと考えがちだ。一方で行政の側にも、議会運営をスムーズに行いたい気持ちがある。本来、行政と立法は対等な立場であるべきだが、議員と自治体職員の間にある上下の意識が口利きに結びつく背景にある」と指摘しています。
また、要望の内容について「議員の要求が公共の利益を代弁しているのか、個別の業者や個人の利益につながるのかが不当かどうかのポイントだが、実際はあいまいなケースも多い。その線引きの難しさから議員の要求を断りづらいと考える自治体職員もいるだろう」と述べています。
そのうえで、口利きを記録する制度について「自治体職員が議員の不当な要求を跳ね返す道具の1つとなる。市民から見えにくい議員活動の中身を明らかにする意味でも記録制度を活用できるので、多くの自治体で導入を進めるべきだ」と話しています。
口利きの記録制度とは
口利きの記録制度とは、自治体の職員が議員から要望や働きかけなどを受けたとき、議員の名前や内容、日時、その後の対応状況などを文書に残して上司に報告し庁内で共有する制度です。記録を残すことで、議員からの不当な口利きを未然に防ぎ、たとえ口利きがあったとしても、行政運営への影響を最小限に抑える目的があります。
10年以上前に宮城県や神戸市などで議員の口利きを発端にした談合や汚職事件が相次いだことをきっかけに、全国の自治体で導入が始まりました。
制度を設けている自治体は、それぞれ、条例や要綱を設けて独自にルールを定めています。どの程度の口利きまで記録するかは自治体によって異なっていて、職員が「不当な口利き」だと受け止めたときに限って記録する自治体もあれば、原則すべてを記録するところもあります。残した記録は、情報公開請求で見ることができるほか、一部の自治体ではインターネットで公開したり、定期的に概要を発表したりしています。
10年以上前に宮城県や神戸市などで議員の口利きを発端にした談合や汚職事件が相次いだことをきっかけに、全国の自治体で導入が始まりました。
制度を設けている自治体は、それぞれ、条例や要綱を設けて独自にルールを定めています。どの程度の口利きまで記録するかは自治体によって異なっていて、職員が「不当な口利き」だと受け止めたときに限って記録する自治体もあれば、原則すべてを記録するところもあります。残した記録は、情報公開請求で見ることができるほか、一部の自治体ではインターネットで公開したり、定期的に概要を発表したりしています。