全国の小中高校、特別支援学校で昨年度認知されたいじめが、22万4540件と過去最多を記録した。文部科学省の集計である。学校教育の場で教員らが察知、確認した数だ。前年度より2割近く増えた。
文科省はできるだけ実態が明らかになるよう、いじめ発生件数の多さが学校や教員の評価を落とすものではなく、むしろ積極的な取り組みとみると表明してきた。
それもあって、過去最多の数字も、教員らによる掘り起こしの努力が奏功したとみられる。しかしなお潜在するいじめの存在を常に念頭に置き、いじめの芽や被害児童・生徒が発するシグナルに敏感でありたい。
調査は全体的に深まったが、1000人当たりの発生認知件数を都道府県別に比べると最大26倍もの差がある。また、1年間に1件もいじめは見つからなかったとする学校も4割近くある。いじめのとらえ方の差異もあろう。文科省は調査がまだ実態を反映しきれていないとみる。
被害に遭う子供を救い、解決する対策もまだ多くの課題を負う。
2011年に大津市で起きた男子中学生の自殺事件をきっかけに、「いじめ防止対策推進法」(いじめ防止法)が13年度に施行された。行政や学校に防止への取り組みと支援体制整備を課したものだ。
しかし、文科省によると、13~15年度にいじめ問題を抱えて自ら命を絶った子供は23人になるなど、事態はなかなか改まらない。
法の柱は、学校が自ら「いじめ防止基本方針」を定め、中枢機能を担う対策組織を設置することだ。
個々のいじめ情報は集約され、教員らは情報を共有し、組織で対応する。一人で抱え込まない仕組みだ。
情報の共有が鍵だが、これができていない例が少なくないという。
例えば、昨夏、岩手県で男子中学生が命を絶った事件では、生徒が担任と交わすノートにいじめのつらさを記し自殺の示唆もしていたが、情報は共有されなかった。
法や方針、組織を整えても十分機能していない。そうした状況を踏まえ、施策の改善を論議している文科省の有識者会議は、各校が対策の達成目標を立てることも提案した。年間を通して、どのように取り組むか計画を定め、その達成度を学校の評価に反映させるという。
ただ、かねて指摘されるように、現場の教員の多忙さも情報共有への大きなネックとなっている。いじめ問題専従の教員配置や、カウンセリング体制の拡充など、有効策には財政的措置や支援も欠かせない。
いじめはどこでも誰にも起こりうる。その認識を原点に、形ではなく中身ある対策を求めたい。