ロンドンの雇用裁判所は先週、米配車サービス大手のウーバーに対し、厳しい判決を下した。裁判所はその際、ハムレットの「ご婦人はむきになって主張し過ぎだと私は思う」というセリフを引用したが、これは、ウーバーの幹部の一人がウーバーは運輸業者ではなくテクノロジー企業だと主張したことに言及したものだ。
また、ハムレットで「自分が仕掛けたわな(爆弾)に自分がはまる」と工兵について表現したシェイクスピアの別のセリフも引用できただろう。ウーバーは6月には自らが考案した仕組みで企業価値630億ドルの国際的な運輸業者に成長したが、同社は運転手を雇用しているとはまだ認めていない。この仕組みは28日に突如、砕け散った。
ロンドンにいるウーバーの運転手3万人が法定最低賃金と有給休暇取得の権利を持つ被雇用者だとする雇用裁判所の判決は、世界中で判断が分かれる一連の判決で最新のものだ。裁判所と規制当局は、ウーバーの運転手が被雇用者なのか請負の自営業者なのかという問題に取り組んできた。これは「ギグ・エコノミー(請負経済)」の今後に大きく影響を与える問題だ。
■中庸の解釈打ち出す
ウーバーは上訴しているが、この判決はその明瞭さと英国の雇用法について中庸の解釈がなされた点で意義深い。裁判所に「被雇用者」と分類されたウーバーの運転手は、すべてではないが一部の被雇用者の権利を享受できる。
米エアビーアンドビーなど他の「ギグ・エコノミー」企業大手と同様、ウーバーはブランド力とマーケティング力、売り手と買い手をつなぐテクノロジー、支払いサービスを提供する。こうした仕組みにより、雇用や設備投資の責任をすべて負担せずに、気軽に車を借りたり、部屋に滞在したりすることが可能になった。
裁判所は「ロンドンのウーバーが共通の仕組みでつながった3万の小規模事業者の集まりだとする主張は、我々からすると、ややばかげている」と結論付け、雇用責任を逃れようとするウーバーの試みを断固としてはねつけた。また、同社の契約における「でっちあげ」や「巧妙に練られた文言」を非難した。
裁判所はウーバーとその雇用責任について、カリフォルニアの裁判所の見解と一致しているが、米国の他の裁判所はウーバー側の主張を支持していると指摘している。フロリダの裁判では「アートギャラリーと芸術家の関係と同様に、ウーバーは運転手の雇用主ではない」との判決が下された。
雇用か自営かの二者択一である司法管轄の多くで、ウーバーが雇用主としての資格を持たないのは事実だ。だが同社は、運転手の働き方を厳しく管理しているにもかかわらず、規制当局に対し、運転手は独立した請負業者であると主張し、法の目をかいくぐっている。これは、技術の進歩に合わせて法律を改正すべきであることを示している。
雇用法は、労働者の搾取を防ぎ、雇用主を失業保険や医療保険などの福利厚生に寄与させるためのものだ。技術の進歩により、労働者との距離を保ちつつ、(運転手の)管理体制を維持することでこうした責任から逃れることが可能になれば、労働者の権利は制限され、社会福祉も損なわれるだろう。
ウーバーや類似企業に雇用契約の全責任を負わせるのも誤りだろう。ウーバーの運転手の多くは同社が提供する自由を好み、消費者は質の高い配車サービスを手軽に利用できる恩恵を受けている。裁判所は同社を廃業に追い込んで、こうした恩恵を犠牲にすべきではない。
裁判所は、ウーバーの運転手を英国の最低賃金と有給休暇取得の権利を持つ「被雇用者」だと判断した。米国では、年金や医療保険などの雇用主負担を制限した「独立被雇用者」という新たな分類を設ける案も出ている。ウーバーが誠実な企業として存続できる法律が必要だ。
(2016年10月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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