政務活動費を巡る不正で議員12人が辞職したことに伴う富山市議補選が30日告示され、改選数13に25人が立候補した。富山県議会なども巻き込んだ「辞職ドミノ」に有権者はどんな審判を下すのか。投開票は11月6日。
この問題で富山県内で7~10月に議員辞職したのは16人(県議3人、富山市議12人、高岡市議1人)。不正を認めつつ居座る議員もいる(県議2人、富山市議10人、高岡市議2人)。富山市議会で不正に関与した議員は定数40の半数を超え、総額約4028万円が返還される。
発端は、富山市議会が6月に議員報酬の月10万円増額を決めたことだった。「議員とカネ」への関心が高まる中、7月に自民の富山県議(57)が書店の領収書を偽造した架空請求を公表し辞職。その後、報道で不正を指摘され、辞める議員が続出した。実際には開いていない市政報告会の印刷代や茶菓子代を請求し、遊興費に充てる例もあった。
9月には富山市議会の民進系会派でも、茶菓子代2268円の領収書に万の位の「2」を書き足すなどの不正が発覚した。手口を代々引き継ぎ、口座にプールして選挙資金にしていた。
不正の背景には「使い切り体質」があるとみられる。全国市民オンブズマン連絡会議(名古屋市)によると全国の都道府県・政令市・中核市113議会で2015年度、富山市議会だけが交付全額7920万円を使い切り、自民会派では年度末近くに請求が集中していた。
市議補選では辞職12人と県議に転出した1人の計13議席を争う。自民の候補擁立は難航し、無所属新人5人の推薦・支持にとどまった。その中の一人は「混沌(こんとん)とした市議会を立て直したい」と訴えた。民進は擁立も推薦・支持もせず傍観する。これに対し共産、維新、社民各党は2~3人ずつ擁立し、「やったことは犯罪だ。自民に自浄能力はない」と攻勢をかける。「政務活動費は使わない」と主張する新人も登場した。
ただし有権者の関心は高いとは言えず、低投票率も懸念される。告示された30日、市内に住む飲食店員の男性(24)は「選挙で無駄な税金を使うのが許せない。不正が次々出てきてうんざりする」と話した。【大東祐紀】
法改正で運用に問題
政務活動費はかつて「政務調査費」と呼ばれ、使い道は調査研究に限られていた。2012年の改正地方自治法で使途は「調査研究その他の活動」となった。「その他」の内容は自治体が条例で定めるとし、陳情活動の交通費や宿泊費なども認めるようになった。代わりに「(自治体議会の)議長が使途の透明性の確保に努める」とする規定も盛り込まれた。富山など各地で発覚する政務活動費を巡る不正は、透明性の確保が不十分だったことを物語る。
富山市議会は法改正に伴い、使途報告の添付書類を増やす規定を条例の運用指針に盛り込んだ。しかし書類の公開義務は課さず、チェックするには情報開示請求で時間と費用をかける必要がある。しかも、同市議会で情報公開の請求者名を事務局が議員に知らせていたことも発覚した。
12年の改正法は、地方議員らの要望を受けた自民、民主(現・民進)両党などの議員修正で成立した。野党の自民で修正にかかわった礒崎陽輔参院議員は成立直後、毎日新聞の取材に「地方分権だから(各議会の)条例で範囲を限定すべきだ」と強調。与党だった民主の逢坂誠二衆院議員も、国会で「透明性の確保に努める義務を課し、第二の給与になる懸念は当たらない」などと答弁していた。
新藤宗幸・千葉大名誉教授(地方自治論)は「政務調査費に戻すべきだ。事前に調査計画を出させて概算で支払ったうえ、後で会計などの報告を出させ、不正の余地をなくすような制度づくりが必要だ」と話している。【青島顕】