田中角栄「英雄視」に違和感 服部龍二・中央大教授著書

[掲載]2016年10月26日

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『田中角栄 昭和の光と闇』を出した服部龍二さん

表紙画像 著者:服部 龍二  出版社:講談社 価格:¥ 994

 ロッキード事件で田中角栄元首相が逮捕されてから40年。中央大の服部龍二教授(日本政治外交史)が、『田中角栄 昭和の光と闇』(講談社現代新書)を出した。最近の「角栄ブーム」について「功罪相半ばの田中の功の方ばかりが注目され、違和感があった」として、多くの資料をもとに田中の実像に迫った。

 服部さんが描いたのは、ブームの中で英雄視もされる田中が、首相就任から1年も経たずに「転落」を始める姿だ。

 「日本列島改造論」を打ち出し、1972年7月に首相に就いた田中は、同年9月には日中国交正常化を実現する。73年1月に閣議決定した73年度当初予算案は、前年度比24・6%増の超大型予算。公共事業のほか、老人医療費の無料化など福祉政策も充実させた。

 だが、高度成長はピークを過ぎ、緊縮財政で安定成長を目指すべきだった時期であり、服部さんは「失政」とみる。

 この失政が田中の転換点となり、後の金脈問題で退陣に追い込まれた。服部さんは「日中国交正常化の功績を除けば、田中の首相就任自体が本当に最良の選択だったのか」と提起する。

 一方、服部さんは、73年の訪欧、74年の東南アジア歴訪といった外交の意義を説く。領土問題を否定しがちだったソ連に問題の存在を認めさせ、東南アジアでは互恵的な経済発展を構築しようとした。

 エネルギー政策をめぐり、「アメリカの虎の尾を踏んだ」としてロッキード事件につながったとする説にも疑問を示す。訪欧時や石油危機が起きた時の記録から、田中が日米協調を軽視していなかったことを指摘。服部さんは「『虎の尾を踏んだ』というのはちょっと違うと思う」と話す。

 服部さんはこれまでに、大平正芳、中曽根康弘らの評伝を書いた。「リアルタイムで本人を知る人が減る中で、資料をもとに丹念に人物像をたどり、作家やジャーナリストとは違う選択肢を読者に提供することが研究者の役割」と言う。

 自民党で激しい権力闘争を繰り広げた5人の元首相「三角大福中」のうち、評伝を出したのは田中で3人目。残る三木武夫、福田赳夫も含め、「ほかの人物も書いてみたい」と意欲をみせている。
 (藤井裕介)

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