(築地に近い勝鬨橋。出所はWIKIパブリックドメイン画像)
豊洲市場に盛り土がなかった問題に関して、11月1日に第二弾の調査結果が小池都知事によって発表されます。
懲戒処分の対象や石原慎太郎氏の責任問題に関して興味津々の方も多いとは思いますが、筆者はたまたま、政治に無関心な知人と会話をしていた時に、「そもそも豊洲問題って何?」という方もいることに気が付きました。
「盛り土なし」が原因で築地市場の移転問題が全国報道されましたが、よく考えてみると、各県の方々の中には「何なの、それ?」という反応の方もいるのかもしれません。このネタは、沖縄県や北海道など、東京の遠方にいる日本国民にとって重要度は高くないので、情報が後追いになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
というわけで、今さらながら、人に聞けない基礎知識の一つとして豊洲問題の経緯と気になる論点についてまとめてみます
- そもそも、築地市場がなぜ豊洲に移転されるのか
- 豊洲の土壌汚染のレベルはどの程度?
- 豊洲に「盛り土」がないと何がまずいのか?
- 小池都知事VS石原慎太郎氏の行末
- 今後は、安全基準の遵守とコストとのバランス感覚が大事
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そもそも、築地市場がなぜ豊洲に移転されるのか
東京都中央区築地にある築地市場は、都内に11箇所ある公設の卸売市場の一つ。民間の卸売市場よりも大きな市場が必要だという観点から、1935年に設立されました。主たる取扱い品は、野菜や果物、生鮮・冷凍の魚介類、各種加工品等です。
約23ヘクタールの規模は東京ドーム五個分に相当するともいわれ、「2013年の一日あたりの取扱数量は、水産物が1779トン(15億5千万円)、鳥卵・漬物を含む青果物が1142トン(3億1900万円)」。全国的にトップの取扱数量を誇り、水産物では世界最大級の中央卸売市場だとも言われています(朝日新聞HP記事)。
長らく利用されてきたのですが、取扱い規模の拡大から築地市場が手狭になっただけでなく、トラックの駐車スペースが狭く、施設の老朽化している等の問題があったので、この市場は移転されることになりました。
市場を営業しながらの再整備は難しいため、東京都は2001年に江東区豊洲地区にある東京ガス工場の跡地(こちらは約40ヘクタール。東京ガスが1951年~1988年まで使用)への移転を決断。2008年には豊洲の移転予定地で環境基準を上回るベンゼンやシアン化合物が見つかりましたが、東京都は762億円の予算で土壌汚染対策を行い、2014年末に豊洲市場の開場時期を2016年11月上旬と定めました。
基本的な方針が決まった時期が、石原慎太郎氏が都知事だったので、同氏には、その責任が問われているわけです。
豊洲の土壌汚染のレベルはどの程度?
東京都中央卸売市場HP内では(「豊洲新市場予定地の土壌汚染はどうするの?」では、土壌の広さと深さの両面から、汚染のレベルが解説されています。
- 環境基準を超える地点は土壌または地下水で1475地点(36%)。このうち1000倍以上の汚染物質が検出されたのは、土壌で2地点、地下水で13地点。
- 平面方向の調査で汚染物質が検出された1,475地点で汚染状況を把握するために、ガス工場操業時の地盤面から水を通しにくい地層の上端まで深さ方向に1メートル間隔で土壌を採取して分析した。
- そこで採取した11331検体のうち環境基準超の汚染物質が見つかったのは1986検体(17.5%)。このうち1000倍以上の汚染物質が見つかったのは土壌で2地点、地下水で13地点。
調査後に、東京都は、広さ・深さの両面から見て、土壌全体にまで深刻な汚染が全般的に広がっているレベルではないと判断します。つまり、土壌汚染対策をすれば何とかなると見たわけです。
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豊洲に「盛り土」がないと何がまずいのか?
こうした経緯で、東京都は土壌や地下水を浄化する措置を行います。そして、移転地の土の上に4.5メートルの「盛り土」を行い、アスファルトを敷いて対策することを決めました。
こうした経緯で、問題の「盛り土」が出てきたわけです。
もともと、都議会で民主党は環境面を理由に豊洲移転に反対しており、2009年には都議会の第一党になったので、移転は厳しくなりましたが、その後、都と関係者の合意と安全確認を経て移転賛成に転じます。
民進党の蓮舫代表がわりと小池都知事には肯定的なのは、環境基準の厳格な適用が、自民党よりも民進党(旧民主党)寄りの政策だからなのでしょう。これは元環境相の小池氏のキャラが反映された政策だとも言えます。
技術的には、今の土壌汚染対策は、「地表面に50cm以上の盛土をするか、3cm以上のアスファルトまたは10cm以上のコンクリートを敷設することで足りる」(東京都中央卸売市場HP)といわれています。理屈的には、盛り土がなくてもコンクリート敷設だけで十分だという論理もありえなくはなさそうですが、「盛り土をすると約束したのに、なかった!」という話なので、都にとって重大な信用問題が発生しています。
小池都知事も9月23日の記者会見では、1)意思決定者、2)都の説明と実態との食い違い、3)盛り土がないと知っていた者がなぜ専門家に質問しなかったのか、という三点を問題視しています。
小池都知事VS石原慎太郎氏の行末
毎日新聞の電子版では、豊洲問題に関して「小池知事の質問・全文 / 石原氏の回答・全文」(2016年10月25日)の両者が掲載されています。これは登録者のみ閲覧可能記事なので、その要旨を簡潔にまとめます。
小池知事の質問の論点は以下の四点が代表的です(以下、この四点は筆者の分類なので、小池百合子氏の質問文に実際に書かれた項目の区分け【1~5】とは異なります)見やすくするため、小池氏の質問要旨を青緑、石原氏の返答要旨(⇒)を黒字で表記しました。
【A:豊洲を移転整備先にした理由】(当時、他の検討先(晴海、有明北、石川島播磨跡地)があり、東京ガスも豊洲移転に否定的だったため)
⇒既定路線だった。この頃、移転先が豊洲だとは聞いていない
【B:土壌汚染対策費用に関する都と東京ガスの負担区分】(858億円のうち東京ガス負担分は78億円)
⇒石原知事は交渉せず、浜渦特別秘書が交渉した
【C:豊洲市場の事業採算性をどう判断したのか】
⇒担当者に任せていた
【D:土壌汚染対策(盛り土など)】(盛り土なしの報告の有無、報告者は誰で、どう対応したのか)
⇒専門的知見がないので分からない。担当者が専門家に聞いたり協議したりして判断すべきものだ。
詳細を知りたい方は、毎日新聞の長い全文(無料登録すれば読めます)を見ていただきたいのですが、石原慎太郎氏の返答は曖昧です。都知事の決裁案件は膨大なので、専門家レベルの判断の案件にまで立ち入れない、と述べているわけです。
一定の規模の組織で勤務した経験のある方は、そういう判断をする社長や経営幹部の姿を見たことがあるのではないかと思うのですが、同じようなことが都でも行われたわけです。決裁案件が多いとはいえ、豊洲移転はビッグプロジェクトなので、その重要性と比べた時、知事が十分に考えて関与していないように見えます。
記憶がないのできちんと資料を調べてみてくれ、と答えたので、憤った小池知事は、詳細な調査を行うことにしたわけです。現在、中央卸売市場長や管理部長経験者などの幹部10人以上の懲戒処分を行う方針が決まっています。
今後は、安全基準の遵守とコストとのバランス感覚が大事
安全基準の遵守は大事なことですが、豊洲移転を止めることでコストが増えるので、その両者のバランス感覚がこれからは大切になるでしょう。
築地移転を延期すると、豊洲市場の建物は完成しているので、都の試算によれば、契約している電気・水道料金、警備費などは開場しなくても1日約700万円かかります(毎日新聞「豊洲維持費1日700万円 五輪にも影響」2016年8月31日)
同記事によれば、移転推進派の「築地市場協会」の伊藤裕康会長は以下の二点を指摘しているそうです。
- 業者は分担して冷蔵庫棟2棟に約130億円、場内の無線LANに約30億円、冷凍設備に約23億円など、少なくとも数百億円を投資した。
- 冷蔵庫棟は最低でマイナス60度まで冷やす必要があるため既に運転を始めているため「知事が要望を断れば、お先真っ暗。
さらには、東京五輪に向けて整備される環状2号線は「全長約14キロのうち約450メートルが築地市場跡地に整備され、一部が地下化される」ため、移転延期はこの高速道路の大会前開通の妨げになりかねません。
すでに工事は完成しているので、豊洲移転そのものをナシにしてしまうと、それまでに投じたお金を全部パアにして、さらに予算を積み重ねるという愚策になります。そのため、この選択肢は取れません。
結局、政策的に焦点になるのは、安全確認をしながら、いつ、豊洲移転を終わらせるのかという「時間の問題」だと言えるのではないでしょうか。
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