キャブレター整備
オイルポンプの不調で焼き付きを来たすことが多いと以前に書きましたがもう一つ多いのは二次エアーの吸入でしょう。キャブやエアクリーナーの接合部の緩みやキャブの蓋の緩み等を防ぐことで焼き付きを予防しましょう。
基本的なキャブの分解や掃除に関してはある程度は個々人の経験と知識に委ねたいところです。全くしたことのない方は単気筒の原付等でトレーニングしてください。一応単車整備の参考書を揚げておきます。今回もっと良い参考書がないか数冊買ってみましたがこの本に勝るものはありませんでした。ノーマルのセッティングを出す程度なら充分な本です。(写真1)
前置きが長くなりましたがキャブレターの作業中は火気厳禁ですので必ず守ってください。
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イトシンのイラストバイク整備ガイド(講談社)
全くの素人が読んで役立つようにと考えると基本書ほど選択が難しいものはなし。(だって語句から説明しなければならんもんね)十年以上前に買った本だが未だにこれに勝る本が無い。最近改訂版が出たらしい。 |
写真1 |
1 キャブレターを外す
まずはガソリンラインを外します。KAやH2は負圧コック式なので そのまま外してもコックからガソリンが出続けることはないはずです。ガソリンが止らないならダイアフラムのガスケットパッキンの交換が必要です。また右端のキャブから負圧ラインがでてコックと繋がっていますがくれぐれもガソリンラインと間違って繋がないようにしてください。
間違うとクランクケースにガソリンが入り リキッドロックを起こします。
次にエアーインレットパイプとの接合部のクランプを緩めます。この時すでに緩んでいた場合は深く反省しましょう。クランプの緩みによる二次エアーの吸入は焼き付きの危険性があったからです。
今回は作業しやすいようにクリーナー側エアインレットパイプは外してしまいましょう。 シリンダー側エアーインレットからキャブレターを外すと
キャブはスロットルワイヤーとスターターワイヤーでぶら下がることになります。
スロットルワイヤーはキャブレターキャップを回して外します。この時 スロットルワイヤーにはスロットルバルブが付いたまま外れますがスロットルバルブの切り欠きがどの方向にあるのか確認しておきましょう。再びスロットルバルブを入れる時に間違わなくなります。
スターター(チョーク)ワイヤーはレンチで緩めて外します。スターターワイヤーはハンドル手元から一本で出てタンク下あたりで三本に分岐しキャブに向かいますが
レバーの動きが悪くないかチェックしてください。スムーズに動かない戻りが悪い場合はこの分岐部の上下でオイルを通してやる必要があります。チョークを使ってエンジンを始動した後エンジンが熱くなるとかぶり気味になり不調になるときは、このスターターワイヤーの動きが悪くチョークを少し引いた状態で走っていた可能性があります。この際必ずチェックしオイルアップまたは交換してください。スターター戻しスプリングが弱っているときはこの傾向が出易いので注意してください。アクセルワイヤーもタンク下で4本に分岐しますのでこの際オイルアップしましょう。
初めてその単車のキャブレターを分解するなら一度ニードルの高さをチェックしましょう。標準はEクリップの位置は真ん中にあります。時々気筒によって位置が違ったりすることがありますがそんな場合は気筒によりエンジンの調子が違う可能性があります。油面が極端に低い場合もそのようなニードル位置にしてつじつまを合わせてあることもあります。一度ニードルを同じ高さにして調整してみることがよいかもしれません。ニードルにガソリンかすの段があるときは掃除しておきましょう。ニードルが傷んでいるときは交換です。全然違うニードルが付いていて驚かされることがありますので一度三本とも並べて比べてみましょう。
2 フロート室を開ける
次にフロート室を開けます。フロート室のマッハ系のキャブは製造過程で肉厚がうすくなる部分があり鋳造時のスや振動による亀裂で穴があいている事がありますのでボディーを洗いながら注意してみてください。
もし穴があれば二次エアー吸入の原因になるためハンダ等で埋める必要があります。(写真4-2)納得がいくまで掃除したらジェット類を元どおり組み付けます。
フロート室の4つのネジはよく破損しますので正しいドライバーできっちり押し回しで開けましょう。閉めるときだけでなく 開けるときもなるべく対角線順に緩めましょう。フロートパッキンが傷んでいるときやガソリン漏れがひどいときはパッキンを交換します。先ほど書いたように
ジェット類やスクリューの穴の掃除とかをして元どおりに組むだけなら作業前よりも状況が悪くなるはずはないとビビらずに作業しましょう。キャブレターの部品はゴミが付かないようにトレー等にのせて保管します。
エアースクリューは元に戻せるようにセコくマジックでマーキングします。その位置からどれだけ締め付けることができるのかその回転数をメモしておきます。(写真2)
KAのアイドルスクリューはキャップにありますので わざわざ外す必要はありません。H2はボディーの側面にあるので元の回転位置に戻せるようにして外して掃除するとよいでしょう。フロートを外しパイロット(アイドリング)ジェット、メインジェット、フロートバルブを外してジェットの内部を掃除します。(写真3)
ジェットの穴が傷まないように真鍮のワイヤーを使うと良いでしょう。中回転でもたつく人はニードルジェットの掃除にて改善することがありますんで心がけてください。キャブレタークリーナー等のケミカル類を使用し穴という穴を通します。ジェット類を外した後の穴や忘れてはいけないのはパイロットとメインのエアージェットの掃除です。(写真4−1)
このエアージェットの詰まりがあるとアイドリングが安定しなかったり一気筒だけ極端に薄く焼き付きそうになっていてマフラーがカラカラになっている等のトラブルにつながります。とにかく空気の通り道の穴という穴にクリーナーを通し充分にエアーを吹き付けましょう。エアーはコンプレッサーとガンを使わなくても足踏み式のポンプでも構いませんので
納得がいくまで掃除しましょう。真ん中のキャブは常日頃手が届かないのでかなり外観も汚れていると思いますのでボディー全体もガソリンや灯油で洗ってやりましょう(往々にしてこの時スクリューのマーキングを消してしまいますので注意)。
マッハ系のキャブは製造過程で肉厚がうすくなる部分があり鋳造時のスや振動による亀裂で穴があいている事がありますので ボディーを洗いながら注意してみてください。もし穴があれば二次エアー吸入の原因になるためハンダ等で埋める必要があります。納得がいくまで掃除したらジェット類を元どおり組み付けます。
フロートバルブのシート面に段差が出ていないか点検してください。
フロートには小孔があいてガソリンが入っていることがありますので振って音がしないかチェックしてから組んでください。フロートを組むときに上下逆に組むことがあるので注意してください。
油面調整に入る前に基本のジェットの番数を書いておきます。吸排気系を変更していなければまずはこの番数でいきます。KAはメインジェット(MJ)が100番でパイロットジェット(PJ)が30番です。H2ではMJが105番でPJは35番です。そして350SSではMJが82.5番でPJが25番です。ジェットやニードル類はカワサキから出なくてもキャブレターの部品を置いている店に常備していることがあります。フロートはカワサキから出ないようですがスズキの部品番号13252-11010を流用することができます。この場合、必ず油面調整を行って下さい。
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セコくマークを…。
キャブの掃除で(組み方に間違いが無ければ)セッティングが悪化することはないと思うことにしよう。変わるとすればアイドリングとエアースクリューの位置のみである。メインジェットは何番に上げてどうこう言う前にできなければならないことはたくさんあるのだ。エアースクリューの調整はそのひとつである。 |
写真2 |
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キャブレターボディー下面
人類の叡智の結集という感じのキャブレター。でも バラして正しく組むことが何が悪いか。小学校の縦笛でもバラして組んでも音が変わらなかったはず。その構造が難しく小さくなっただけだと思えばよし。慌てず納得がいくまで時間をかけて作業しよう。 |
写真3 |
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エアージェット
この小さな穴はパイロット(スロー)、メイン、スターター(チョーク)のエアージェットというガソリンの気化にたいへん重要な穴である…にもかかわらず
掃除しにくいこともあり忘れられがちである。インレット開口部の下縁にあり溜まったゴミを吸いこみ易いので充分に掃除しよう。掃除しながらどこにつながっているのか眺めておこう。ここの詰まりで焼き付いたマッハは数知らず。 |
写真4−1 |
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鋳造時のス
キャブは鋳造時にスが入っていることが多く注意してみる必要がある。当然二次エアー吸入の原因になるのでハンダ等で修理する。
キャブは欠品になって久しいけれどもストックが欲しいよなあ。 |
写真4−2 |
3 油面調整
さて、キャブレターの掃除と組みつけが終われば仕上げに油面調整を行います。油面調整は各整備本には絶対に素人は止めておきましょうと書いてあります。またサービスマニュアルにも
キャブを裏返しに置いてどことどこの高さが何ミリになるように調整しますと書いてあるのみです。これではフロートの柄が曲っていたりするとかなり眉つばになってきます。今回は最も簡単で確実な方法を伝授します。これはジャムやラッキョの透明なビンをフロート室にみたてて油面を調整する方法です。
ビンの内径が7センチのビンにキャブのボディーを乗せて実際に油面がどこで止まるかをチェックします。ビンの内径は7センチチョットあればいけます。ビン選びは商品の状態では内径はわからないので金属のふたの外径にして8.4cmあればいけそうです。ちなみにこのビンはラッキョの入っていたビンです。(写真5)
写真を見て解るように深さはあまり必要ではありません。かくしてスーパーマーケットを定規片手でウロついたり懸命に中身を食べたりすることになります(別にホームセンターでガラスのビンを買っても良い)。ガソリンは負圧コックではない原付等のタンクから引いてくると作業しやすいです。(写真6)
ビンは水平な台に乗せましょう。ビンに乗せた時はフロートがビンの縁で干渉せず自由に動く位置を選びます。マッハシリーズの油面は三つともビンの縁ぎりぎりで溢れずにぴたっと止まる高さがベストです。(注油面の高さに関しては ビンの口からマイナス3ミリが基本です この辺は目のうろこを参照下さい)(写真7)
油面の高さはフロートのベロで調節します。油面が低い場合はベロを押し下げますがあまり角度を下げすぎるとフロートが落ちきった時にフロートバルブとベロの当たる角度がつきすぎてフロートが戻りにくくなります。(写真8−1)しかしフロート室を取り付けるとフロート室の底がフロートを持ち上げるので
動きはじめが辛いのは問題なさそうです。(写真8−2)以前にはフロートの羽を曲げて工夫しましょうと書きましたがその必要はなさそうです。
マッハのフロートはこれが大量生産品かと思うほどのハンドメイド臭さで 浮力の固体差があっても仕方ない気がします。油面は3つとも均等の高さであることが大事なのでじっくり取り組んでください。
フロート室を閉じた後にキャブレターを振ってみてフロートが動く音を確認してください。動きが悪いならボディーやフロート室に干渉していることがあります。次にキャブに再びガソリンを入れてみてオーバーフローやフロート室のリークがないか確認しましょう。(写真8−3)
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ビンを使って…
フロートが自由に動く径のビンを見つけるのが一苦労であるが 最も単純で確実に油面調整ができるしフロートの動きが悪いのも発見できる。他のキャブにも応用可能。 |
写真5 |
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コック付きタンク
キャブ調整用のミニタンクがあればよいが なければ単気筒バイクを利用すると良い。自由落下式のコックが付いているものを選ぼう。ビンはこれほど深くなくてもよい。 |
写真6 |
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油面調整
ガソリンがあふれる前にピタッと止るところが油面である。あふれる時は要調整である。
マッハ系のキャブはこぼれる寸前に止るぐらいが良い。大切なのは三つのキャブの油面が揃っていることである。くれぐれも火気厳禁。(油面の高さはめのうろこ参照の事) |
写真7 |
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フロートの角度
フロートが下がりきった時はバルブとフロートの角度がつきすぎてフロートが動かなくなる。これではフロートの動きが悪くオーバーフローの原因になると思われたが。 |
写真8−1 |
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フロート室をつけるとフロートは下まで落ちきった状態にならないので心配は不要。よってフロートの羽を曲げてまで調整するのはダメになることがあるので止めましょう。 |
写真8−2 |
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フロート室を閉じた後、改めてガソリンを入れてみてリークやオーバーフローがないか点検する。点検しないで着けて組み終わってからオーバーフローに気がついたらまたやりなおしである。フロート室は
しっかりネジ止めをしないとリークしてくるが、締めすぎると簡単にフロート室が変形する。すでに変形していることもありトホホ感を味わうこともあり。そんなときは液体ガスケットを薄く塗るしかないか。するとフロート室が外れなくなったりして余計にトホホ。パッキンを二枚噛ますと
漏れは止っても今度はオーバーフローしやすくなる。無限トホホである。 |
写真8−3 |
4 キャブレターの組み付け
キャブを付ける前にエアークリーナーの点検をしましょう。(写真9)
H2のエレメントは湿式ですので 灯油で洗浄しエンジンオイルで軽く湿らせておきます。劣化して砂のように崩れてキャブ側に吸い込まれていくことがありますので注意してください。新品のエレメントはメーカー欠品ですので
他の車種から流用するかデイトナのターボフィルター等を使って自作してください。KAの乾式エレメントはまだメーカーから出ますので汚れがひどいときは交換しましょう。
キャブレターを付ける前にH2ではシリンダー側インレットパイプを点検します。ゴムに亀裂が目立つときは交換します。このインレットパイプとシリンダーの間にガスケットが一枚入っていますが傷みがあるときは交換します。ガスケットを剥がすときにシリンダー側に入らないように注意してください。
キャブレターがない状態ではオイルラインが充分に観察できますので ラインに亀裂がないかオイル漏れがないかまたエアー噛みがないか点検してください。クランクケース側バンジョーボルトの緩みもチェックしてください。
キャブレターの組み付けはキャブレターキャップとスターターケーブルを付けてからインレットパイプに接続します。くれぐれもスロットルバルブの方向を正しく入れてください。キャブレターキャップの緩みにより二次空気を吸い焼き付いた例もありますんで注意してください。キャブにガソリンを通す前にアクセルの動きがスムーズであるか点検してください。キャブレターをインレットパイプに接続してクランプでしっかり固定します。
エアクリーナー側のインレットパイプは組みにくくKAの三分割パイプはかなり組みにくいです。接続部から二次エアーを吸わないように慎重に作業します。
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エアークリーナー
エアークリーナーボックスも今の単車に比べると いかにも密閉性が悪い。二次エアーの吸入に充分気を付けたい。吸入効率のよいエレメントは逆に混合気が薄くなることを忘れないように。 |
写真9 |
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キャブを外した機会に…
せっかくキャブが無い状態なので普段手の届かないところもキレイにしてやろう。
作業中はインレットからゴミが入らないようにホツレの出ないウエスで塞いでおこ
う。キャブが無いとオイルラインを点検しやすいのでよく見ておこう。 |
写真10 |
さて ここまでの作業で作業前に比べて何か悪い状況になったと思われることがあるでしょうか。作業前のセッティングと変わったことがあるでしょうか。普通にバラして普通に組みなおしただけなので
問題は無いはずです。むしろ掃除や油面調整により改善しているはずと思うようにしましょう。ところが変わる可能性があるのはパイロットスクリューやアイドリングスクリューの設定です。これも元々の締込みに戻してやると元の設定に戻るはずです。アイドリングスクリューはまず元々の回転数に戻しておいてください。
パイロットスクリューはKAとH2では最も締め込んだところから一回転と四分の一戻し、350SSは一回転半戻しです。その部分で必ずエンジンはかかる筈(たぶん)です。パイロットスクリューは1500回転付近で最もアイドリングが上がる位置を探します。KAやH2ではキャブの調子と内燃機関の調子にもよりますが
だいたい2回転半戻しぐらいまでのところにベスト位置があります。各気筒のマフラーの排圧が手をかざして均等でかつ エアースクリューはその位置で締めこんだり緩めたりしてもアイドリングが下がるところ(つまり一番アイドリングが上がるところ)を探します。KAでは1200回転ぐらいでチャージランプが消えるところがあるので
消えるか消えないかのところでアイドリングさせると良いでしょう。
エアースクリューのセッティングは季節によっても違うし合わせる人によっても微妙に違います。ひらきなおって一律マニュアルの位置にしている人もいます。アイドリングやエアースクリュウの調整がうまくいかないならそこは単車屋に調整してもらうのもよいでしょう。この時はその合わせているところを必ず見て覚えておきましょう。
最後に各部の締め忘れがないか確認して 試走をします。いきなりは回転を上げ過ぎないように気を付けましょう。数キロ走ってプラグの具合を見て極端に焼けの違う気筒や焼け過ぎている気筒が無いかチェックしましょう。キャブレターは整備により調子が明らかに変わるので触りがいがあります。慣れれば
短い時間で整備できるようになりますので時々はキャブを触ってみましょう。
次回は要望があれば KAの電装系メインテナンスについてです。 |