アニメ「91Days」をみた。とくに最終話をおもしろくみた。同時にテレビで12回に分けて放映するやりかたがこのアニメにはあっていなかったように感じられた。2時間くらいのひとつなぎの物語であれば評価はもっと高かったような気がした。
きょうはそうおもうにいたったレビューを書く。
目次
あらすじ(ネタバレなし)
禁酒法後期のアメリカが舞台。おさないころ、マフィアに家族を殺された過去をもつアンジェロはアヴィリオと名前をかえて抜け殻のような暮らしをしていた。かれのもとに一通の手紙が届く。そこにはかれの父親の親友と名乗る者から送られてきたその手紙には、アンジェロの一家を殺したヴァネッティ・ファミリーの3人の名前が記されていた。
復讐を誓ったアヴィリオは故郷の街に戻り、旧友のコルテオを引き連れてヴァネッティ・ファミリーへの接触をはかる。復讐のためとはいえ、マフィアの生き方に染まるアヴィリオは家族の仇であるネロ・ヴァネッティとの信頼を築いてゆく、その91日の物語。
すべてが終わった物語(ネタバレあり)
最終話でアヴィリオとネロはたがいに家族を殺され憎みあいながらも、たがいを認め、ある種の信頼を抱いているというねじれた感情を抱きながら、車で海を目指す最後の旅に出かける。ことばがすくなく、重い空気をまとったこの最終話で、ふたりはなにもかもに疲れ切っていた。焦燥感と虚無感で満ち満ちているこの空気は、それまでのさまざまなひとの死によって構築されたものなのはいうまでもなく、91日におよぶ旅の終わりだった。
しかしこれをひとつの作品としたとき、これまでの11話のすべてが描写されるべきものだったかといわれれば、話は別になるようにもかんじられるのだった。ここにたどり着くまでのプロットや、あらわれたキャラクターの造形が、ありきたりなマフィアものにいちいち回収されがちなことに、すこしの退屈をおぼえたといえばそれは嘘ではなかった。そしてこの物語の異常な密度の濃さは、91日という時間のみじかさを消してしまっていることもすこし気になった。もちろん、ごく短期間にあった物語が、7年前の一家を殺した事件の憎悪を飲み込んでしまうということが起こってしまったから、最終的なアヴィリオとネロの関係性がある。しかし、91日という時間のみじかさを物語のなかで描けていたようにはおもえない。作品のタイトルや、登場人物たちがおもいだしたかのように口にする「三ヶ月」ということばで、強引に取繕われているだけだった。
この物語の価値は、91日のあいだになにがあったかというところにはおそらくない。91日を経てなにかを失い、なにかを得たという感覚だけにリアルがある。そして失ったものや得たものが「なに」であったかも、おそらく重要な意味をもたないのではないだろうか、とぼくはかんがえた。
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省略の必要
このアニメが極めて優れいていると感じた点は、最終話だけでも短編として成り立ってしまうような強度にある。ぼくがこの記事の冒頭で、「2時間くらいのひとつなぎの作品だったらよかった」と書いたのは、この物語でなされるべき省略というものがあったと考えるからだ。
すべてが終わったあとに続く物語として、ぼくがふと頭に浮かんだのは森鴎外「高瀬舟」や丸山健二「夏の流れ」だった。
両者は罪人を裁きの場所まで送り届ける話なのだけれど、罪人が過去よりもむしろすべてが終わった現在に着目したつくりをしている。過去にあった重大な事件について、ぼくはドラマ的な手法による客観的な描写よりもむしろ、像を結ばない当人の語りのほうが認識的な正しさを描きだせるようにかんじる。しかし、もしこれらの作品のような、アヴィリオの最後の1日を軸とした物語に仕上げたらエンターテイメント性が著しく損なわれてしまうだろう。
特化することと損なうこと
ぼくには「おもしろい作品」というものがよくわからない。それこそ考えれば考えるほどわからなくなってしまう。たとえばぼくは同時期にあったアニメ「この美術部には問題がある!」を非常におもしろくみたし、
タルコフスキーの映画「ノスタルジア」だっておもしろいとかんじる。
これらふたつの「おもしろい」の性質はぜんぜん異なっている。それはじゅうぶんにわかっているけれども、ぼくは見たり読んだりするものをじぶんのなかでうまくジャンル分けをすることができない。なにかに特化することで作品はなにかを損なってしまう、おそらくそれは作品の広さが有限である以上避けられない。それは受け入れられる。こういう風に考えた時、作品を真に「おもしろく」するものは、その作品がなにに特化しているかではなく、むしろその作品がなにを損なったかにあるとぼくは考える。
アニメ「91Days」をみてぼくは損なうことを過度に恐れいているんじゃないか、などとおもった。
※公式の小説もあるらしいです