「等身大の自分を…」発信 読者4500人突破
国際宇宙ステーション(ISS)から、仲間とのやり取りや科学実験の様子をソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で発信する大西卓哉宇宙飛行士(40)の投稿が好評だ。約400キロ離れた上空から届くメッセージが宇宙への夢をかき立てる。地球への帰還は30日。つづられた言葉から4カ月間の滞在を振り返る。【カラガンダ(カザフスタン)阿部周一】
宇宙と地球は衛星を介した電波で結ばれ、若田光一さん(53)や油井亀美也さん(46)ら先輩飛行士もこれまで短文投稿サイト「ツイッター」を使って発信してきた。大西さんは字数制限がないSNSの「グーグルプラス」を利用。その理由は「等身大の自分を書きたいだけ書きたい」からだ。
ISSでの初投稿は到着2日後の7月11日。初めて味わう無重力状態を「忍者みたいな感覚」とつづった。同20日には米輸送船がISSに到着。ハッチを開けた後、宇宙空間にさらされてきた船から「初めて宇宙の匂いをかぎました。焦げたような独特の匂い」と、五感に訴える表現を使った。
ISSで大西さんは、日本の実験棟「きぼう」を拠点に実験に明け暮れた。9月27日には「液滴(えきてき)群燃焼実験」に着手。無重力状態の中、霧状の燃料の滴が燃える様子を高速度カメラで撮影する世界初の試みだが、一般の人には理解し難い。そこで、大西さんは5時間以上かけて装置を組み立てた後に投稿。「燃料の滴同士が互いにどのように影響しながら燃焼していくか。そのメカニズムが解明できれば、燃料をより効率的に燃焼させる工夫につながり、燃費の向上や環境に優しいエンジンの開発に役立つ」と、実験の意義が伝わるよう努めた。
9月22日、トイレ設備を交換する大西さん。「ISSに来てから個人史上最長のタスク」だったという=2016年9月22日、大西さんのグーグルプラスより
宇宙での日常生活の様子も写真や絵文字を添えて記載している。切った髪が漂わないようバリカンに掃除機をつけて散髪したり、配管を自ら交換するなどトイレ掃除に5時間もかかったりした内容を投稿。トイレが自動停止するトラブルが頻発した後には、うまく用を足すコツを飛行士同士で教え合ったことを書き込んだ。また、採血に手間取ったり、作業手順を間違えて予定が遅れたりした失敗談も隠さずに書いた。
イワニシン船長に散髪してもらう大西さん。バリカンを掃除機につなげて切った髪を回収する=8月23日の大西さんのグーグルプラスよ
親しみやすい内容でもあって読者は増え続け、現在は4500人を突破。その一人で、宇宙飛行士との共著も多いライターの林公代さんは、中国の有人宇宙船「神舟11号」が打ち上げに成功した今月17日の投稿が印象に残っている。
この日、大西さんは、打ち上げ成功のニュースを知ったISSのアナトーリ・イワニシン船長(ロシア)が「We are not alone(おれたちはもう孤独じゃない)」とつぶやいたことを取り上げた上で、この一言は「なんだかこう、頭をガーンとやられたようなインパクトがありました」などと記した。
林さんは「地上にいる私たちは政治の思惑などと絡めて物事を捉えがちだけど、大西さんの投稿を読んで、宇宙飛行士の視点の違い、視野の広さに気付かされた。また、宇宙を飛ぶ者の実感や、その現場を知ってほしいという熱意がよく伝わってくる」と指摘する。
大西さんのサイトはhttp://plus.google.com/101922061219949719231