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           国籍Q&A(奥田Version)


2016年9月27日最終更新

*法務省のウェブサイトでも、「国籍Q&A」というページがありますが、肝心なことが書かれていません。そこで、同様のQuestionに対し、私ならどのように答えるのかを書いてみました。

法務省の国籍Q&A
 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji78.html


Q1: 国籍とは、何ですか?
Q2: 重国籍は、防止しなければならないのでしょうか?
Q3: 国籍を取得するための手続は、どのように行われているのですか?
Q4: 日本国籍を取得するのは、どのような場合ですか?
Q5: 出生により日本国籍を取得するのは、どのような場合ですか?
Q6: 外国で生まれた日本人夫婦間の子の国籍は、どうなりますか?
Q7: 届出によって日本国籍を取得できるのは、どのような場合ですか?
Q8: 届出による国籍取得は、どのような手続が必要ですか?
Q9: 帰化とは、何ですか?
Q10: 帰化の条件には、どのようなものがありますか?
Q11: 帰化には、どのような手続が必要ですか?
Q12: 帰化許可申請に必要な書類には、どのようなものがありますか?
Q13: 日本国籍を失うのは、どのような場合ですか?
Q14: 日本国籍の離脱には、どのような手続が必要ですか?
Q15: 国籍選択とは、どのような制度ですか?
Q16: 国籍選択は、どのような方法で行うのですか?

Q17: 重国籍のままだと、国家公務員や国会議員になることはできませんか?


※  市町村や法務局、内外の在外公館(大使館や領事館など)でトラブルがあった場合は、最寄りの弁護士会や法テラスにご相談ください。

各地の弁護士会の法律相談センター
 http://www.nichibenren.or.jp/contact/consultation/legal_consultation.html

法テラス
 http://www.houterasu.or.jp/


Q1: 国籍とは、何ですか?

 国籍は国民の要件です。日本では、国籍は「国籍法」という法律で定められていますが、これは、日本国憲法で「日本国民の要件は法律で定める」と書いてあるからです。なぜ憲法にこういう規定があるかというと、国籍が国家の基本要件の一つだからです。国籍は、たしかにそれぞれの国が歴史や伝統、国の成り立ち(移民国家かどうか)、そして最近では外国人政策をも考慮して、独自に決定しています。

 しかし、個人の側からみて、日本国籍を有することで受けられる権利がたくさんあります。たとえば、選挙権や被選挙権、日本に住む権利などです。そのため、世界人権宣言、国際人権規約(自由権規約)、子どもの権利条約などの人権条約では、人(子ども)が国籍を持つ権利(国籍取得権)を規定しています。このような国籍の人権としての側面にも配慮することが、今求められています。

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Q2: 重国籍は、防止しなければならないのでしょうか?

 法務省の「国籍Q&A」(Q15は、重国籍を防止する理由として、「それぞれの国の外交保護権が衝突することにより、国際的摩擦が生じるおそれがあること」、「それぞれの国において別人として登録されるため、各国において別人と結婚するなど、身分関係に混乱が生じるおそれがあること」を挙げています。

 しかし、外交保護権については、一方の本国が他方の本国に対し行使することができないとか、重国籍者が第三国にいる場合は、主に居住している国など、密接な関係を有する本国が行使することができるなど、一定のルールがあるので、国際的摩擦が生じるおそれは、ほとんどありません。

 また重婚など、身分関係に混乱が生じるおそれについては、重国籍者であることよりも、むしろ他国で行った結婚などをきちんと本国に届け出ないことに原因があり、それは、単一国籍者についても、頻繁に起こり得ることです。重婚を防止するためには、むしろヨーロッパで行われているような国家間の通知制度を設ける協定の締結が重要であり、そのような努力を怠りながら、あたかも重国籍に問題があるかのようにいうのは、筋違いだと思います。

 ヨーロッパの多くの国々が批准している「国籍条約」(1997年)は、「出生により重国籍となった子どもが、いずれの国籍も保持することを認めなければならない」と規定しています。条約上の義務として、国籍を奪ってはいけないことになっているわけです。

 また帰化の場合でも、重国籍を認める国は増えています。まず自国に住む外国人を考えれば、元の国籍を失わなければならないとしたら、帰化をためらうでしょう。そこで、国籍を捨てなくてもよいから帰化できるよう法改正を進めています。これによって、自国に住む外国人を地域になじませ、かつ優秀な人材を確保しようという狙いがあります。

 逆に、自国民が外国に帰化する場合も、元の国籍を失ってしまうとしたら、海外に活躍の場を求める人の障害になります。海外で活躍した後に、日本に戻ろうとしても、もはや日本国籍がないとしたら、やはり外国への帰化はためらうでしょう。しかし、そうすると、外国において重要なポストに就くことができなかったり、研究資金の面で不利になったりするなど、様々な障害が予想されます。

 日本の国籍法は、なるべく重国籍を防止するという立場で規定されており、あたかも重国籍のままでいるのは、「罪」であるかのような印象を与えています。しかし、国際結婚が増加し、内外の人の交流が活発化した今、重国籍を正面から認める方向での改正が求められています。

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Q3: 国籍を取得するための手続は、どのように行われているのですか?

 国によって異なりますが、多くの場合は子どもが生まれた時、自動的に親と同じ国籍を取得するか(血統主義)、あるいはアメリカのように生まれた国の国籍を取得します(出生地主義)。

 よく勘違いされるのですが、出生の届出は、国籍を取得する手続ではありません。出生届は、生まれた時にどこの国籍を取ったのかを確認する手段にすぎません。出生届が出されていなくても、国籍自体は、生まれたときに自動的に取っています。

 ただし、出生後新たに届出や帰化で国籍を取得するためには、そのための手続をしなければいけません。たとえば、日本に帰化する場合は、必ず本人が法務局に出頭し、帰化の許可申請を行う必要があります。もっとも、子どもが15歳未満の場合は、法定代理人(通常は親)が代わりに出頭することが認められています。

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Q4: 日本国籍を取得するのは、どのような場合ですか?

 出生による国籍取得(国籍法2条)、届出による国籍取得(国籍法3条、17条)、帰化(法務大臣の許可)による国籍取得(国籍法4条~9条)の三種類があります。以下では、それぞれの国籍取得を説明します。

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Q5: 出生により日本国籍を取得するのは、どのような場合ですか?

 第1に、「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」です。これを「父母両系血統主義」と言います。父母の両方が外国人である場合は、たとえ日本で生まれた子どもでも、出生と同時に日本国籍を取得することはありません(南北アメリカとは異なります)。

 ここでいう「父又は母」とは生物学上の父母ではなく、法律上の父母です。母が日本人である場合は、法律上も母子関係が認められるので、子どもは日本国籍を取得しますが、父だけが日本人である子どもについては、場合分けが必要です。

 日本人父が外国人母と結婚した後に生まれた婚内子は、日本国籍を取得しますが、結婚前に生まれた子どもや婚外子は、原則として日本国籍を取得しません。ただし、子どもが生まれる前の認知(胎児認知)があった場合など、特別の場合には、出生による日本国籍の取得が認められることがあります。

 出生後の認知の場合は、通常、出生による日本国籍の取得は認められませんが、さらに国籍取得届という特別の手続をすれば、出生後に日本国籍を取得することができます(Q7)

 第2に、「出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき」です。外国人母が妊娠した後に、日本人父が不慮の事故により死亡した場合など、特殊なケースに対応するための規定です。

 第3に、「日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき」です。「父母がともに知れないとき」とは、典型的には、出生届がまだ出ておらず、かつ出生届の届出義務者が不明であるという「棄児(きじ)」の場合です(戸籍法57条)。病院で生まれた後に母が行方不明となった場合は、病院の医師などが出生届の義務者となりますが、「父母がともに知れない」と認められた例があります(1995年のアンデレ事件最高裁判決)。

 父母がともに無国籍である場合は、あまり見当たりません。パレスチナは、日本からみて未承認ですが、実務上、父母がともにパレスチナ人である子どもは、この規定に該当せず、外国人とされています。

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Q6: 外国で生まれた日本人夫婦間の子の国籍は、どうなりますか?

 親が両方とも日本人であっても、アメリカ(南米を含む)のような出生地主義の国で生まれた子どもは、日本国籍とは別に外国国籍も取得します。さらに外国で国際結婚から生まれて、日本国籍とは別に外国人親と同じ国籍を取得した場合を含め、外国で生まれた重国籍者は、3か月以内に出生届と同時に国籍留保届をしなければ、日本国籍を失ってしまいます(国籍法12条、戸籍法104条)。

 国籍留保届と言いますが、通常は、大使館や領事館に置いてある出生届の用紙に「国籍留保欄」があり、ここに親が署名(押印)をするだけです。しかし、親が長期の海外勤務であったり、日本人夫が外国人妻の妊娠を知って、単身で日本に帰国してしまったりした場合など、3か月の届出期間を過ぎる例は多いようです。

 この期間を過ぎてしまうと、出生届は受理されません。なぜなら、法律には「出生の時にさかのぼって日本国籍を失う」と規定されているからです。届出期間の3か月間だけ日本人だった、ということにはなりません。

 通常は、ひとまず外国人として日本に渡航し、20歳未満の間に国籍再取得届をする途が開かれていますが(Q7)、日本人夫(父親)が単身で帰国してしまった場合などは、そもそも日本への渡航に困難が予想されるので、専門家に相談することをお勧めします。

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Q7: 届出によって日本国籍を取得できるのは、どのような場合ですか?

 認知された子の国籍取得(国籍法3条)、国籍留保届をしなかった子の国籍再取得(国籍法17条1項)、国籍選択の督促による国籍喪失者の国籍再取得(同条2項)、1985年国籍法改正の経過措置による国籍取得(改正法附則5条)などがあります。以下では、それぞれの国籍取得を説明します。

1 認知された子の国籍取得(国籍法3条)

 日本人夫と外国人妻の結婚前に生まれた子ども、または父母が結婚していない婚外子は、日本人父が認知をすれば、民法では、生まれた時にさかのぼって法律上の父子関係が成立しますが、国籍法2条1号にいう「父」は、「出生の時」にいる必要があるので、通常、胎児認知がない限り、出生による日本国籍の取得はありません(Q5)

 しかし、出生後に日本人父が認知をした場合も、届出により日本国籍を取得することができます。2009年までは、日本人夫と外国人妻の結婚前に生まれた子どもだけが対象とされていましたが、父母の結婚を要件とするのは、憲法14条の平等原則に違反し、無効であるとする最高裁大法廷判決が下され、これを受けた国籍法改正により、今では、父母が結婚していない子も対象とされています。

 日本人父の認知だけでなく、「届出の時に子が20歳未満であること」、「認知をした父が子の出生の時に日本国民であったこと」、「認知をした父が届出の時に日本国民であること(すでに死亡している場合は、その死亡の時に日本国民であったこと)」、「子がかつて日本国民ではなかったこと」という要件がありますが、通常は、子の年齢要件に注意すればよいでしょう。

 認知は、父が市町村の戸籍窓口でする認知届、または子が父に認知を請求する認知裁判(父の死亡後にする死後認知の裁判を含む)のいずれの方法によりますが、父の認知届の場合は、偽装認知の疑いをかけられることがあるので、実務上、認知裁判のほうが後の国籍取得届の手続をスムーズに進めることができます。

認知裁判については、
 http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_07_18/index.html

2 国籍留保届をしなかった子の国籍再取得(国籍法17条1項)

 外国で生まれた重国籍者は、3か月以内に国籍留保届をしなければ日本国籍を失いますが(Q6)、「20歳未満であること」、「日本に住所を有すること」という要件を満たせば、届出により日本国籍を再取得することができます。

 「日本に住所を有すること」とは、届出の時に、生活の本拠が日本にあることをいうので、外国で生まれた子どもは、外国人として日本に渡航する必要があります。通常、父母と一緒に渡航する子どもは、「短期滞在」の在留資格(日本との間に協定があれば、査証の免除がある)による場合も、日本に住み続けると認定してもらえるでしょうが、日本人夫が外国人妻の妊娠を知って、単身で日本に帰国してしまい、もはや外国人の妻子と同居する意思がない場合は、妻子が「日本人の配偶者等」の在留資格を得ることが困難であり、かといって「短期滞在」では、「日本に住所を有すること」という要件を満たさないと判断されるおそれがあります。そこで実務上は、妻子ともに「定住者」という在留資格で来日することが多いようです。

3 国籍選択の督促による国籍喪失者の国籍再取得(国籍法17条2項)

 重国籍者が期限内に国籍選択をしない場合は、督促を受けることがあり、督促状の送付先が分からない者については、官報に掲載し、1か月以内に日本国籍を選択しない場合は、日本国籍を自動的に失うとされています(Q15)

 このような人を救済するために、従来の外国国籍を(離脱などにより)失うのであれば、1年以内に日本国籍を再取得する届出ができるとされていますが、実際には、そもそも国籍選択の督促自体が行われていないので、国籍再取得の届出が必要となる事態は起きていないようです。

4 1985年国籍法改正の経過措置による国籍取得(改正法附則5条)

 日本の国籍法は、1985年に従来の父系優先血統主義から父母両系血統主義に改正されました。そして、この改正前に日本人母から生まれた子も、20歳未満である場合は、経過措置として、3年以内の届出による国籍取得が認められました。さらに、「出生の時に母が日本国民であったこと」、「届出の時に母が日本国民であること(すでに死亡している場合は、その死亡の時に日本国民であったこと)」という要件があります。

 この経過措置により国籍取得の届出をした人は、それほど多くないようですが、たとえば、民進党の蓮舫議員は、この経過措置による届出をして、日本国籍を取得したようです。

2016年9月13日の記者会見に関する奥田のコメント:
 http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~okuda/shiryoshu/renho_nationality.html

 なお、以上1から4の国籍取得届をした場合は、届出の時から日本国籍を取得します(国籍法3条2項、17条3項、改正法附則5条4項)。出生の時にさかのぼるわけではないので、ご注意ください。

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Q8: 届出による国籍取得は、どのような手続が必要ですか?

 さしあたり件数の多い二つの場合について、とくに注意する点を述べます。まず下記のサイトを参照してください。

認知された子の国籍取得届(国籍法3条)
 http://www.moj.go.jp/ONLINE/NATIONALITY/6-1.html

国籍不留保による国籍喪失者の国籍再取得届(国籍法17条1項)
 http://www.moj.go.jp/ONLINE/NATIONALITY/6-5.html

 第1に、届書の提出先について、国籍法3条の場合は、国内の法務局と日本の在外公館(大使館、領事館など)が挙げられていますが、国籍法17条1項の場合は、国内の法務局だけが挙げられています。これは、国籍再取得届の場合、届出の時に日本に住所を有することが要件とされているからです。

 ただし、国籍法3条の場合も、外国人母の本国に住んでいる者が日本の在外公館に国籍取得届をした場合は、その外国国籍を失うことがあるので、ご注意ください。最近は、届出や帰化により他国の国籍を取得する場合も、重国籍を認める国がありますが、日本の国籍法11条1項と同様に、自動的に国籍を失うとする国も(とくにアジアなど)多いので、その国の国籍法を調べる必要があります。また、国籍を失いたくないという国籍留保の宣誓を認める国もありますが、これをしたら、外国の国籍を選択した者として、せっかく取得した日本国籍を失うおそれがあります(Q13)

 第2に、不服申立方法は「ありません」と書かれていますが、これは、行政不服審査法による審査請求(国税不服審査などと同種のもの)がないという意味です。国籍法3条や17条1項の要件を満たしているのに、届書を受け付けてもらえなかったり、「要件を満たしていない」という通知が来たりした場合、これに不服があれば、国を相手に国籍確認訴訟をすることができるので、弁護士にご相談ください。

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Q9: 帰化とは、何ですか?

 帰化は、届出とは異なり、法務大臣の許可を得て、外国人が日本国籍を取得することです(国籍法4条)。新聞報道などでは、「帰化」は差別用語だとして、「国籍取得」という言葉を使っていますが、国籍取得は、「出生によるもの」、「届出によるもの」、「帰化によるもの」という三つの種類があるので(Q4)、単に「国籍取得」と言ったのでは、どれを指すのか分からなくなります。本来は、国籍法を改正して、「許可による国籍の取得」という言い方に変えるべきだと思います。

 届出の場合は、国籍法の要件を満たしていれば、届出の時に日本国籍を取得するので、万が一届書が受け付けられなかったり、「要件を満たしていない」という通知が来たりしても、国を相手に国籍確認訴訟をすることができますが(Q8)、帰化の場合は、裁量権の逸脱や濫用を理由に、不許可処分の取消訴訟をするしかありません。しかも取消訴訟で最終的に勝訴した例は見当たらず、入管訴訟以上に厳しい状況です。諸外国では、帰化を権利として認めている国がありますが、日本の国籍法では、外国人の側からの帰化請求権は認められていません。

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Q10: 帰化の条件には、どのようなものがありますか?

 国籍法5条以下には、帰化の条件が規定されていますが、正確にいえば、これは、「法務大臣が帰化を許可するための条件」であって、外国人が帰化を請求できる要件ではありません。法務大臣(法務省)は、あらゆる事情を総合的に考慮して、帰化を許可するかどうかを判断するので、これらの帰化条件を満たしているからとって、帰化が許可されるとは限りません。

 たとえば、日中国交回復後は、台湾出身者も、中華人民共和国の国籍法が適用されるので、日本への帰化によって元の国籍を失うことという重国籍防止条件(国籍法5条1項5号)は、自動的に満たしていることになりますが、帰化の実務では、中華民国の国籍喪失許可の申請(日本の国籍離脱届とは異なり、台湾政府の許可が必要)をするよう求められているようです。つまり国籍法に規定された帰化条件だけでは足りないということです。

蓮舫議員の記者会見に関する奥田のコメント:
 http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~okuda/shiryoshu/renho_nationality.html

 一般の外国人(日本人との結婚などの事情がない場合)について、法務大臣が帰化を許可する最低条件は、次のとおりです(国籍法5条)。

1 居住条件「引き続き五年以上日本に住所を有すること」

 入管法上の在留資格を受けた合法的な滞在であり、かつ生活の本拠が日本にあることです。一時的な出国はともかく、頻繁に出入国を繰り返している場合は、住所がないと判断されるおそれがあります。

2 能力条件「二十歳以上で本国法によつて行為能力を有すること」

 日本よりも成年年齢の高い国は少ないですが、成年後見の宣告を受けている場合は、この条件を満たさないと判断されるおそれがあります。

3 素行条件「素行が善良であること」

 帰化の実務では、犯罪歴の有無だけでなく、少年時代の非行歴、税金の滞納がないこと、交通違反歴まで広範に調べられますが、はっきりとした基準があるわけではないようです。

4 生計条件「自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によつて生計を営むこと  ができること」

 これも、はっきりとした基準があるわけではありません。一般的にいえば、本人、配偶者、その他の親族の収入や資産によって、安定した生活ができることです。

5 重国籍防止条件「国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと」

 実務上、無国籍と認められることは、なかなかないようです。日本への帰化によって元の国籍を失うかどうかは、その国から証明書が出れば確実に分かりますが、そうでなければ、外国の国籍法を調べる必要があるので、実務上、最も難しいと言われています。

 おおむね四つのパターンがあります。①日本の国籍法11条1項と同様に、自動的に国籍を失う場合。②あらかじめ届出や許可によって、国籍を離脱できる場合(この場合は、一時的に無国籍になります)。③日本への帰化が完了した後でなければ、国籍離脱の届出や許可申請ができない場合。④国籍の離脱がまったく認められないか、または要件を満たしていない場合(兵役義務の未履行、年齢要件など)。

 ③と④の場合で、「日本国民との親族関係又は境遇につき特別の事情があると認めるときは」、例外的に重国籍防止条件が免除されることがあります(国籍法5条2項)。特別な境遇としては、難民認定を受けた場合などが考えられているようです。

6 憲法遵守条件「日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないこと」

 国家公務員法38条5号にならって設けられた規定ですが、普通に考えれば、こういう人は、素行条件を満たさないことになるでしょう。

 なお、日本人との結婚や親子関係などの家族関係、日本で生まれ育ったことなどの地縁関係がある場合は、居住条件を緩和したり、能力条件や生計条件を免除したりする規定があり(国籍法6条~8条)、一般に「簡易帰化」と呼ばれていますが、帰化の審査自体が緩やかに行われるわけではないので、ご注意ください。

 また、「日本に特別の功労のある外国人」については、国籍法5条1項の帰化条件をまったく満たさない場合でも、国会の承認を得て帰化を許可できる「大帰化」という制度がありますが(国籍法9条)、明治時代から一度も先例はありません。お雇い外国人のボワソナードを念頭に置いて設けられたと言われています。

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Q11: 帰化には、どのような手続が必要ですか?

とくに注意する点を述べます。まず下記のサイトを参照してください。

帰化許可申請
 http://www.moj.go.jp/ONLINE/NATIONALITY/6-2.html

 他の国籍関係手続と同様に、標準処理期間は、「ありません」と書かれていますが、とくに帰化の場合は、時間がかかるので、ご注意ください。帰化の実務では、申請を受け付ける前の「事前審査」だけで1年(その間に足りない書類の追完や事実関係の調査を指示されます)、さらに許可が下りるまで1年かかった、という話をよく聞きます。しかも、弁護士や行政書士を代理人として雇っても、しばしば本人の出頭が(申請の受付前でも)求められます。

 法務省の統計では、不許可の件数は、10パーセント未満ですが、実際は「事前審査」の段階で可能性のない人は断念させられているので、少ないように見えるだけです。とくに税金の滞納には厳しいと言われています。また国籍法5条以下の帰化条件には、全く規定されていませんが、原則として一定の日本語能力が求められます(国語能力については、これを帰化条件として明文で規定している国も少なくありません)。

帰化統計
 http://www.moj.go.jp/content/001180510.pdf

不服申立方法も「ありません」と書かれていますが、前述(Q9)のとおり、不許可処分の取消訴訟ができます。ただし、最終的に勝訴した例は見当たらないので、どうしても帰化したい場合は、弁護士も、再申請を勧めることが多いようです。

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Q12: 帰化許可申請に必要な書類には、どのようなものがありますか?

 法務省の「国籍Q&A」に主な書類として掲載されているのは、次のとおりです。法務局を事前相談のため訪れた際に、「必要書類一覧表」と「帰化許可申請の手引き」をもらえるので、詳しくは、そちらを参照してください。

1  帰化許可申請書(申請者の写真が必要となります。)
2  親族の概要を記載した書類
3  帰化の動機書
4  履歴書
5  生計の概要を記載した書類
6  事業の概要を記載した書類
7  住民票の写し
8  国籍を証明する書類
9  親族関係を証明する書類
10  納税を証明する書類
11  収入を証明する書類
12  在留歴を証する書類

 帰化の許可申請自体には、手数料がかかりませんが、これらの書類を揃えるためには、時間と費用がかかります。とくに難しい案件では、自分でやろうとしても、なかなか上手くいかないので、実際には、弁護士や行政書士に依頼することが多いようです。

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Q13: 日本国籍を失うのは、どのような場合ですか?

 自己の志望による外国国籍の取得(国籍法11条1項)、外国の法令による外国国籍の選択(同条2項)、日本国籍の不留保(国籍法12条)、日本国籍の離脱(国籍法13条)、国籍選択の督促後の国籍喪失(国籍法15条)、日本国籍の選択届をした者の国籍喪失宣告(国籍法16条)が規定されています。以下では、それぞれの国籍喪失を説明します。

1 自己の志望による外国国籍の取得(国籍法11条1項)

 「自己の志望」とは、自分の意思によることであり、具体的には、帰化や届出などによる外国国籍の取得です。最近では、自国民と結婚したり、養子縁組をしたりした場合も、帰化や届出を要件とする国が多いですが、仮に結婚や養子縁組だけで自動的に外国国籍を取得した場合は、結婚や養子縁組が自分の意思によるものだからといって、日本国籍を失うことはありません。

 これに対して、未成年者の帰化や届出が法定代理人(通常は親)によってなされた場合は、代理権が認められる以上、本人の意思によるものでないとは言えません。また、外国国籍を取得することについて、異議がないなどの届出をした場合も、積極的に国籍取得を求めたわけでないから、日本国籍を失わないとは言えません。

 こういう帰化や届出による外国国籍の取得は、ヨーロッパでは、相互に通知する制度がありますが、日本は、韓国を除き、相互の通知制度を設けておらず、そのため、本人や家族が戸籍の抹消のために市町村に届出をした場合以外は、事実上、日本国籍の喪失が分からないことが多いようです。しかし、自動的に日本国籍を失っているので、日本のパスポートを使ったら、旅券法違反になりますし、在留資格がないまま日本に住んでいる「不法滞在者」として、入管法違反の罪に問われるおそれがあります(これらは、形式犯であり、故意・過失を問いません)。

 なお、卓球の福原愛選手は、台湾人と結婚するので、台湾の国籍法上、いわゆる簡易帰化(居住条件を5年から3年に軽減)を申請することができますが、別の案件に関する法務省民事局の回答によれば、仮に帰化が許可されたとしても、日本からみて未承認の台湾の国籍法による帰化は、国籍法11条1項にいう「外国国籍の取得」とはならず、日本国籍を失わないでしょう。ただし、卓球の国際大会やオリンピックについては、それぞれの団体が決めることですから、日本人選手として出場できるかどうかは、別の問題です。

2 外国の法令による外国国籍の選択(国籍法11条2項)

 これは、日本の国籍選択制度と同様の制度により、外国国籍を選択した場合に、自動的に日本国籍を失わせるために設けられた規定です。しかし、外国の制度が日本の国籍選択と同じ趣旨であるかどうかを判断することは、それほど簡単ではありません。単に「選択」という言葉が使われているかどうかだけでは判断できません。

 たとえば、父母の一方がブラジル人の子どもが他国で生まれた場合、ブラジル国籍を「選択」できるとされていますが(出生地主義の例外)、これは、実質的には、日本の国籍留保制度(Q6)と同様の趣旨だと考える余地があります。また、他国に帰化するフィリピン人は、フィリピン国籍を「留保」するための宣誓手続ができるとされていますが、これは、実質的には、日本の国籍選択制度と同様の趣旨だと考える余地があります。これに対して、韓国の国籍選択制度は、明らかに日本の国籍法と同じ趣旨とみてよいでしょう(細部は異なりますが)。

3 日本国籍の不留保(国籍法12条)

 Q6を参照してください。

4 日本国籍の離脱(国籍法13条)

 Q14を参照してください。

5 国籍選択の督促後の国籍喪失(国籍法15条)

 Q15を参照してください。

6 日本国籍の選択届をした者の国籍喪失宣告(国籍法16条)

 Q16を参照してください。

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Q14:日本国籍の離脱には、どのような手続が必要ですか?

 外国国籍を有する日本国民(重国籍者)は、法務大臣(法務局)に届け出ることによって、日本国籍を離脱することができます(国籍法13条)。具体的な手続については、下記のサイトを参照してください。

国籍離脱の届出
 http://www.moj.go.jp/ONLINE/NATIONALITY/6-3.html

 届出が受け付けられたら、審査の結果、要件を満たしているかどうかに関する通知があります。ポイントは、重国籍者であるかどうかの判断です。もし外国国籍を取得した原因が帰化や届出など、自分の意思によるものであった場合は、その時すでに日本国籍を失っています(Q13)

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Q15: 国籍選択とは、どのような制度ですか?

 日本は、他国にはあまり例のない国籍選択制度を1985年の国籍法改正の際に取り入れました。これは、父系血統主義を父母両系血統主義に改正したので、重国籍が増えることを懸念したからです。

 重国籍者は、重国籍となった時が20歳未満である場合は22歳までに、また重国籍となった時が20歳以上である場合はその時から2年以内に、いずれかの国籍を選択しなければなりません(国籍法14条1項)。しかし、期限内に国籍選択をしない場合は、国が督促(催告)をすることができるだけです(国籍法15条1項)。そして、国会での答弁によれば、国籍法改正から30年以上経過した現在までに、一度も督促をしたことはないようです。

 なぜ督促をしないのでしょう。おそらく、やるのであれば平等にする必要があるからだと思います。まず二重国籍の人を把握するのが難しい。国際結婚から生まれた子どもでも、外国人の親と同じ国籍を取ったかどうかを確認するためには、外国の国籍法を調べる必要があります。パスポートを持っていないから、国籍がないとは限りません。逆にパスポートを持っていても、もともと国籍がなかったり、現在は国籍がないということがあります。

 つぎに督促状の送り先を把握するのも難しい。外国に住んでいる人など、住所が分からないときは、官報に掲載すると規定されていますが(国籍法15条2項)、そのまま1か月が過ぎたら、日本国籍が自動的になくなるとも定めています(同条3項)。知らないうちに日本国籍がなくなったという苦情がたくさん寄せられるでしょう。

 国籍選択という制度を作ってみたけれども、実際に運用しようと思ったら、うまくいかないことが分かった。それが本音ではないでしょうか。

 ところが、法務省のウェブサイトやポスターなどでは、国籍選択の義務があることばかりが強調され、督促を一度もしていないことはまったく書かれていません。そのため、中には勘違いをして、日本国籍の離脱届を出してしまう人がいるようです。
 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06.html

 たとえば、2014年・15年には、年間500人以上の人が国籍離脱届を提出していますが、その多くは勘違いの可能性があります。ひとたび国籍離脱届をしてしまったら、もう一度日本国籍を取り戻すためには、帰化を申請するしかありません。こうした背景があり、「国籍選択制度は紛らわしいから廃止してくれ」という請願が国会に多く寄せられています。

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Q16: 国籍選択は、どのような方法で行うのですか?

 国籍法には、外国国籍を選択する方法自体が規定されているわけではありませんが、以下の二つの方法によれば、結果的に日本国籍を失うので、外国国籍を選択したことになります。

1 日本国籍の離脱届(Q14)
2 外国の法令による外国国籍の選択(Q13)

 ただし、2の方法は、その外国の法令に日本の国籍選択制度と同様の制度があることが必要であり、そのような国は、決して多くありません。

 これに対して、日本国籍を選択する方法としては、以下の二つの方法が規定されています(国籍法14条2項)。

1 外国国籍の離脱

 この方法は、外国の法令により国籍の離脱が認められている必要があるので、その国の国籍法次第です。

2  日本国籍の選択宣言
 「日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言」をする方法があります。この選択宣言は、戸籍法の定めによるので、市町村の戸籍窓口または日本の在外公館(大使館や領事館など)で国籍選択の届出をします(戸籍法104条の2)。具体的な手続については、下記のサイトを参照してください。

国籍選択届:
 http://www.moj.go.jp/ONLINE/NATIONALITY/6-4.html

 その記載例をみれば、「現に有する外国の国籍」を記載することになっています。仮に蓮舫議員がこの国籍選択届をするとしたら、「中国」と書くことになりますが、その中国国籍があるかどうかは、中華人民共和国の国籍法により判断されます。それによれば、1985年の国籍法改正の経過措置で認められた届出によって、日本国籍を取得した蓮舫議員は、その時自動的に中国国籍を失っているので、国籍選択届は不受理となるはずです。

2016年9月13日の記者会見に関する奥田のコメント:
 http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~okuda/shiryoshu/renho_nationality.html

 この日本国籍の選択届をした人は、外国国籍の離脱に努めなければなりません(国籍法16条1項)。もちろん実際に外国国籍を離脱できるかどうかは、その国の国籍法次第ですから、これは、単なる努力義務です。

 ただし、「自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であつても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは」、国籍喪失宣告の手続が開始されることがあります(国籍法16条2項~5項)。しかし、このような手続が行われた例は、まったく見当たりません。おそらくないはずです。

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Q17: 重国籍のままだと、国家公務員や国会議員になることはできませんか?

 一般的には、日本国籍を有する以上、国家公務員になることができますが、外交官は、外務公務員法という法律により、重国籍者が除かれています。

 国会議員については、公職選挙法により、「日本国民」であることが被選挙権の要件とされているだけです。重国籍者も、選挙に当選すれば、国会議員になることができます。立候補の際にも、戸籍謄本の提出が求められるだけです。

 このようにもともと重国籍者であることは、国会議員の欠格事由とはされていないので、重国籍者であることを明かさなくても、経歴詐称にはならないでしょう。そもそも日本人が外国の国籍を持っているかどうかを確認することは、それほど簡単ではありません(Q15)

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