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       蓮舫議員関係資料



*以下は、2016年9月から10月にかけて、フロントページに掲載した内容を「蓮舫議員関係資料」としてまとめました。これは、民進党の蓮舫議員の国籍について、様々なメディアから取材を受けたことをきっかけとして調べた内容を記録として公表するものです。


ご注意ください!
私の動画(報道ステーション2016年9月13日)に自分の勝手なコメントを付けて流している者がいますが、私の発言内容に全く反しています。正確な情報については、このページに掲載された資料を参照し、くれぐれも早とちりのないよう願います。


2016年9月12日
著作一覧
〔解説・書評〕

「『国籍』とは何か?-蓮舫議員をめぐる議論をきっかけに改めて考える」
(荻上チキとの対談)シノドス2016年9月12日
 http://synodos.jp/politics/17892
*以下のラジオ番組の放送をもとに編集しました。
「改めて考える、国籍とは一体、なんなのか?」荻上チキ・Session-22(TBSラジオ)
2016年9月8日放送
 http://www.tbsradio.jp/71662
1か月くらいしたら、音声の再生ファイルは削除されます。
*この番組の主たるテーマは、「国籍」一般です。蓮舫議員の国籍に関する具体的な検討結果については、記者会見のコメントを参照してください。


2016年9月15日
外国法リンク集
〔アジア〕中華民国

現行国籍法(2000年2月9日公布、2006年1月27日修正公布)
 http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~okuda/gaikokuho/republic_china_nationality_law.html
旧国籍法(1929年2月5日公布)
 原文へのリンク
*蓮舫議員は、父親と一緒であれば、国籍喪失許可の申請ができたとする報道がありますが、それは、現行国籍法の話であり、1985年当時の旧国籍法には、同時申請の規定がありません。いずれにせよ、蓮舫議員の父親は、日本に帰化しておらず、中華民国国籍の喪失許可申請をしていないようです。

ちなみに、中華人民共和国の国籍法(1980年)の原文については、以前から同政府のサイトへのリンクを張っています。
 http://www.gov.cn/banshi/2005-05/25/content_843.htm
*日中国交回復後は、台湾出身者にも中国の国籍法が適用されます。蓮舫議員は、日本の国籍法改正の経過措置により認められた届出によって、日本国籍を取得したので、自動的に中国国籍を失っており、二重国籍ではありません。したがって、仮に日本国籍の選択届(国籍法14条2項、戸籍法104条の2)をしたとしても、不受理になるはずです。
*台湾人が帰化する場合も、国籍法5条1項5号の重国籍防止条件は満たしていますが、帰化は、法務大臣の自由裁量による許可を受ける必要があるので、実務上は、さらに台湾政府への国籍喪失許可の申請が求められています。これは、届出と許可の違いによるものですから、混同しないようにご注意ください。

以下の記事に報道された法務省の見解には、トリックがあります。

日経新聞の記事
 http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS14H3Y_U6A910C1PP8000/
によれば、法務省は、日本の国籍実務では「台湾の出身者に中国の法律を適用していない」とする見解を発表したとのことですが、「台湾の法律を適用する」とも言ってません。これが第1のトリックです。

毎日新聞の記事
 http://mainichi.jp/articles/20160916/k00/00m/010/051000c
によれば、「国籍事務において、台湾出身者の人に中国の法律を適用していない。日本の国籍法が適用される」との見解を明らかにしたとのことであり、さらに「中国の国籍法を日本政府が適用する権限も立場にもない」としています。

この記事は、一般の方には分かりづらいと思いますが、
①国籍選択自体については、もちろん日本の国籍法が適用される、
②その前提として、二重国籍であるかどうかについては、外国の国籍法を
適用する、
③ただし、これは、直接的に外国の国籍法を適用して、外国人の国籍を
決めるわけではない、
ということをかなり大雑把に述べたものであると思われます。
しかし、②を省略しているので分かりづらいですし、③を述べるつもりであれば、中国の国籍法と台湾の国籍法のいずれも、日本政府は適用する権限がない、というべきところです。これが第2のトリックです。そうしたところ、

2016年9月16日
朝日新聞の記事
 http://www.asahi.com/articles/ASJ9H7V0ZJ9HUTFK01B.html
によれば、日本の国籍事務では、やはり台湾を「『中国』として扱っている」とのことであり、具体的に蓮舫議員が中国国籍を喪失したかどうかについては、法務省は判断しないという報道がなされました。これによれば、蓮舫議員が二重国籍であるかどうかは、やはり中国の国籍法により判断され、その結果、自動的に中国国籍を失っているので、国籍選択の対象外ということになるはずです。これがトリックの種明かしです。


2016年9月19日
入管・戸籍・国籍法資料集
〔戸籍・国籍〕手続案内

蓮舫議員の国籍問題
2016年9月13日の記者会見全文
 http://www.sankei.com/politics/news/160913/plt1609130016-n1.html
 http://news.biglobe.ne.jp/domestic/0913/san_160913_6556195337.html
 奥田のコメント
 http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~okuda/shiryoshu/renho_nationality.html

*記者会見の全文を掲載した記事が見つかったので、リンクを張るとともに、私のコメントを掲載しました。
*とくに注意して頂きたいのは、外交公務員法を除き、二重国籍を欠格事由とした法律がないこと、蓮舫議員の発言が変遷したのはやむを得ない面があること、少なくとも公職選挙法に違反するような経歴の詐称には当たらないことです。


2016年9月21日
入管・戸籍・国籍資料集
〔戸籍・国籍〕手続案内

今回の騒動の一因は、法務省の「国籍Q&A」というサイトの不正確な記述にもあると思いましたので、
国籍Q&A(奥田Version)
 http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~okuda/nationality_information_okuda.html
を掲載しました。


2016年9月24日
昨日、蓮舫議員が台湾政府から国籍喪失許可を得て、記者会見を開きました。
 http://www.sankei.com/premium/news/160923/prm1609230010-n1.html
今回は、1985年の日本国籍取得が国籍法改正の経過措置によるものであることをきちんと説明しており、その点は良かったと思いますが、「戸籍法に基づく国籍喪失届をした」とも述べています。これは、戸籍法106条による外国国籍喪失届です。しかし、届出の結果、受理されたのかどうかは明言されていません。

なぜこれが重要であるかと言えば、戸籍では、受付と受理を厳格に区別するからです。蓮舫議員が「届出をした」と言っても、戸籍の実務では、しばしば市区町村が判断に迷って、法務局(さらに法務省民事局)に受理照会をすることがあります。すなわち、「受理照会中」の可能性もあるのです。

仮に受理されたとしたら、戸籍には、「喪失した外国国籍」として「中国」と書かれるはずであり、決して「台湾」とは書きません(入管とは異なります)。しかし、その中国国籍は、1985年に蓮舫議員が日本国籍を取得したとき、中国の国籍法により自動的になくなっているので、今回の外国国籍喪失届は不受理になると予想されます。

 「外国国籍喪失届」が不受理となった場合、蓮舫議員は、「もともと二重国籍ではなかった」ということになります。皆さんは、もう一件落着と思っているかもしれませんが、私にとって、この外国国籍喪失届の受理・不受理は、気になるところであり、引き続き注視していきたいと考えております。


2016年9月26日
9月13日の記者会見において、蓮舫議員は、「合わせて父と一緒に台湾籍を抜く作業をしたという認識で今にいたっていた」と発言しています。

本人は、単に父親が同伴して(というよりも父親が主導して)、自分の国籍喪失許可の申請をしたと言いたかったようであり(もちろん当時17歳の未成年者は申請資格がないので、門前払いになったはずですが)、父親が日本への帰化申請をしていないことは、自分にとっては自明のことだったのでしょうが、この発言が誤解を招いた面は否めません。

たとえば、父親と一緒であれば、国籍喪失許可の申請ができたはずだという報道が一部にあり(それは旧国籍法によれば間違いですが)、私も、蓮舫議員の父親が別途日本に帰化して、自分だけが国籍喪失許可の申請を受けたのだと思い込んでいました。

これに伴って、9月13日の記者会見のコメントなどを一部修正しました。


2016年9月28日
韓国の在外国民登録のように、台湾にも台湾系華僑の登録制度があるようですので、蓮舫議員の場合は、台湾の戸籍ではなく、このような華僑登録だけをしていた可能性があります。そこで、9月13日の記者会見のコメントを一部修正しました。


2016年10月6日
9月24日の国籍喪失届がどうなったのかについては、情報がなく、その間に自民党の新人議員がアメリカ国籍(父+出生地=米国)との二重国籍であったという報道がなされています。この自民党議員の件は極めて単純ですが、蓮舫議員の件は異なります。

あるいは、法務省民事局が従来の公式見解を変更して、台湾の国籍法を適用し、今回の外国国籍喪失届を受理するよう、管轄法務局および区役所に回答する可能性もあるような気がします。なぜなら、パレスチナも未承認ですが、2007年に先例変更がなされ、パレスチナの国籍法を適用するようになったからです(奥田『国際家族法』85頁以下)。それをみれば、今回の件をきっかけにして、台湾の国籍法を適用するという先例変更も、可能性があるような気がします。

ただし、戸籍の記載上、「喪失した外国国籍」として、「台湾」ないし「中華民国」と書くことは無理であり、「中国」と書くしかありませんし、中華人民共和国政府との関係もあるので、なかなか難しいところです。


2016年10月16日
昨日の産経新聞の記事によれば、蓮舫議員が日本の区役所に台湾籍離脱証明書を提出したら不受理となったので、相談したところ、日本国籍の選択宣言をするよう強く行政指導されたので、その通りにしたとのことです。前段は、戸籍法106条による外国国籍喪失届です。後段は、国籍法14条2項を受けて、戸籍法104条の2に定められた日本国籍の選択届です。
記載例:http://www.moj.go.jp/ONLINE/NATIONALITY/6-4-1.html

外国国籍喪失届が不受理になったということは、台湾出身者については、中華民国ではなく中華人民共和国の国籍法を適用したことになるはずであるのに、日本国籍の選択届をせよという行政指導をするのは、矛盾すると思います。なぜなら、中華民国国籍の喪失は、法律的に無意味であると言いながら、同時に中華人民共和国の国籍法により、自動的に中国国籍を失っているという事実を否定しているからです。

産経新聞の記事によれば、日本国籍の選択届はしたようですが、それが単なる受付であるのか、それとも適法な届出として受理されたのかは明らかにされていません。前回の外国国籍喪失届の時と同じです。行政指導をしたというからには、受理が予想されますが、そうであれば、蓮舫議員の戸籍には、国籍選択の宣言日が記載されるはずです。

このような記載が戸籍になされた場合は、戸籍法113条にいう「違法な記載」として、家裁に戸籍訂正の許可審判を申したてることができます。この申立てが認められたら、蓮舫議員はもともと重国籍者ではなかったということが、司法によって判断されたことになるのですが・・・。

このように私には、まだまだ気になることが残っています。


2016年10月23日
現在も、本件について取材を申し込んでこられる方がいますが、もう少し法務省に突っ込んだことを聞いてもらえたらと思うことがあります。

基本的なことを申し上げます。
国籍法14条1項「外国の国籍を有する日本国民は、・・・いずれかの国籍を選択しなければならない」
法務省の見解「台湾人に中国の国籍法を適用しない」

それでは外国の国籍を有するのかどうかは、どの国籍法によるのでしょうか?
法務省は、「台湾の国籍法を適用する」とは一言も述べていません。
仮に私が法務省に取材をしたとしたら、次のようなやり取りになると思います。

Q:台湾人に中国の国籍法を適用しないそうですが、それでは、国籍選択の対象者であるかどうかを判断するためには、どの国籍法を適用するのですか?
「外国の国籍を有する日本国民」であるかどうかを判断しなければならないですね?
台湾の国籍法を適用するのですか?
A:台湾は、未承認ですから、台湾の国籍法を適用することはできません。

Q:それでは、中国の国籍法も適用しない、台湾の国籍法も適用しないのですから、台湾人は無国籍者ということになるのですか?
A:いいえ、中国人です。

Q:その中国人であるという判断は、どの国籍法を適用して判断したのでしょうか?
A:・・・(無回答)

法務省の公式見解(通達や回答など)は、私法関係については、台湾法を適用しますが、日本の国籍法を適用する前提としては、台湾出身者についても、中国法を適用してきました(拙著『国際家族法』83頁以下)。このような区別は、理論的には、問題点がありますが、今回、蓮舫議員の外国国籍喪失届を不受理としたわけですから、これで日本国籍の選択届を受理することは、先の不受理処分と矛盾することになるはずです。


2016年10月24日
国会議員や一定の公務員の資格として、二重国籍を禁止すべきであるという声が相変わらず続いているので、法律上の問題点を整理してみました。

実は、明治32年にわが国初めての国籍法(旧国籍法)が制定された際にも、帰化による国籍取得者については、国務大臣や帝国議会の議員などになることを禁止する規定が設けられました(16条)。
http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~okuda/shiryoshu/old_nationality_law.html

今でも、南米では、国籍の取得が帰化による場合は、大統領になれないとする国が多いですが、これほど広範囲に公職就任権を制限した例は、当時としても珍しく、議会では大変な議論になったようです。

しかし、昭和25年に現行国籍法が制定される際には、「法の下の平等」に反するとして、当然のごとく、公職の制限は撤廃されています。これは、憲法14条だけでなく、議員および選挙人の資格を法律に委ねた憲法44条でも、人種などによる差別が禁止されていることから、当然の帰結と言えます。

あるいは、二重国籍者は国籍法14条の国籍選択義務に違反しているから、公職を制限されても仕方ないという声があるかもしれません。しかし、このサイトで繰り返し説明してきたとおり、国籍選択の期限が過ぎた場合は、国から催告を受けるだけであり、しかもその催告は、いろいろ問題があって、一度も行われていません。

そもそも法律違反といっても、催告があった後、さらに1か月の間に国籍選択をしなければ、本人が日本国籍を失うという不利益を受けるだけであり、社会一般に害悪を及ぼすわけではありません。だから刑罰は課されないのです(当然!)。法務大臣まで「国籍法違反」ということを声高に言うのは、疑問です。

法律上の義務違反というのは、刑事法・行政法・民事法の各分野でそれぞれ異なります。たとえば、保険に入る際に、健康状態などの告知義務違反があった場合は、自分が保険金を受け取れなかったり、状況によっては、契約を一方的に解除されるという不利益を受けるだけです(ただし、悪質である場合は、詐欺罪が成立する可能性もありますが)。
http://hokensc.jp/soudan-repo/kokuchigimu.html

国籍法の話に戻せば、二重国籍であるからといって公職を制限するのは、本質的に旧国籍法の公職制限規定と共通しています。旧国籍法では、帰化による国籍取得者に重要な公職を認めるのは「危険」だという理由でしたが、戦後は、平等権に反するとして、当然のごとく撤廃されています。わが国は、再び戦前と同じ道を歩むつもりなのでしょうか?

二重国籍者が立候補さえできないとしたら、選挙民の側からみても、投票できる人の範囲が狭まるわけですから、選挙権の不当な制限という見方もできます。わが国は、民主主義国家として、二重国籍であるかどうかにかかわらず、誰が国会議員として相応しいのかを国民の判断に任せるべきであると思います。


2016年10月27日
法務大臣閣議後記者会見(2016年10月18日)の概要が法務省のウェブサイトに掲載されました。
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00823.html

そこには、「重国籍に関する質疑について」という項目があり、多くの問題点が含まれているので、主に法律的な観点からコメントします。

■説明責任?

大臣は、日本国籍の選択宣言(国籍法14条2項、戸籍法104条の2)について、「御自身で説明すべき問題」と述べています。これは、政治家の金銭問題(不明朗な金銭の出し入れなど)では、よく使われる常套句ですが、本件のように特殊な法律問題で使ってよいのかは、もっと慎重に考えるべきであったと思います。

現に10月15日の蓮舫議員の記者会見は、受付と受理を区別しておらず、ひどい内容でした。9月13日および9月23日の記者会見と同様、蓮舫議員は、今回の一連の法律問題について、正確な説明をする能力がないにもかかわらず、弁護士ではなく自分で説明してきました。これによって、報道が混乱し、政治が混乱し、一般市民が混乱し、何よりも同じ境遇にある台湾出身者や国籍の問題を抱えている人たちに大きな「不安と苦痛」を与えました。

これまで私は、「蓮舫議員が正確な説明をできないのは仕方ない」と述べてきましたが、会見およびその他の発言は、国会議員として著しく見識を欠いていると思います。なぜなら、自分が不正確な発言をすることにより、混乱を引き起こすことを認識しておらず、専門家に任せようとする姿勢に欠けているからです。一方、法務大臣も、蓮舫議員の発言により迷惑を被っている人たちがいることを認識しておらず、「政治家は何でも政争の具にする」、「国民不在の政治」と言われても、仕方ないと思います。

■外国国籍離脱の努力義務?

大臣は、「台湾当局から国籍喪失許可証の発行を受けることは、国籍法第16条第1項の外国国籍の離脱の努力に当たる」と述べています。しかし、それでは、なぜ蓮舫議員が台湾の国籍喪失許可証を添付した外国国籍喪失届(戸籍法106条)を不受理にしたのでしょうか。

これを受理しなかったというのは、台湾が未承認政府であり、台湾の国籍法による国籍喪失というものが法律的に無意味であったこと、むしろ正統政府とされる中華人民共和国の国籍法により、蓮舫議員が「外国の国籍を有する日本国民」であるかどうかを判断すべきであったことを意味するのではないでしょうか。中華人民共和国の国籍法によれば、蓮舫議員は、国籍法改正の経過措置としての届出により日本国籍を取得したので、自動的に中国国籍を失っており、「もともと二重国籍ではなかった」ということになるはずです。

台湾出身者に大陸の国籍法を適用するのは変だと思うかもしれませんが、日中国交回復までは、逆に大陸出身者についても、中華民国の国籍法により、中国国籍の有無を判断してきました。日本政府の公式見解(通達、回答など)によれば、ひとつの中国にふたつの政府が存在しており、一国二政府状態ですから、どちらかの国籍法を適用するしかないということです。それが日中国交回復の前後で切り替わっただけのことであり、何も難しいことではありません。

なお、帰化申請では、台湾出身者に対し国籍喪失許可証明書の提出を求めるという実務が定着しているようですが、これは、帰化が法務大臣の自由裁量による許可を要件とするからであって、本件とは区別する必要があります(9月15日更新の解説参照)。

■国籍法上の義務違反?

大臣は、「国籍法上の義務違反」と言いますが、その効果については、何も述べていません。このサイトで説明したとおり、政府が催告できるというだけでのことであり(これまで一度もしていませんが)、催告があれば、本人が日本国籍を失うという不利益を受けるだけです。あたかも刑法犯のような言い方をするのは、法務大臣として慎重さに欠けると思います。

■戸籍を示す?

記者の質問にある「戸籍を示す」というのは、戸籍実務の観点からは、大いに疑問です。戸籍は、1976年までは、公開が原則であり、誰でも手数料を納めて謄本などの請求ができましたが、戸籍法改正により、逆に非公開が原則となり、本人や一定の親族の請求、あるいは弁護士や行政書士などの職務上請求以外は認められないことになりました。プライバシー保護のためです。

また仮に外国国籍喪失届や日本国籍選択届(選択宣言)をしたことの証明を求めるのであれば、むしろ届出の受理証明書や記載事項証明書(戸籍法48条)のほうが普通です。さらに、受附帳(戸籍法施行規則21条)の記載事項証明書というようなものもあります。

いずれにせよ、蓮舫議員の場合は、仮に日本国籍の選択届が受理されたとしたら、それは、先の外国国籍喪失届の不受理と矛盾しています。また選択届が不受理になったら、「もともと二重国籍者ではなかった」ということになります。この点だけは、また会見で明らかにしてほしいと願っていますが、もちろん本人ではなく弁護士が代理人として正確に説明するべきです。

なお、日本国籍の選択届には、「現に有する外国の国籍」を書く欄があり、蓮舫議員の場合は、そこに「中国」と書くことになります(「台湾」や「中華民国」と書いた届出は受理できないはずです)。ただし、この届出が受理されたら、戸籍には、「国籍選択の宣言日」が記載されるだけです(法定記載例178)
*最後の点について、10月16日更新の解説を訂正しました。

受理証明書:
届出の種類、届出人の氏名、事件本人の氏名、届出事項の要旨、届出年月日、受理年月日などが記載されるようです(戸籍法施行規則66条1項、附録第20号書式)。
http://www011.upp.so-net.ne.jp/g-certificates/img-certificate-juri-002.PNG

記載事項証明書:
届書の内容(受理年月日などを含む)がすべて記載されるようです(戸籍法施行規則67条1項、14条、附録第17号書式)。
http://www011.upp.so-net.ne.jp/g-certificates/img-certificate-kisai-001.PNG

■重国籍解消の必要性?

大臣は、「重国籍解消の必要性」について、法務省のサイトでアピールしていると言いますが、国籍Q&A(奥田Version)のQ2で説明したとおり、法務省のいう必要性は、いずれも疑問です。
http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~okuda/nationality_information_okuda.html#Q2

■国籍選択義務の周知?

記者は、もっと国籍選択義務をアピールすべきであると言いますが、むしろ「催告をしていない事実」こそ広く周知させるべきです。また、「組織的な犯罪の共謀罪」と同じように扱っていますが、これらが同列の問題であるかのように考えること自体が大きな問題です。

■重国籍者の把握?

大臣は、「重国籍者であるか否かを確実に把握すること」が難しいと述べていますが、そのあとすぐに「戸籍法に定める各届出が適切に行われていない場合も考えられる」とも述べています。これは、外国国籍喪失届のことを言いたいのかもしれません。

しかし、そもそも「外国の国籍を有する日本国民」であるかどうか、国籍法14条の対象であるかどうかを把握するのが難しいのであり、それは、本人、家族、日本政府、外国政府、場合によっては、弁護士や裁判官にとってさえ難しいということを知るべきです。各国の国籍法は、大きく分ければ、血統主義と出生地主義のいずかを原則としますが、例外規定を正確に調べる必要があり、しかも外国の国籍法は頻繁に改正されるので、本人の出生時期により、旧法まで調べる必要があります。

大臣は、それにもかかわらず、国籍選択の予定者や選択済みの者のことを述べており、話をはぐらかしているか、あるいは問題を正確に理解していない疑いがあります。

■結局は政治問題か?

大臣は、「国籍選択義務の履行者の概数」という質問に対しても「難しい」と答えながら、戸籍がプライバシーに関わるので、「事柄の性質上、公表することが適切かどうか」と述べて、結局、「説明責任」の話で終わっています。

記者の質問は、国籍法14条の対象者全員の話をしているのに、最後は蓮舫議員の話に戻っているのは、結局、「国籍法のことはよく分からないが、ともかく説明責任を果たさないのはけしからん」ということに尽きるのではないでしょうか。「法務大臣」の会見がこれでは困ります。


2016年10月28日
昨日の更新内容を一部訂正しました。多くは、表現の訂正ですが、内容の訂正は、次のとおりです。

■外国国籍離脱の努力義務?
いまだに帰化の許可申請と本件とを区別していないブログがあったりしますので、もう一度注意喚起のため加筆しました。

■戸籍を示す?
国籍選択届が受理された場合の戸籍の記載事項などについて加筆しました。





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