スマートフォンなどインターネットを使って診察を受ける「遠隔診療」が注目されている。昨年8月の事実上の解禁から1年余り。安定した症状で初診は対面診療などの条件はあるが、処方箋や薬を自宅へ届けてもらうこともできる。導入する医療機関は徐々に増えている。(森 信弘)
兵庫県加古川市の女性(85)は、骨折や骨粗しょう症の娘(58)が「大西メディカルクリニック」(同県稲美町)の遠隔診療を受ける。訪問スタッフが持参するタブレットで、大西奉文(ともゆき)院長とやりとりをする。
娘には障害があり、言葉もうまく話せないため母が代わりを務める。最初は対面診療だったが、今は画面越しに状況を話して薬をもらう。「高齢なので娘と一緒に通うのが大変だった。本当にありがたい」と話す。
同クリニックが遠隔診療を始めたのは今年8月。まずは、はり・きゅうや骨粗しょう症を対象に始めた。院内処方の薬は訪問スタッフらが届ける。
これまで遠隔診療は離島やへき地、慢性疾患などに限ると認識されてきた。だが、デジタル端末の普及などを受け、政府の規制改革会議から見直しを求められた厚生労働省は昨年8月、事実上解禁。ベンチャー企業の参入が進んだ。
同クリニックはメドレー(東京)が運営し、オンラインで予約してクレジットカードで決済するサービスを導入。現在は高齢の利用者が多いため、スマートフォンなどに通常備わるテレビ電話機能を使っている。
同クリニックの安福佑太事務長(33)は「高血圧などで薬をもらうためだけに病院で待たなくても済む。今後は自費で健康相談もしていきたい」と話す。運営する医療法人が来夏、神戸市長田区に開くクリニックでは、忙しくて通院時間のとれないサラリーマンら若い人向けに遠隔診療に力を入れる。診療科目は未定だが、原則、事務の人間がいらない環境を目指す。
専門性の高い診療科ならではの需要もある。大久保病院(明石市)のスポーツ内科は陸上のトップ選手やJリーグ選手ら遠方の患者を抱える。田中祐貴医師(29)は「検査結果が翌日になるときや、薬の微調整を相談したいときなどにわざわざ来てもらうのは心苦しい」と話す。
そこで「ポケットドクター」という首都圏中心に全国約300の医療機関が登録するサービスを9月から導入した。薬は処方箋のみを送る方針だが、整形外科や内科にも広げる予定で「皮膚科なども視診である程度状態が把握できる。通院しにくい精神科や、母親が忙しい小児科にも有効だと思う」とする。
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■診療報酬の低さ課題
遠隔診療を普及させる上で壁になるのが、診療報酬の低さだ。テレビ電話による診察で医療機関が得られるのは原則的に電話再診料(720円)にすぎず、対面診療と比べると大幅に下がる。
明石市の大久保病院スポーツ内科、田中祐貴医師(29)は「画像は電話とは得られる情報量が違う。点数を電話と差別化すれば、医療機関は導入しやすくなる」と診療報酬の引き上げを求める。
どこまでなら診療が許されるのかなど分かりにくい面もある。田中医師は「国は具体的なガイドラインを示してほしい。IT技術はこれからも進歩する。絶えず見直すことも必要だ」と話す。
一方で「医師は部屋に入ってきた患者の姿を見て異変に気付くこともある。対面が基本で、遠隔はあくまで補完ということを忘れずに使うべき」とする。