wisdomイベント アフターレポート
本間浩輔氏×中原淳氏と考える「会社の中のジレンマとこれからの働き方」
2016年10月28日
ビジネスパーソンの働き方や、企業と社員の関係性など、さまざまな変化が起こっている昨今、価値観が移り変わる現代だからこそ、職場ではさまざまな「ジレンマ」が生じている。そんな状況を分析したのが、本間浩輔氏と中原淳氏の共著『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』(光文社新書刊)だ。本書は、ヤフーで人事責任者を務める本間氏と人材開発の研究を専門とする東京大学准教授の中原氏が、多くの現場マネジャーから切実な悩みを募り、実務家と研究者の立場からその見方と解決案を提示した一冊。9月20日には、刊行記念企画として青山ブックセンター本店でトークイベントが開かれた。熱い議論が交わされたイベントの様子をレポートする。
成長するには、“修羅場”が本当に必要?
中原氏:
本書でジレンマを「どちらを選んでもメリットもデメリットもあるような2つの選択肢を前にして、それでもどちらにするかを決めなくてはならない状況」と定義しました。現場のマネジャーになれば、ジレンマに直面することは宿命であります。その時に、誰もが「見なかったことにしたいな」と思うものですが、現場で働いている以上、決断しなければいけません。だから、各章の終わりには、「あなたの決断」を書くページがあります。私は、この本を企画した時に、立ち止まる本を作りたいと思いました。読んだはよいけどあまり活用しない本ではなくて、読んだあとに自分がどうするか決める本にしたいと思ったんです。そして決めるためには、まずはジレンマを観察して、問題の輪郭を理解しなければいけない。以上が本書の紹介になりますが、今の説明で大丈夫ですか?。
本間氏:
はい。十分だと思います(笑)。この本のなかで一番多く語ったのが、「部下に仕事を任すか否か」というテーマについてです。現場では、「仕事を振る」という言い方をします。しかし、この言葉には気をつけなければいけません。振っておきながら「そんなつもりで振ったんじゃなかった」と思うことは、現場のマネジャーにはよくあることだからです。一方、サントリーには「やってみなはれ」という文化があるそうですが、同社はビール事業を黒字化するのに46年かかりました。それだけ部下に仕事をシェアすることは簡単なことではなくて、任せるには任せるだけの覚悟が必要になるということです。
中原氏:
その通りですね。
本間氏:
リーダー育成と“修羅場”について話をした箇所にも、大きな反響をいただきました。「一皮むける経験」という言い方に代表されるように、自分の部下に困難な思いをさせるために修羅場に放り込むという発想が日本全国で流行しているように思います。しかし、そろそろそれも見直さなければいけません。優れたリーダーに限って、「部下は放っておけばいい」とか、「理不尽な試練を与えたほうがいい」とか考えがちですけど、もうそういう時代でもない。1980年代くらいまでは経済が成長して、起業のチャンスもどんどん増えていたから、修羅場がたくさんあった。でも、今や経済成長もないし、修羅場の機会も滅多にありません。良質な学習経験で育てるという発想を持つべきだと思います。
中原氏:
経験は原資であり有限だから、それだけに頼って育成していくのは限界がある、と。あとは、「何も言われないのは、褒められている証拠である」という言い方をする人もいますよね。仕事を振ったり、任せたりするのは、「見る」こともセットであるはずです。本書では、「任せてみる」を「任せて+見る」と言い換えてみたらどうだろうかと提案しています。
本間氏:
なかには、自分が都合よいように仕事を振り、そのまま放置しておいて、文句を言われたら、「人には修羅場が必要だ」「俺はそうやって成長してきた」なんてことを言い放つマネジャーもいます。そういったマネジャーを放置している人事にも問題がありますよ。