唯一の戦争被爆国として「核なき世界」への動きを主導すべき日本が、その歴史的な第一歩となる決議案に反対した。日本は核保有国と非核保有国の「橋渡し役」を自任してきたが、これでは役割は果たせない。
国連総会の第1委員会(軍縮)で、核兵器を法的に禁止する「核兵器禁止条約」の制定に向けた交渉を、2017年から開始するよう求める決議案が賛成多数で採択された。
国際司法裁判所が1996年に核兵器の使用は「一般的に人道法に反する」との勧告的意見を出し、禁止条約の議論が始まって20年。決議案は12月に国連総会の本会議で採択され、来年から交渉が始まるのは確実だ。禁止条約の制定への動きがいよいよ具体化する。
決議案はオーストリアやメキシコなどが共同提案し、123カ国が賛成したが、日本や核保有国の米露英仏など38カ国が反対し、中国など16カ国が棄権した。
日本は、被爆国であると同時に米国の「核の傘」の下にいる。核軍縮について、核兵器の「非人道性」と安全保障環境の両方を踏まえ、核保有国と非核保有国が協力して段階的に進めるべきだという考えだ。
岸田文雄外相は、決議案に反対した理由を「核兵器国と非核兵器国の対立をいっそう助長し、亀裂を深めるものだからだ」と説明した。
しかし、対立が深いのなら、なおのこと日本は決議案に反対すべきではなかった。反対しておいて、今後、橋渡し役を果たすと言っても、どれだけ説得力を持つのか疑問だ。
今回、米国は決議案が、自国や同盟国の核抑止力に悪影響を及ぼすと強硬に反対し、北大西洋条約機構(NATO)加盟国やアジア諸国に反対するよう求めた。豪州、カナダ、ドイツ、韓国など米国の核抑止力に依存する国々が反対に回り、日本にも圧力が加わったとみられる。
「核なき世界」の提唱国が、核保有国と非核保有国の対立をいっそう深めるような後ろ向きな態度をとったことは受け入れられない。
決議案には禁止条約の内容はほとんど書かれておらず、詳細を決めるのはこれからだ。交渉は来年3月から始まる予定で、岸田氏は参加に前向きな考えを示している。日本は積極的に参加し、核保有国と非核保有国の溝を埋める努力をすべきだ。
一方、日本が提出した核兵器廃絶決議案は、167カ国の賛成多数で採択された。昨年は棄権した米国も、共同提案国となり賛成した。
被爆国として究極的な核廃絶を目指しながら、核兵器禁止条約の具体的な動きに反対する日本の姿勢はわかりにくく、国際社会の疑念を招きかねない。