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第一話 亡霊少女と不良少年
《現代》
午後7時、雪は降っていないが肌寒くもう冬の季節、空は暗い闇に覆われているというのに、都会の街並みは多くの店から漏れ出す光や街灯で昼間のように照らされていた。
大きな街並みには自分の家に帰ろうとする仕事帰りの大人もいれば夜だというのに家に帰らずに遊び続けている少年少女もいる
そんな冬着を着た老若男女の多くの人達が混雑している中で暗くてまったく人気の無いビルとビルの狭間から何かを叩き殴る鈍い音や何かが壁にぶつかっている音が何度も何度も聞こえてくる、だが通りかかる人たちは怖くて関わりたくないあまりにみんな聞こえない振りをして逃げるかのように素早く横通るだけだった。
街灯が設置されておらず暗くて奥まで良く見えないが音の根源を辿って近くまで来てみると、そこには高校2年生か3年生だと思われるボロボロになった三人の男達が自分より一つか二つ年下だと見られる15歳程の少年を囲んで攻撃を仕掛けようとしている
少年は黒い髪のショートボブで身長は180cm近く、服装は膝丈まである黒いチェスターコートを羽織りジーパンを穿いている
ひとりは片耳にピアスを付けてる少年と背丈が同じぐらいの痩せ型と髪をオールバックにしている少年より少し背が高い体格良い奴、もう一人は高校生とは思えない程に体がゴツく身長が190近い色黒の男
素人目で見れば囲まれている少年が不利で高校生達が圧倒的有利だと思えるのだが顔や体中に殴られたり蹴られたような痕や痣が目立っているのは三人の高校生、対して少年はその真逆に涼しい顔をしてまったくの無傷
ボロボロになったにも関わらずに三人の高校生は少年を袋叩きにしようと拳を振りかぶって一斉に襲い掛かって来るが、少年はもうめんどくさかったのか「はぁ~」とため息を付きながら呆れたような表情で高校生達に立ち向かった。
無論、高校生達はやる気の無い少年の態度が絶対に許せず、あまりに腹立たしくて頭に血が上り腸が煮え繰り返っていた。
「このクソガキ舐めやがって......これでも喰らいやがれ!!」
色黒の高校生が暴言を吐き散らしながら一斉に殴り掛かるが、相手の攻撃が全て見えているのか少年は高校生達の縦横無尽の攻撃を意図も簡単に避け続ける
素人では絶対に真似できない、プロボクサーに匹敵するほどの並外れた洞察力と瞬発力があるからこそ出来る術だといえる
少年もただ攻撃を避けるだけではない、攻撃を避けながらも高校生達を一人ずつ潰そうと頭部や鳩尾といった急所に狙い定めて、確実に当てて戦闘不能にしていくことを考えていた。
まず少年の一人目の犠牲者は色黒の高校生、拳を振りかぶったところに少年の強力な右のストレートが顎に一発狙い通りに当たって、色黒の高校生は脳震盪を起こし地面に両膝を付いてその場に倒れ込んだ。
二人目は髪型がオールバックの高校生、相手が拳を振りかぶる前に少年が高校生の髪を左手で掴み上げて腹に膝蹴りを喰らわせたと同時に顔面を一発殴ると左手で掴んでいた髪を手離して高校生は腹を抱えこみその場に蹲った。
「ひぃっ!」
最後の一人になった片耳ピアスの高校生は少年に恐れを為して膝がガタガタと震え出すと無意識に体が後ろへと下がり出して逃げ腰になる、さっきまでの威勢は消えてなくなり戦う気などはさらさら無かった。
そのことを知りながらも少年は何のためらいも無くスタスタと歩いて片耳ピアスの目の前まで近づいて行く
片耳ピアスもただその場に立ち止まらずに少年から遠ざかろうと少しずつ後ろへと下がっていると、片耳ピアスの背中はビルの壁に貼り付けとなって逃げ場が無くなっており、高校生の目の前にはすでに少年が怒ったような怖い目つきで静かに立ちはだかり、相手が怖がっているにも関わらずに片耳ピアスの胸倉を少年は容赦なく片手で掴み上げてビルの壁にべったりと貼り付けにする
「今回は手加減してケガ人はいねぇが、また俺に喧嘩売ったらもう二度と動けないようにするからな?」
「はっ......はい!」
返事をすると少年は怒ったような恐い目付きから安心した顔に変わり掴んでいた片耳ピアスの胸倉をあっさりと手離して、この場から何も言わずに歩いて立ち去っていく、喧嘩が終わり少年は自分の家に帰ろうと混雑している人混みに紛れて街並みを歩いて行った。
手加減したのにも関わらずに三人の高校生を圧倒したこの少年の名前は如月 竜牙、一応だけど高校一年生
両親はもういない、父親は生まれる前に交通事故で亡くなり、母親は竜牙が物心付く頃には重い病気で帰らぬ人となって家族は唯一肉親である双子の弟と二人になった。
そして幼いことから二人は別々の親戚に引き取られ、弟は何も無く不自由に暮らしていたらしいが、竜牙の場合では周りで怪奇現象や不幸なことが起こることから身内や親戚から忌み嫌われて愛情を注がれずに育てられて、中学に上がった頃には親戚に『住む場所も用意するしお金を送るから』と言われて一人暮らしをさせられた。
それからというもの中学に入学した時から現在までクラスや周りと喧嘩に明け暮れた毎日を送り、つい最近から理由があって学校に通ってないし、バイトで生活費を稼いで不良達と喧嘩をするだけの日々
周りや一般世間から竜牙は『不良少年』と見られているのだが、本人は別に喧嘩をするのが好きではなく、むしろ無意味な暴力は嫌いな方
通っている学校でも街並みでも歩けば相手から頻繁に理由も無く理不尽に喧嘩を売られて、いきなり殴りかかってくるので仕方なく喧嘩で返り討ちにしているだけで、少し変わったところもあるが本当は心優しい少年
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スタスタと気ままに竜牙はゆっくりと歩いて街並みを離れて行き、家の通りのすぐそばにある公園を見渡しながら通りかかっていると、一人寂しげにブランコに座っている女性がすぐ竜牙の目に留まって、足をその場で止めた。
綺麗な桃色の長髪で頭には水色の三角巾帽を被っており、水色を基本色として所々に桜の花びらの模様が入っている変わった着物を着た女性
普段こんな夜遅くの公園には滅多に人は来ないし、ましてや女性が一人ぽつんといるなんて持っての他、家に帰る時に毎日この道を通る竜牙はただ珍しくて仕方がなかった。
(......ん? あいつ、こんな時間に何しているんだ?)
竜牙はブランコに座っている女性を一目見たときはキャラクターの名前までは知らないが普通に格好から判断してコスプレイヤーだとわかるのだが、ふと良く考えてみればここら辺でコスプレの祭りが開催していたなんて聞いたことがない
それに寒い冬の季節だというのに着ているのはコスプレのような着物だけで冬着どころかマフラーも手袋も身に付けておらず、竜牙は不思議で気になってほっとけず、このまま黙って見過ごせずにはいられなかった。
公園のブランコに座っている着物の女性に竜牙は心配した表情で目の前まで近づいていくと、女性が近づいて来る竜牙の存在に気づいて不思議そうな表情で見つめてくる
「なぁ......そんな格好でいると風邪を引くぞ?」
心配はしているのだが竜牙は滅多に異性と話さなければ関わりもなく、女性の目の前に立ち止まるとなぜか無意識に緊張してしまう
「あなたは?」
「俺の名前は如月 竜牙だけど、あんたは?」
「私は西行寺 幽々子、ところで竜牙は幻想郷をご存知かしら?」
「...げん...そう...きょう? 何だそれは?」
市町村の名前なのか、それともコスプレイヤーのグループ名なのかもわからない初めて聞く単語に竜牙は戸惑いの色を隠せずにはいられなかった。
それに対して幽々子は竜牙の戸惑いの表情を見ると、まるで状況を理解したかのように、すぐに納得したような表情に変わった。
「知らなかったら良いわ、気にしないで」
「なら良いが......それよりも幽々子さん、着物一枚で寒くねぇのか?」
そう言うと竜牙は羽織っていたチェスターコートを脱いで、中には黒い爪のイラストがプリントされた白い長袖を着ている
脱いだチェスターコートを片手で持って幽々子の目の前に差し出した。
「良かったら、これ使ってくれ」
「えっ、良いの?」
「あぁ、俺は大丈夫だから」
竜牙に差し出されたチェスターコートを幽々子は満面な笑顔で受け取って、竜牙の人肌の温もりが消える前にすぐに羽織った。
「ありがとう竜牙、とても優しいのね」
久しぶりに自分の優しさを喜んでもらうと竜牙は頬を朱に滲ませて、照れ隠しに笑顔で自分を見つめてくる幽々子からふと目を逸らした。
「いや......俺はただ幽々子さんがほっとけなかっただけで、別に大したことはしてねぇよ」
「うふふ、照れ屋さんなのね」
「つっ、ついでだし家まで送ってやるよ」
するとさっきまで笑顔だった幽々子は表情は急に困った表情へと変わった。
家まで送ったら色々気まずいのかなどの考えが、竜牙の頭の中でぐるぐると回って戸惑いと不安に満ち溢れていく
「ごめんなさい私......どこにも帰る場所がないの」
「......えっ? 帰る場所がない?」
「うん......話せば長くなるけど良いかしら?」
「別に構わないけど」
別に今すぐ家に帰らないと駄目なわけでもないし急ぐ用事もない、ここで幽々子と出会って話を聞くのも何かの縁だと感じていた。
立って話を聞くのも辛かったので竜牙は幽々子の隣に空いていたブランコの席に座って、幽々子の事情をただ黙って聞いた。
《少女説明中》
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軽く20分は経ったであろう幽々子の事情を聞き終えて、話の中には信じがたい内容もあるがとりあえず色々な事がわかった。
幻想郷と言ういま竜牙達がいる世界とはまったく異なる世界や幽々子のコスプレと思っていた服や桃色の髪が違ったことなど、驚きの連続だった。
「ふ~ん、なるほどなぁ......」
「それで行く当てが無くて困っていたの」
落ち込んだような表情で「はぁ~」と幽々子がため息をつくと、悩んだ表情を浮かべながら竜牙は右手で後頭部をポリポリと搔いた。
このまま行く当てもない幽々子を置いて帰ることなんて危険すぎて絶対に出来ないが、だからと言って一人暮らしの自分の家に連れて行くのは周りに誤解を招くなど色々な問題事が起きる可能性がある
数分掛けて、悩みながらも竜牙が出した答えは、行く当てもない幽々子をこのまま置いては帰れないという決断だった。
「幽々子さん、もし良ければだけど俺の家に来るかい?」
「えっ? でも私......迷惑にならない?」
迷惑をかけるのではないかと思って幽々子は不安そうな表情を浮かべながらそう言いうと、竜牙は平然とすぐに頷いた。
「別に俺は一人暮らしだから大丈夫だし、それに何処にも行く当てがない人をこのまま放って置けずにはいられねぇよ」
「竜牙......ありがとう」
何の混じり気も無い竜牙の純粋で素直な優しさと笑顔に、幽々子は喜びと嬉しさに満ち溢れていくと優しく微笑んだ。
すると照れたような顔で竜牙が座っていたブランコの席からすばやく立ち上がり、幽々子の目の前に手を差し伸べた。
「じゃあ俺の家まで案内するから」
「えぇ、わかったわ」
竜牙の差し伸べた手を借りながら幽々子は立ち上がると、すぐに二人はその場にいた公園から離れて竜牙が住んでいる家に向かった。
『不良少年』如月 竜牙と『幽冥楼閣の亡霊少女』西行寺 幽々子、この二人の出会いは波乱万丈の幕開けでもあり、そしてこの物語の序章に過ぎなかった。
どうもはじめまして幽々子さまが大好きな破壊の鉄槌です
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