産経の阿比留瑠偉記者による、ほっかほかの記事で、偶然、ネットで見てしまったので紹介しようと思う。なんだかこれだけのバカ記事も久しぶりのような気もする。
慰安婦性奴隷説を明快に否定 「こんなでっち上げを作ったのは日本人だ」と訴えるソウル大教授に学問的良心を見た 2016.10.20 01:00 産経新聞
ネットで話題になっていると言う、李栄薫氏の講演映像についての話なのだが、阿比留瑠偉記者は、韓国語ができないと言うことらしく、当然のごとく、西岡力氏の説明をそのまま垂れ流す構成になっているが、こういう記述がある。
さらに、現在も「慰安婦性奴隷説」を主張し続けている吉見義明・中央大教授の意見についても、「吉見氏の本は根拠が不十分だ」とあっさり退ける。
ほとんどの人は知らないだろうが、李栄薫氏はその著書「大韓民国の物語」の中で、吉見義明氏の著作から多くのことを学んだと、非常に好意的に吉見氏の研究に言及している。実際には、李氏が実証面で依拠しているのは、吉見氏ではなく、秦郁彦氏だと推測されるのだが、そういう評価を口にしているのは、明らかな事実である。機会があれば、その部分を紹介したいと思う。阿比留瑠偉氏や西岡力氏が、絶対に触れることはないだろうと思われるからだ。
おそらく、「李がこう言っている」と言う記述の大半は、例によって誇張、歪曲、デタラメであろう。李栄薫氏が、その著書「大韓民国の物語」で書いていたことと違いすぎる。韓国語ができないのはともかく、阿比留瑠偉記者は、「大韓民国の物語」すら読んでいなかったらしい。
李栄薫氏もその仲間の安秉直教授も、「強制連行は必要なかった」としているのは事実だが、日本の慰安所制度が免罪されるとは考えていない。相対的な位置としては、朴裕河氏よりも韓国世論寄りの立場に位置するだろう。もちろん、「強制連行は必要なかった」というのは、彼らの認識で特別に学問的な裏付けがあるわけではない。
産経は、彼ら韓国の代表的ニューライトを都合よく利用したいというところだろうが、もうやめた方がいいと思うがね。安秉直教授にインタビューした大高未貴の捏造記事騒動のこともあったことだし。大高とは違うと言うなら、実際に産経新聞として、李氏にインタビューして大々的に記事にしたらいいのだ。どうせ、この記事が好評だったら、李氏の土下座事件とか、また派手に蒸し返そうって腹だろう。
西岡力氏は、李氏の発言の背景について、こう説明する。
「昨年末の慰安婦に関する日韓合意により、韓国政府と慰安婦支援団体、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)が対立し、二分された。そのため挺対協の力は落ち、本当のことを言いやすい社会になっている」
上記の西岡氏の分析が正しいならば、李は単なる二枚舌の学者、「良心的」ですらない、政治状況の変動でコロコロ話を変える変節漢ということになる。
ソースが阿比留瑠偉氏と西岡力氏なのだから、さすがに真に受けるのはネット右翼の方々だけだとは思うが、卵十個分安いと言うことで産経を購読している方もいるだろうし、念のために記事にしておきます。
続きを書くかどうかは、ワカンナイです。多分、書くとしたら、既に李栄薫のことを書くと予告している、
朴裕河氏による『朝鮮人「慰安婦」身売り説』を検証する(1) 概説編
朴裕河氏による『朝鮮人「慰安婦」身売り説』を検証する(2) 慰安婦募集新聞広告の話
の続きの中で触れることになるでしょう。ニューライトとしての李栄薫氏には、たいして興味がないし、さすがに私も、阿比留瑠偉氏と西岡氏の記事の分析を真面目にするほどにはヒマではない。
産経の記事チェックしてるくらいだから、どっちかと言うとヒマ人の部類にはもちろん入るがね。
【2016.10.20追記】
実は、李栄薫氏の「大韓民国の物語」は、OCRして関連部分をアップするつもりで、もともと枠だけとっておいたのだが、誰も読まないかなと思って、サボっていた経緯がある。→文献倉庫 朴裕河現象 『日本軍慰安婦問題の実相 李栄薫』は、だからずっと「工事中」になっているのだが、このブログでも一度、李栄薫氏の話題を載せたことがある。改めて探してみたが、例によって産経のバカ記事関連の話であった。→負け戦はつらいよ 産経新聞の歴史戦 ラバウル編。小倉紀蔵氏が、「大韓民国の物語」を評して、「真の愛国者」の著作と評したのは有名であるが、私はそこまで言うのは大げさだと思う。少なくとも、「慰安婦問題」については、李栄薫氏は実証的でもなんでもない。
実は、『日本軍慰安婦問題の実相』 については、Hyung-Sung Kim’s notepadというサイトに本文の画像が貼ってある。興味のある方は参照して頂きたいのだが、全文キチンと貼り付けているわけではない。肝心の吉見義明氏の評価に触れた最後の部分は、意図的に消してある。最後の画像、つまりP147の余白の部分からは、「日本軍の戦争犯罪」と言う文章が続くのだ。意図は分からないが、なんとも手の込んだやり方で呆れる他ない。リンク先に掲載されている本文画像は左に載せた写真だが、実際の本文写真は右である。私が朴裕河氏による『朝鮮人「慰安婦」身売り説』を検証する(2) 慰安婦募集新聞広告の話で言及した新聞広告の話で、論文が終わることになっているのということだ。ネットでこの画像を見た人間は、消された部分で、李栄薫氏が慰安所を「日本軍の戦争犯罪」と語っているとは、夢にも思うまい。
産経のどうしようもないウンコ記事相手とは言え、乗りかかった泥船である。改めて、十年ほど前の李栄薫の論文『日本軍慰安婦問題の実相』 から、最後の部分だけを短く引用する。
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日本軍慰安婦問題の実相 李栄薫
(前略)
日本軍の戦争犯罪
以上が女性たちを連れていった様々な経路についてでした。ただ話はそれだけでは終わりません。こうしたことを企画し、そして演出した最終的な責任者が別にいます。他でもない軍部と総督府です。日本軍の首脳部は慰安所の設置を命じました。彼らは業者を指定し、女性たちを集めるように指示しました。そこに総督府が同調したわけです。列車に乗って国境を越え、港から船に乗るためには旅行証明書が必要な時代でした。女性たちの行列が慰安所に向かっているのは、あの時代における常識でした。それは当時の法に照らしても人身略取と就職幹旋許欺に該当する重大な犯罪でした。にもかかわらず総督府の取締官憲はそれを黙認しただけでなく、旅行証明書を発給することによって協力したのです。それゆえに募集の文句に惹かれて慰安所に向かった女性たちの列が絶えなかったことは、つまり日本軍と総督府が共謀した人身略取の犯罪行為でした。慰安所の女性たちには行動の自由がありませんでした。定期的に衛生検診を受けねばならず、自由な外出は禁止されていました。女性たちは性奴隷に他なりませんでした。
日本軍慰安婦に関する研究の権威である吉見義明教授によれば、日本軍と日本国家は次のようないくつかの根拠により、国際法が禁じている非人道的な罪を犯していました。吉見先生は日本の防衛庁図書館において日本軍が慰安婦募集に関与していたことを立証する文書を探し出したことでよく知られています。まず第一に、日本軍と日本政府は売春による婦人と児童の売買を禁止した一九一一年の国際条約に違反していました。この条約によれば、本人の同意がなくては、あるいは二十一歳未満の未成年の場合は同意があったとしても、売春を目的として彼らを海外に送ることは不法行為でした。日本軍と日本政府はこのような犯罪行為に対して、直接に手を下していないとしても、犯罪行為を教唆した責任は免れません。また第二に、日本軍と日本政府は一九〇七年に締結された強制労働を禁じる国際協約にも違反していました。この協約の中には女性の強制労働を禁止する規定も含まれています。第三に、慰安所の女性たちが奴隷である点についてはすでに指摘した通りです。そして第四に、慰安婦の中の相当数は二十一歳未満の未成年者でした。未成年者の強制労働は国際法が禁じている犯罪行為であることは再言を要しません(吉見義明「『従軍慰安婦』問題で何が問われているか」/『歴史と真実』筑摩書房、一九九七年)。私は、以上のような吉見先生の主張に賛成です。いえ、むしろ多くのことを学びました。日本政府は吉見先生の主張に耳を傾ける必要があります。もし戦時期に日本軍がしでかした非人道的な戦争犯罪に頼かむりをするつもりでしたら、実に寒心に堪えないことです。(P147~149)
出典:李栄薫 永島広紀 訳 「大韓民国の物語」 文藝春秋社 2009年
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阿比留くん、産経の記者という因果な商売とはいえ、今度、こんなバカ記事書いたら、次からは呼び捨てだ。覚悟しておいてちょw。
お久しぶりです。
原善四郎氏の記事でお世話になったものです。
最近の慰安婦論争をフォローしていないので、そちらの記事を定期的に拝見しております。
李先生が考えを変えて吉見先生を批判するようになったのか、西岡氏が適当なことを書いているのか、気になりますね。
大高氏の「どっちが吉田清次(嘘つきの例え)なのか」は衝撃的でした。(嘘つきは自分のことかよ、という)
ですから、気持ちはわかるのですが、あまり汚い例えはやめた方がよいと思います。
訪問者が引いてしまうかもしれないからです。
このコメントは削除して構いません。
その際は、貴重な情報をありがとうございました。大変、参考になったことを覚えております。
で、この記事は、実はネット右翼の諸兄が、読むことを意識したもので(もうあちこちでリンク貼ってます)、このくらいゲヒンにしてもいいかなと言うアタマがありましたが、ちょっと度が過ぎてましたね。ということで、本来、読んで欲しい方々が読んでも、不快に感じないレベルを目指して、修正しました。
大高女史は、最近、文春から新潮、産経に舞台を移して活躍中ですが、またまた、どうしようもない記事を書きました。吉田清治とKCIAの関係だそうです。もう、こうなってくると、ムーとかの類かと思うのですが、これも、一応は記事として取り上げる予定です。
で、ちょうどいいタイミングというか、遅ればせながら、鄭栄恒氏の『忘却のための「和解」』を読んでいたのですが、ちょっとビックリすることが、書かれてました。本題の朴裕河のことではなく、関特演がらみの話で、あの村上元曹長が、NHKのETVに出演し、インタビューに答えていたと書かれています(P145)。
うーん、知らなかったのは、私だけかと思ってしまったのですが、何か情報をお持ちでしょうか。1996年の放送分で、ひょっとしたら、秦氏の言う、村上元曹長が、満州の駅で、業者を割り振ったと言うのは、この番組の話が元なのかもしれません。
勝手なお願いで申訳ありませんが、よろしくお願いします。
返信ありがとうございます。
私もはじめて知りました。
何かわかればまた書き込ませていただきます。
『ETV特集 アジアの従軍慰安婦 五十一年目の声』1996年12月28日 NHK教育だそうです。
今のところ、内容を私の方で確認する術は、ちょっと考え付きません。いざとなれば、鄭さんにメールでも送って、教えてもらおうと思ってます(面識は全然ありませんが)。
ネット検索してみたら、当時の番組ディレクターの一人大森淳郎氏は、まだNHKに在職中のようで、インタビューについても、放送されなかった詳しいことも分かるかもしれません。
通りすがりさんに限らず、何か情報がある方、ご教示お願いします。
関特演時の慰安婦「調達」については、今まで書いた記事群を以下から参照願えたらと思います。
http://satophone.wpblog.jp/?page_id=17
あと、これ(黒竜江省档案館が公開した文書)についての記事
ピンポイントで関特演の時期の慰安婦「調達」と時期が一致しています。実は、自分でもどこにこの記事を書いていたのか忘れて、探すのに難渋しましたが、以下に、黒竜江省档案館が公開した文書の概要について書いています。
http://satophone.wpblog.jp/?page_id=805#suifunga