三陽商会は28日、「構造改革と新経営計画の目指す方向性」と題する経営改善策を発表した。不採算のブランドを追加で2つ廃止するほか、保有株式やゴルフ会員権の売却などを進める。2017年2月に正式な新経営計画を発表するという。
同日発表した16年1~9月期の決算は、売上高が前年同期比35%減の478億7500万円だった。百貨店販売などが不調で、16年12月期通期は売上高が700億円、最終損益は95億円の最終赤字に沈む見通しだ。
ここ数年の業績の不振を受け、同社は今年7月に当初の中期経営計画を撤回した。10月に新しい計画を発表するとしていたが、間に合わなかった。杉浦昌彦社長は28日に開いた記者会見で「次世代を担う若手らとともに将来あるべき姿を模索している。いましばらく時間をいただきたい」と弁明した。
大手アパレルの一角である三陽商会の転機は15年。一時は売り上げの半分近くを占めたとされる英バーバリーのライセンス契約が切れたことだ。稼ぎ頭を失った同社が「後継」として百貨店に出したのは、マッキントッシュロンドンと、ブルーレーベル/ブラックレーベル・クレストブリッジの新ブランド。随所にあしらわれるチェックの模様に、成功体験だったバーバリーへの郷愁がにじむ。
「あれはまさに神風だった」。三陽商会のある社員は、19年前の出来事をこう振り返る。
1997年10月。女子高生を中心に髪形や服装をまねる「アムラー」という社会現象を巻き起こした歌手の安室奈美恵さんは、当時20歳で結婚した。記者会見の際に着ていたのが、バーバリー・ブルーレーベルのチェックのミニスカート。約2万円の商品は、翌日から飛ぶように売れた。同社の売上高もリーマン・ショックまでは1300億~1400億円程度を維持していた。
だが、リーマン後、消費者は数万円の商品よりも手軽なファストファッションを好む傾向が鮮明になった。ネットやスマートフォン(スマホ)が普及し、消費の選択肢が増えたことも背景にある。追い打ちをかけたのが、バーバリーとの契約終了だ。デサントが独アディダスを失った際もそうだったように、日本でのビジネスが育てば育つほど海外の「本家」はより稼げる直接経営に乗り出す傾向がある。知名度を活用できる海外ブランドのライセンス事業は、もろ刃の剣でもある。
三陽商会はブランドの廃止や早期退職の募集など大規模なリストラを進めている。だが、バーバリーの後継ブランドが不振なまま、次の成長の原動力には育っていないのが現状だ。来年2月に発表するという新計画にどこまで具体策が盛り込まれるかは不透明だ。
日本政策投資銀行によると、百貨店の販売額は91年をピークに縮小しており、オンワードホールディングスやレナウンなど競合他社も含めて業績は振るわない。各社はネット通販や百貨店以外のショッピングセンター(SC)向け商品などに活路を求めるが、少子化が進む国内市場では急激な伸びも期待しにくい。
アパレル不況ともいわれる現状を、バーバリーを失った三陽商会はどう生き抜くのか。百貨店や商社といった衣料品に関係者だけでなく、幅広い業界が注目している。(佐竹実)