毎回一人の映画人をゲストに迎え、あるテーマに沿って3本の邦画を厳選してご紹介していきます。
今回の映画人
映画監督 本広克行
1965年生まれ、香川県出身。高校を卒業後、映画学校、映像制作会社を経て、1996年に初の映画監督作品『7月7日、晴れ』で劇場デビュー。2003年に公開された映画『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』では、日本映画(実写)興行収入記録歴代1位の座を獲得。その後もドラマ・演劇・アニメ・ゲーム・MV・ショートムービー・CM・映画祭のディレクターと、活動の場は多方面に渡る。
今回のテーマ : アイドル映画
1本目
『幕が上がる』
ももいろクローバーZメンバーの驚異的な成長がそのまま焼きついた青春映画
ももいろクローバーZの5人に高校の演劇部員を演じてもらったんですが、初めはどうなるか不安でしたね。やはり演技の経験は少ないですし、この映画は日常生活のところと、舞台に立って芝居を見せる劇中劇のシチュエーションもあって、とても演じ分けが難しいんです。そこでまず5人に、原作を書かれた劇団“青年団”の主宰、平田オリザさんのもとでがっつり、ワークショップを受けてもらいました。で、クランクインしたんですが、映画のためにももクロのマネージャーさんに1ヶ月半、スケジュールを空けていただいたんですよ。めちゃくちゃ忙しい身なのに! それで順撮り(物語の時系列どおりの撮影)が可能となり、結果、ももクロの5人もさらに上手くなっていき、僕の予想以上の映画に仕上がりました。
とにかく“ももクロ力”というのか、5人の頑張りはスゴかったですね。弱音ひとつ吐かず、追い込まれれば追い込まれるほど力を発揮する。完成作を御覧になった平田オリザさんが、「青年団の舞台に出したいな」とおっしゃったほど。あの日本を代表する劇作家で演出家のオリザさんがですよ! 彼女たちも素晴らしかったけど、新任の先生で演劇部を見守る顧問的存在になる黒木華さんがまたとんでもなくて!! 黒木さんはすでに名実ともに日本の映画やドラマを牽引する若手の筆頭なんですが、高校、大学とみっちり演劇活動をされていて、舞台経験も豊富。だから、かつて学生演劇の女王と呼ばれていた過去を持つ役もぴったりでしたし、ももクロの5人にとてもいい刺戟を与えてくれましたね。
僕自身は、原作を書かれたオリザさんの思いもあるし、ももクロのファン・モノノフの皆さんの期待にも応えたかったので、「いつも以上に力を出し切らないといけないな」って。そんな気持ちで挑みました。実は事前に、大林宣彦監督と山田洋次監督にアドバイスをいただく機会を得たんです。大林監督はアイドル映画の巨匠でもありますから、撮影の方法についてあれやこれや質問してしまいました。もう半分、一ファンに戻って(笑)。山田監督は“映画の構造”に関して丁寧に教えてくださって、監督の新作『母と暮せば』のスケジュール表の裏面に鉛筆でいろいろと……それ、今も額装にして自分の部屋に飾っていますよ。超レアものですから。
設定として彼女たちの学校は静岡にあり、演劇部はどちらかというと弱小の部類に入るんですが、だんだん意識が変わっていき、全国高等学校演劇大会を目指し、全力で演劇に打ち込んでいくんです。東京へとやってきて、黒木さん扮する先生がみんなに夜の新宿の高層ビル群のまばゆい光線を見せる場面、カメラは彼女たちのまわりをぐるぐると動いて捉えるんですね。そのシーンを大林監督は「僕の映画と繋がってる」とおっしゃってくださいました。似ているシーンがあるわけではないんですが、どこか精神が通じていて、「モトちゃん、あれを観たとき、君が僕の後継者だと思ったよ」って。これはホントに嬉しかったですね。
2本目
『すかんぴんウォーク』
映画史に残る鮮烈な登場シーンで幕を開ける吉川晃司の伝説的映画デビュー作
吉川晃司さんのデビュー作で初主演映画『すかんぴんウォーク』は、僕が一番好きなアイドル映画です。高校1年のときに観たんですが、衝撃を受けましたね。広島から上京してきた青年が芸能界にスカウトされ、歌手デビューし、さまざまな人間模様が描かれていくという、プロットだけ聞くとまあ平凡なんですが、大森一樹監督の演出がキレまくっていて痺れるんですよ! 丸山昇一さんの脚本も、「これ、松田優作をイメージしながら書いたんだろうな」って想像できる超カッコいいセリフの嵐。丸山さんは優作さんと名コンビでしたからね。
デビュー作ですからまだ、そんなに演技は上手くはないんです。でも、その青い感じが好きで、二度と撮れない瞬間を切り取っている。吉川さんの登場の仕方がぶっ飛んでいてカッコよくて! 冒頭、東京駅から東京湾までずーっと空撮で行くんですよ、街並みを映しながらワンカットで!! その間に出演者のテロップが出され、やがてカメラが地上に寄っていくと湾岸の作業員の人たちが何かを見ているんです。で、カットが変わると、吉川さんがバタフライで海を泳いでくる。そして岸まで泳ぎきって海から上がり、地上に倒れこむと作業員のひとり、小松政夫さんが「アメリカから来たんかい?」と尋ねる。「中国」と答えると別の人が「上海?」と聞き返すし、「広島」と笑って答え、小松さんが「中国地方ねえ」と感心すると、ブリッジしてぱっと起き上がって、腰に巻いていた濡れた白いシャツを着て半ズボン、裸足のまま走り出し、そこにタイトルが出る!!! この登場シーンは映画史上の傑作だと思います。
実際に吉川さんは広島出身で、僕は四国、香川県の出身。地方出身者なので都会に出て、主人公が成りあがってゆく姿は相当憧れましたね。“民川裕司”という名前でどんどんスター街道を突き進んでいくんですが、彼には東京に来てから知り合い、親友となった歌手志望の“貝塚吉夫”がいて、運命によって袂を分かつことになる。その“貝塚”を演じた山田辰夫さんがまたいいんです。泣けるんですよ! 二人が別れていくときの感じとか超ハードボイルドで、舞台となった公園、探して行ったなあ(笑)。脇を固めている方々もスゴく、蟹江敬三さん、室井滋さん、原田芳雄さん、田中邦衛さん、宍戸錠さん……と豪華なんですよね。
いろんなところで「『すかんぴんウォーク』が好きだ!」という話をしているうちに、「俺もあれ、好きなんだ」って同世代の人たちが集まってきて、『すかんぴんウォーク』友の会ができたんですよね。DVD化されていないので、貴重なVHSをみんなで観るんです。『ユー・ガッタ・チャンス』(85)、『テイク・イット・イージー』(86)も含め「民川裕司3部作」を。おっさんたちがビールを飲みながら、ワイワイと。映画ってホント、そういうときが楽しいです。いつか吉川さんと何かご一緒したいなと前から思っているんですけどね……そういえば放送中のテレビドラマ『下町ロケット』の吉川さんがまたカッコよくて。僕が観たとき、セリフを言ったあと、がっと回ってステップを踏んだんですよ。さすが演出の福澤克雄さん、分かってるなあって思いました(笑)。
3本目
『時をかける少女』
「幕が上がる」にも取り入れた“大林メソッド”による究極のアイドル映画
『すかんぴんウォーク』って当時の渡辺プロの社長・渡辺晋さんが、吉川さんを売り出すために何億というお金をバーンと出してプロジェクトを立ち上げた、“オーナーズ映画”なんですよね。オーナーズ映画って面白いものが多いんですよ。この『時をかける少女』もプロデューサーの角川春樹さんが、主演で映画デビューされた原田知世さんのために作ったもので、製作費の一部は角川さんのポケットマネーだったそうです。「いい子すぎるのでこれ一本で芸能界を引退させよう。だから記念に映画を作ってプレゼントしよう」と。それを引き受けた大林監督も「彼女を輝かせようとひたすら愛した」とおっしゃっていました。
大林監督の“尾道三部作”の1本なんですが、ストーリーはもう有名ですよね。原田さん演じる高校2年の“芳山和子”が、実験室でラベンダーのような匂いのする薬品を嗅ぎ、以後、タイムリープとテレポーテーションによる不思議な体験をするようになる。SF的な設定の中、青春期の切ない心情が綴られてゆくんですけど、当時15歳の原田知世さんがとにかく初々しくて、演じている彼女の成長がそのまま役柄の成長と重なっていくんですね。その意味で、ドキュメンタリー映画であり、また原田さんの究極のアイドル映画になっている。『幕が上がる』でももクロを撮る際、僕もこのことは意識しました。
ホント、『時をかける少女』には多大な影響を受けていますね、いろいろと。チャレンジ精神に関してもそうです。83年当時、ラベンダーの匂いでタイムリープしていく展開をビジュアル化するのは冒険的なことで、あれをメジャーな映画でやったというのは勇気のいることですよ。まだVFXがそれほど発達していない頃ですから。オプチカル処理とマット合成でやるしかない。まあ、大林監督はあえてあの手法を取り入れたんでしょうけれども。最近の作品を観ると、そう思いますね。
先ほど、『幕が上がる』を撮影する前に「大林監督にお話を伺った」と言いましたが、直球の質問で「どういうふうな演出をして、自然体の知世さんを映しだされたんですか?」と訊いたら、「カメラの横にいつも僕がいたんだよ。彼女はカメラ=僕に恋をしてたんだよ」と答えられました。なので僕も『幕が上がる』のときは、大林さんと同じようにやりましたよ、カメラの横に立って演出を(笑)。でも、ももクロは5人いるから自分なりにちょっとアレンジをしましたが。『時をかける少女』の有名なエンドクレジット、同名主題歌を唄いながらそれまでのシーンを巡っていき、最後に下駄を履いた原田さんが遠くからこちらに駆け寄ってくるカットも、『幕が上がる』でオマージュを捧げました。あれ、原田さんは駆け寄ってきてラスト、カメラの前で実に自然に微笑まれるんですよね。「大林さん、あれ、どうやって撮ったんですか?」とこれも伺ったら、「もちろん、僕を見てたんだよ」って。あの知世ちゃんにどれだけ恋したことか。ちょっと夢が壊れました(笑)。『幕が上がる』のラストでは、誰とは明かしませんが、ももクロの5人の目線の先にいたのは……僕、ではなかったとだけ言っておきます。
(取材・文/轟 夕起夫)
映画『幕が上がる』関連作
舞台「転校生」
12月13日(日)午後11時よりBSスカパー!にてTV初放送!!
(再放送:12月29日(火)午後5時15分)
『幕が上がる』と同じ平田オリザ×本広克行コンビが今夏手掛けた話題の舞台「転校生」をBSスカパー!でTV初放送。オーディションにより選ばれた21世紀に羽ばたく21人の女優たちの熱演は必見!
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