【富司純子 あるがまゝに】(18)「新しい監督、役の色に染まりなさい」
富司純子の女優としての存在は、人にどんな影響を与えているのだろうか。現在、東映社長の多田憲之(67)は、まさに「緋牡丹博徒」の“お竜さん”に憧れてこの会社を選んで入った1人だ。
同作が始まる1968年は学生運動が盛んなころ。ロックアウトで授業がなく「自堕落な学生生活を送っているとき、映画館で見た。こんなにきれいな女性が、この世の中にいるのか、と驚いた。ここに入れば、いろんなスターさんにも会えるかもしれない。理由はシンプルでした」。
めでたく就職試験に受かったが、入社したのは72年4月。そう、富司はこの年に結婚。1月に引退記念作「緋桜関東一家」が封切られ大ヒットし、3月に盛大な挙式が終わった直後だった。一世風靡(ふうび)した後の落ち着きは、任侠(にんきょう)映画そのものの“終わり”を意味していた。
東映の社長でありながら、「富司さんの作品はほとんど見てますが、引退作品だけは、まだ見ていない。あえて見ないんです」という徹底ぶり。心の隅に残って消えることのない「時をそのままにしておきたい」気持ちの表れのようだ。
「銀幕で見る人はみんな雲の人。富司さんのキリッとした、口を一文字に結んだ表情が特に印象的で。カッコよかった。しかもあれだけのスターがいま、助演でもすばらしい演技を見せている。なかなかできることではありません」
女優の上白石萌音(18)は2014年に初主演映画「舞妓はレディ」(周防正行監督)で富司と共演。舞妓(まいこ)を夢見る主人公(上白石)と、その修業先となるお茶屋の女将(富司)という役だった。
公開時、富司からこんな言葉をもらったという。優しい口調だった。「常に真っ白でいなさい。そして新しい監督、新しい役に出会う度に、その色に染まりなさい」。「そのとき『自分の色を持て』『何色にも染まるな』などと言われ、悩んでいた。モヤモヤが晴れるようで。いまも大事にしている言葉なんです」
10年放送のNHK連ドラ「てっぱん」で、富司は実生活より早くおばあちゃんになった。ヒロイン瀧本美織(25)演じるあかりの祖母、初音役の好演はいまも語り草になっている。普通のおばあちゃんと孫の関係ではなかった。天真らんまんな孫に対し、18年前に絶縁した娘への思いを胸にしまったままの初音の口数は少なかった。でも収録から離れると、違った。
「富司さんはいつも私の心配をしてくださって。ご飯に行ったときは『いいのよ。たくさん食べなさい。遠慮しなくていいのよ』と。ずっとお話ししていたように思います」
瀧本にとってこの作品が初ドラマ。泣くシーンなどで感情を込めすぎ、うまく表現できないときがあった。「そんな時は『本番じゃないから大丈夫』と。安心して温かい富司さんの懐に飛び込むだけでした」。女優としては「自分らしさを大切に。そのまま変わらないでいいのよ」と言われたことを覚えている。「演じられる幸せ」は、若い世代にも確実に伝わっている。(編集委員・内野 小百美)=敬称略=
◆若い世代「見守る」
富司は17歳で女優デビューして、しばらく試行錯誤した時期がある。流されやすい芸能界で信念を持つことの難しさも知っている。それだけに、若い世代の女優と一緒に仕事をする際は「仕事がしやすいよう、すくすく伸びていくのを見守るスタンスでいたい」と話す。