ロシア国営天然ガス会社のガスプロムと欧州連合(EU)は、EU競争法(独占禁止法)違反問題をめぐる争いを和解で決着させる方向になった。巨額の制裁金や排除措置ではなく、法的拘束力のある問題是正の確約によって5年に及ぶ調査の幕引きを図る。
ガスプロムは過去の反競争的行為に対する制裁金を逃れるために、欧州でのガス販売についてEUの様々な要求に従うことになるが、厳しい処断を求めてきた東欧・バルト諸国の怒りを呼びそうだ。
和解が成立すれば、EUの執行機関である欧州委員会が抱える独禁法違反をめぐる最も重要な戦いの一つが、転換点を迎えることになる。
旧共産圏のEU加盟国は、エネルギー供給を牛耳るロシアの独占的企業に対してEUの強力な独禁当局が自分たちの利益を守ってくれるのか、試金石になるとみている。
特にポーランドとリトアニアは、ロシアがガスを政治的道具として使っていると見なし、不当な価格に対処しないEUに非難の矛先を向けている。
和解の最終案は間もなくガスプロムから欧州委員会に提出される。同社が従来の価格政策を段階的に改めていくとする内容だ。その後は「市場テスト」と呼ばれる第2段階に入り、欧州委員会の最終決定前に利害関係者に異議申し立ての機会を与える。
ポーランドのある政府高官は、和解方針の発表には「プラス面」もあるが、「テイク・オア・ペイ」(買い手に最低限の引き取りを定める)というガスプロムのやり方に対する解決策が含まれていない、と言う。
EUの競争政策を担うベステアー欧州委員とガスプロム幹部のメドベージェフ氏が会談した後、双方が和解を望む意向を示した。
メドベージェフ氏は、ガスプロムは「確約案の最終仕上げ中」で「間もなく欧州委員会に送られる」と述べた。
ベステアー氏は、和解案はプロセスの始まりにすぎないかもしれないと強調した。
「もちろん現段階では、あらゆる選択肢がテーブルの上に残っている」と、ベステアー氏は語った。「前進はしたが、まだこの先にかなりの仕事が残っている。我々の目標は、欧州の家庭と企業に最善の結果を得ることだ」
■まれにみる欧州とロシアの和解案
欧州とロシアの政治的関係がウクライナ問題で緊張し、さらにシリア問題で大きく悪化したなかで、この和解案はまれに見る経済的関係修復への動きだ。
欧州委員会は、ガスプロムが以前から求めていたオパール・パイプライン経由でドイツへのガス輸送を増やすことも認める構えだ。ガスプロムにとっては、ウクライナ経由でガスを送る必要がさらに減ることを意味する。
どちらとも、必然的に政治色を強く帯びた欧州委員会の法的な判断だ。
ガスプロムに対する調査は欧州委員会の最大の懸案の一つであり、和解で決着させる方針はベステアー氏による重要な戦略的決断だ。
欧州委員会が2011年に最大規模の立ち入り調査とともに開始したガスプロムに対する調査は、次の3点を大きな焦点とした。ガスの国外への再販を阻む契約条件、ガス供給とパイプライン投資の結びつけ、そしてブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランドに対する不公正なガス価格設定だ。
By Rochelle Toplensky & Jack Farchy
(2016年10月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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