2020年東京五輪・パラリンピックの会場見直しをめぐる騒動は「小池劇場」とも呼ばれている。多彩な登場人物に勝手に配役を振ると、主役はもちろん東京都の小池百合子知事で、敵役は元総理の肩書を持つ大会組織委員会の森喜朗会長。重要な脇役として国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長、さらに各国際競技団体の幹部たちが次々と舞台に上がる。
■バッハ会長の駆け引きの巧みさに驚く
濃いキャラがそろう登場人物を見ながら、それにしてもと思ってしまう。「どうして、開催国日本の競技団体にこうも出番がないのだろう」。今のままでは、その他大勢の端役でしかない。
18日に来日して忙しい行事の合間を縫って関係者と会談したバッハ会長の政治的な駆け引きの巧みさには驚いた。本業は弁護士だそうだが1976年モントリオール五輪のフェンシング金メダリスト。日本にはまずいないタイプの元アスリートだ。小池都知事と公開の席で対峙した時には、知事の口から出た「復興五輪」という言葉にはまったく反応しなかった。ところが、翌日の安倍晋三首相との会談では自ら「20年大会では複数種目を(東日本大震災の)被災地で開催したい」と提案。記者からの質問に具体例として野球・ソフトボールを挙げた。
具体的な競技や会場名には触れずに原則論に終始した小池知事との会談で、双方の念頭にあったのはボート競技とカヌー・スプリント種目の海の森水上競技場(東京湾臨海部)から長沼ボート場(宮城・登米市)への会場変更。IOC会長としてその場で「復興五輪」に賛同すると、会場変更にお墨付きを与えたことにもなりかねない。かといって、明確に否定すると対立が表立ってしまう。だから無視したのだろう。そして首相との会談で被災地での競技開催を提案。具体的に野球・ソフトボールを示したことで逆にボート、カヌーの会場変更への流れをけん制した。「復興五輪なら、ボート、カヌーでなくてもできます」と示唆したわけだ。
■ボート会場、仮設施設が落としどころ?
もともと野球・ソフトボールは福島県で開催することを組織委で検討しており、なんら新しい提案ではない。ただIOCトップがそれを言葉にすることで、復興五輪があらためてクローズアップされた。前日に復興五輪を訴えた小池知事の顔を立てる形にもなっている。
小池知事は28日にも会場見直しに関して一定の結論を出すが、おそらくボート会場については、海の森水上競技場のコストを削減した案と宮城・長沼案の両方を残し、来月の都、組織委、国にIOCも交えた4者による作業部会で結論を出すことになりそうだ。落としどころは海の森の大幅なコストカット、場合によっては仮設施設として整備するという結論になるかもしれない。