フィリピンのドゥテルテ大統領が一連の発言で東アジアを揺るがしている。米国に「決別宣言」を突きつける一方、中国に接近する外交路線が日米に打撃なのは間違いない。ただ、ここは日本が存在感を高めるチャンスでもある。
ドゥテルテ氏は10月20日、公式訪問した中国で「米国と決別する」と述べた。かと思うと、訪日直前の24日にはマニラで会見し、米国との関係について「まったく変わらない。私は口が悪いだけだ」と軌道修正した。
中国では「米国との決別は中国から経済協力を引き出す狙いで言っただけ」という「ドゥテルテの詐欺論」まで出ているらしい。決別と言っても、米国との軍事同盟解消や中国との同盟締結といった極端な戦略転換に踏み込む可能性もなさそうだ。
発言は揺れているが「米国との合同軍事演習は今年限り」と明言している。大筋で米国と距離を置く一方、対中関係は強化していく方針とみていい。
そもそも米国とフィリピンの関係は、これまで安定していたとは言えない。
米比相互防衛条約を結ぶ一方、旧ソ連が崩壊すると安全保障環境が変化し、国内で「ヤンキー・ゴー・ホーム(米国は帰れ)」の声が高まった。ピナツボ山の噴火で米軍基地の滑走路が使用不能になった事情もあって米軍は1992年、フィリピンから完全撤退する。
すると中国は95年、米軍撤退で生じた軍事力の空白を突いて、フィリピンと領有権で争いがあったミスチーフ礁を嵐の夜に実力で奪取してしまった。実効支配は今日まで続き、埋め立てによっていま3000メートル級の滑走路が出来ている。
中国の脅威が高まると、フィリピンでは一転して「米国に戻ってほしい」という声が強まり、2014年に米軍のローテーション駐留を再び可能にする協定を結んだ。ことし3月には米軍がフィリピン国内の5基地を使える協定も結んだばかりだ。
ところが、5月の大統領選でドゥテルテ氏が当選し、再び米比関係の雲行きが怪しくなる。米国はドゥテルテ氏が麻薬撲滅対策で「裁判なしに容疑者を処刑している」と批判を強めた。ドゥテルテ氏は強く反発して、今回の決別宣言に至っている。
そもそもドゥテルテ氏がなぜ米国を嫌っているのか、については諸説ある。
「米国との決別」講演では、現代ビジネスの同僚筆者である近藤大介氏が訳出しているように、ブラジル訪問の際に立ち寄った米国で税関当局とトラブルになった経験を語っている(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50048)。
ドゥテルテ氏が市長を務めていたダバオで起きた2002年のホテル爆発事件で、米国の捜査当局とみられる人物が事件に関係する米国人を一方的に国外に連れ出した件が響いている、という見方もある。
いずれにせよ、かつての宗主国である米国に対する反植民地感情が底流にあるのは間違いなさそうだ。NHKのインタビューでは「フィリピンでフィリピン軍以外は見たくない」と語っている。26日の講演では、2年以内に米軍のフィリピンからの撤退も求めた。
米国とすれば、なんとかフィリピンをつなぎとめて良好な同盟関係を維持したいところだが、アジアの対中包囲網からフィリピンを失いつつある現状はもはや否定できない。「Lost Philippine」は、いまそこにある現実なのだ。
大統領選が最終盤を迎えている米国はいま、とてもフィリピンどころではないが、遅かれ早かれ、次期政権は東アジア全体の戦略を見直さざるをえないだろう。